第1章 第6部 第18話
そして、晃平達も揃い、テーブルを確保して、食事も進み始めた時だった。
「焔サン……」
「ん?」
「今日、久しぶりに相手してほしいんだけどさ」
鋭児としてはこの前の手応えを含めて、焔の指導を仰ごうとしていたのだ。
「あ?あ~~。それな……」
焔は、少し気まずそうに小鼻を指で掻く。
「こほん……」
焔が、少し大げさに咳払いをする。これからいったい何を言い出すのかと思い、一同それに注目する。
「なんつうか、三学期にはよ。オレとお前は、炎皇戦をする。間違い無くな。この前のアレで、オレはもう確信しちまってるんだけどよ……」
「うん」
それはもう、焔が鋭児の実力を十分認めるに至るという所で、なぜか鋭児本人よりも晃平のほうが嬉しそうな表情をしているのだ。尤も、そうなって貰わなければ、晃平とて困るのであるが、本来それは二学期の終わりにかけられる言葉であっても不思議では無かったのだ。
それは、予想以上に早い焔の返事だと言える。
「だから、ネタバレ……したくねぇだろ?お互いによ。お前だって、あの先考えてんだろ?」
焔にそう言われると、鋭児も思わずゾクリとしてしまうのだ。
いくら一日おいているとはいえ、磨熊戦の翌日での、鳳輪脚連弾は、予想以上に自分のスタミナを削り取った。ただ、それを見られた以上焔がそれを上回る何かをしてくるとは、当然鋭児も思っていた。
焔は、その続きを楽しみに取っておこうと言っているのだ。
「それに、今日からだぜ?順位戦……」
喰い気味だった鋭児としては、少々拍子抜けした焔の対応だったが、 そう言われてしまえば、どうしようもない。確かに散々手の内を知ってしまっては、面白く無いというものだ。
昼食が終わる。
「さてっと……」
鋭児が腰を上げる。午後の授業の準備である。
そうとなると、一同も腰を上げ、それぞれの準備に取りかかる。
「鋭児」
「ん?」
「頑張れよ」
ただ、その中で一番最後まで座っていた焔が、いつもよりも力のこもった視線を鋭児に告ってくる。
「うん……」
確かに自惚れてはいけないし、気を抜いてはいけない。少しずつ自力がついてきてるとはいえ、今期末には焔と雌雄を決する戦いを演じなければならないのだ。
そうなると、来週から行われる順位戦も決して相手を侮ることなく、丁寧にこなさなければならない。
「晃平君も頑張らないとね」
「静音さんもね」
と、何気ない次点に甘んじている二人が、励まし合いながら声を遠ざけて行く。
「後二回……どうにか持ってくれよ……」
焔はぽつりと呟き、それからゆっくりと腰を上げるのであった。
その一週間、それぞれ技を磨く事に余念がなかったが、その中で焔は徹底的に、基本的な技をもって、挑んでくる相手をねじ伏せた。
その中で、鼬鼠が一度焔の所に顔をだしたが、焔は鋭児と説明した同じ理由で、彼の申し出を断った。本来挑まれれば応え無ければならないのが、六皇であるのだが、焔の謝罪で鼬鼠は溜飲を下げる。
だが解らなくもないのだ、鋭児の成長を実感したからこそ、自分も負けられないという思いが、彼らしからぬ行動をさせたのだ。
一方重吾も、赤羽が抜けた穴を狙いに行くため、焔に願い出るが、こちらは受け入れられる。ただ重吾でさえ焔に本気を出させることはなかった。
実に丁寧に重吾を迎え撃ち、徹底的に彼を打ちのめすのだ。
その時に用いられたのが、栗火鉢である。実にコンパクトで優れた技である。地味であるが相手を十分跪かせる事が出来るのだ。
インパクトの瞬間を確り狙い定められるのは、焔のセンスがあってのことだが、大技一つ引き出せなかったことで、重吾はすっかり悄げてしまう。
「わりぃな……」
本当なら、もう少し見せる戦いをしてやりたかったが、大技を使うといつ発作が起きてしまうか解らない。今は少しでも負担を少なくしておきたいのだ。
ただ普通にしていれば、どうということはない。
焔は、他の連中には十分これで対応出来ると確信しつつ、拳を強く握る。
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