第2章 第11部 第17話
そして豊穣祭当日がやってくる。
学園の二年生達は、儀式の行われる神殿の正面に姿を置いていた。
神殿の正面から二十メートルほどの距離を置き、正面の通路を開けて、左右三団体ほどに分かれ、直立しその儀式を見守ることとなる。
新伝承面には、社の扉があり、その正面には十メートル四方の屋根付きの舞台があり、左右には廊下が延びているという構造になっている。
社は、その廊下にぐるりと取り囲まれ、左右には別棟がある。
卑弥呼の登場は、東側の宮廷から行われ、儀式後行われ、西側の宮廷へと去ることで、一通り完了となる。
それが豊穣祭の儀式となるのだが、この日は卑弥呼の成人式も執り行われる音となっている。
それは先代の卑弥呼から時代の卑弥呼への譲位の儀式でもある。
つまり、それを持って彼女は本当の意味での卑弥呼となるのだ。
舞台の両袖には、既に雅楽隊が配置されており、彼女達は神楽を舞うのだ。
卑弥呼は天女であり巫女であり、この国に幸を使わす者である。そして裏側で厳かにそれを祈り行くのがその役割だ。
それを踏まえ、此度の豊穣祭は異例中の異例だ。
舞台や中庭の広さは、百万の神々を招くために、計られたものだという。そもそも、人が彼女を拝するためにあるわけではない。彼女が神々にその謝意を示す場でもある。
その上で、彼女は人々の幸を願うのだ。
康平は、鋭児の代わりに、F組の筆頭として、その先頭に立っている。
そして、大凡十五名四列が、その後ろに、横三列列五段組で、四個小隊の形で並んでいる。
当然鋭児がいない分、空席がある。
そして現在D組つまり、闇属性の者達の中に見られるはずの美箏はその中にいない。
彼女はアリスの補助として、連れられているためだ。
主に、神殿から見えない位置で、六芒星陣の内側で額ずき、気を集中させている。
「ふふ。良い感じね。どう?」
「天聖家の周辺含め、近くに何かが潜んでいる気配はありません」
「そう。貴女はここでいざというときのためにここで待機しておいて」
アリスは楽だった。
本来の豊穣祭において、そこまでの警戒網を敷く必要はないが、今回は別である。
もし美箏がいなければ、彼女は周囲への警戒と夜叉家の守護の両方をこなさなければ鳴らなかった。
本来闇の属性である彼女が、宮廷内で闇の陣を張ることは余り好ましいとは言えない。だがそこは最低限の譲歩という所だ。卑弥呼の危機には、まずそれが役に立つ。
というのも、聖はこの度、天聖家の人間を護衛しなければならないからだ。
とてもではないが、アリスの穴を埋める事は出来ない。
普段でも護衛は熟しているが、如何せん守らなければならない人間が多く、仮に学生達に混乱をきたすと、彼等が入り乱れた際に、判断を誤りかねない。
やがて、学生達と舞台の間に、椅子が並べ始められる。そこに六家の人間達が座ることになっている。
椅子そのものは、意外なほどにごく普通のパイプ椅子である。
その辺りはなんとも現代的だ。
儀式であると同時に、彼等は観覧者であり、幸に対する受益者でもあり、またそれも儀式の一環ということだ。
生徒達は、私語を禁止されているため、互いに口を利くことはなかったが、何となく目配せをしている。
特に第一クラス、第二クラスに所属する者達となれば、状況を見極めた行動を求められる事になる。
単純に言えば、第三、第四クラスに対する指示などがそうだ。
貴歩的には、戦闘の障害にならないように、退避行動を求められる事になるだろうが、それも状況次第になる。
やがて、六家の重鎮達が、顔を出し始める。神殿と宮廷は、廊下で繋がってこそいるが、それはあくまで、卑弥呼が通るための通路であり、六家といえども、その通路を通る事は無い。
通ることが出来るとすれば、卑弥呼の側人に限られる。
今回吹雪はその役を仰せつかっているとうわけだ。
つまり、彼等は敷地内であるにもかかわらず、ぐるりと正面の鳥居まで移動し、そして石段を登り、境内に足を運ぶ事になる。
ただ尤も、広い敷地であるため、彼等の移動は車であり、やがて康平達の耳にも、車列の到着する音が耳に入る。
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