第2章 第5部 第7話
煌壮に恋愛感情がないのは事実だ。だがこうして、照れてしまっている煌壮は確かに可愛い。濡れた髪を括らずに、ストレートのままであることが新鮮である。
「で……どっちの?」
「え!?」
「キラ……って、どっちの?」
「あ!?ああ……アキラの……ほう」
鋭児は、少し考えつつ、どちらなのかを煌壮に告げる。
「うん…………っかい」
「ん?」
口ごもった煌壮の声は、思うように鋭児に届いておらず、思わず聞き返してしまう。
「もっかい、キラっていってほしい……」
「キラ……」
「へへ……へへへ……鋭児兄の女ったらし!」
そう言って、煌壮はベッドの上に顔を伏せて、足をバタバタと泳ぐようにして動かして、大いに照れを隠しているのだ。ただし耳は真っ赤である。
そのとき、更の携帯我がなるのだ。
彼女は、ベッド横においていた自分のバッグから、それを取り出し、電話に出る。
そして、そこからは盛大に謝り倒す蛇草の声が漏れ聞こえてくるのである。
「いいのいいの。面白いものも見れたし。いいリフレッシュになりました」
ある意味なんとも懐の深い更である。
「ああ……俺送りますよ」
「それもいいわ。風雅君に頼んであるし。妹ちゃんと、イチャイチャしたいでしょ?」
「イチャイチャって……」
「それじゃぁ、更お姉さんは、退散致します!でも、玄関までのお見送りはお願い致します!」
そう言って、更はエスコートを鋭児指名し、彼の腕に絡んでくるのである。
「は……はい」
こればかりは断りようがない。
短い距離であるとは言え、更を一人にすることは出来ない。妙にウキウキした更を連れた鋭児は、寮の出口に到達する。
すると、いつも女性のお尻ばかりを追いかけてしいそうな風雅が、門塀に凭れかかりながら、胸元で軽く手を挙げて、鋭児に挨拶をしてくれる。
「よ!」
「風雅さん」
「なになに。流石にその人に手を出すのは、まずいんじゃない?」
これには若干の皮肉が混じっているものの、吹雪にフラれたときのように、情けない彼ではなく、興味津々で二人の距離感を観察するのである。
「ハハ。手は出してはないんですけどね」
「うう……何時間も部屋に閉じ込められて、その上ベッドの上で……うう!」
「いや、ホントやめて頂けませんか?」
流石に誰が出入りするともわからない寮の出入り口で、更の大根芝居といえど、人目についてしまうことに、焦りを隠せない永治であった。
「いや、鋭児くんホント、シャレにならんぜ?」
「風雅さんまで……」
年上二人にからかわれて、どうしようも無くたじろぐ鋭児ではあったが、風雅のからかいも邪気はなく、居心地はよかった。
「?」
だが、鋭児は妙なことを思い着く。いや、なんとなくである。
「てか、更様、強くてイイ男で、って……六皇最強だった……」
鋭児はホント妙な事を口にしたのだ。確かに、風雅は一見チャラチャラしているが、当然鋭児も風雅と鼬鼠の試合は知っている。
恐らく現状、風雅に勝てる者などいないだろう。
よって負けたからといって、鼬鼠が六皇に相応しいわけでもなく、風雅が認めたという時点で、十分に鼬鼠は六皇に相応しい男だと言える。
そして、それに際して、確りと引き時を知っている彼の度量は、やはり中々と言えた。鼬鼠と自分の初戦で割って入った彼も、今となっては実に良いタイミングだったと思う。
度量と引き際を持ち合わせる風雅という男は、名実ともに最強と言えるだろう。女性に対して軽い事を除いては……だが。
「え?!なに?鋭児君、俺がモテるイイ男だって!?」
「え……ええまぁ」
「ナニナニ、話が解るじゃん!」
ノリノリで鋭児の肩をポンと叩くのである。
「で?」
「いや、更様が、そういうイイ男を探してるって……」
「え……いや、それは……」
今度は風雅がたじろぐのである。
「ということで、更様をお願いします」
「あら、王子様交代というわけね?」
そう言って、更は、鋭児から離れると、今度は風雅の腕に絡むのである。
「いや!ホントシャレんならないから!!」
本来エスコートすべき風雅は、更に引きずられて、門前に駐車している車の中へと消えてゆくのであった。
「やれやれ……」
ちょっとした、台風の目だと更を見送った鋭児は、一息つきながらも、寮内へと戻ってゆくのである。
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