第五話 八本脚の蝶(7)
良かったこともありました。エロイーズと友達になったんです。親友と呼んでもいいほどでした。
最初はあまり好きではありませんでした。でも、社交家なエロイーズは向こうから話し掛けてきて、自然と付き合うようになったんです。
当然、話題はお互い知っているアルフレッドのことになりました。
「一本気な人だったよね」
エロイーズはいつも言っていました。彼女は二十になる前に親の勧めるまま結婚して旅籠屋の奥さんになり、たくさん子供を産んでいました。
「え? そうかな」
私はあまり納得がいきませんでした。幼い頃の彼を知っているからでしょうか。
「何をやらせてもうまく出来てね。勉強も、運動も。だから好きになってわけじゃないけどさ」
「何で好きになったの?」
「優しかったから」
漠然とした答えですよね。
「うっそ」
思わず否定してしまいました。
「あなたには優しくなかったの?」
「ぜんぜん。ずっと放っておかれたよ」
「それ、ひどくない?」
エロイーズは同調してくれましたが、半笑いで私の話を信じてはいないようでした。
「ま、私の方が付き合いは長いから」
自然と張り合うような言い方になってしまいました。別にそんなつもりなかったのに。
「でも、出て行く前の日まで一緒にいたのは私だからね!」
エロイーズは自慢するようでした。
「アルフレッド、何か言ってた?」
どうしても知りたくなりました。
「変なこと言ってたな。この世の中には八本脚の蝶がいる。俺はそれを探しに行くんだって」
私は自分のデタラメをアルフレッドが心から信じてしまったことに罪悪感を覚えました。だから、思わずエロイーズにそのことを全部話してしまった。
「なら、作ればいいじゃん」
「ええ?」
「実在しないなら、作ればいい。そうすればアルフレッドも気付いて帰ってくるかも知れないよ」
「でも、音信不通なんだよ?」
もうその時には私たちも二十の後半だったので、アルフレッドのことも昔の思い出になりつつありました。
でも。
「ドールヴィイでは大きな蝶の展覧会が公会堂で毎年開かれて色んな人が来るからね。そこに八本脚の蝶を置けば話題になってアルフレッドも気付くかも知れない」
わずかな望みの綱があるなら、試してみるのもいいかと思いました。
最初はほんと下手くそなものでしたよ。でも二人で一緒になって蝶を作るのは楽しかった。展示されている実物とほとんど変わらないかたちになるまで何年もかかりました。
エロイーズは色々奥さん仲間の伝手を頼って、良い素材を仕入れてくれて。子供を寝かしつけるとエロイーズはわたしの家に来て、一緒に蝶を作りました。
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