第1章 第3部 第4話
「もう!鋭児君、女子にデレデレしちゃって!」
そう言って、不満げな声を出しながら姿を現したのは吹雪である。鋭児の初試合を観覧しにきたのであるが、確かに鋭児は狼狽えつつ試合をしている。
周囲は吹雪登場に、ドキドキとしている。
美しさで群を抜いている氷皇吹雪が、一男子、しかもF4クラスの試合を見に来るなど、前代未聞である。勿論ヴァージン奉納宣言は、誰もが知っている事であり、吹雪もまた鋭児と懇意である事は、皆知っている。
それにしても立場を弁えず姿を現すとは、飛んだご執心ぶりである。
「あ……」
吹雪にみっともないところを見せてしまったと思った鋭児の不意に繰り出した拳が、囲炉裏の瑞々しく実ったバストに触れてしまう。
「あ……」
丁度ねじり込んだ拳が何とも良い具合に、彼女のバストを弄んだのだ。
一同静かになる。
その中吹雪だけが白い目で鋭児を見るが、その大半の理由は、囲炉裏が満更でも無く、照れている所にある。胸を押さえてモジモジしている姿が、何とも艶めかしい。
と、それと同時に、吹雪の表情がどんどん、ぷんぷんと怒っていくのである。
「っと……」
これ以上吹雪を起こらせると、何だか怖い気がした鋭児は、囲炉裏の足を引っかけて、簡単に転ばせると同時に、指先で簡単に六芒星を描き、囲炉裏の首横に、それを叩き着けるように一撃を入れて、地面を粉砕する。
叩き着けられた地面からは、水分が蒸発し、湯気が立ち上る。
「ゴメン」
「んーん。良いよ。おっぱい気持ちよかったし……」
という、囲炉裏の余計な一言が、吹雪の怒りを更に増大させる。鋭児は照れたり、吹雪に気を使ったりと、なかなかいそがしい。
普段なかなか嫉妬などしない吹雪だというのに、これは少々珍しい光景である。
「勝者黒野鋭児!」
教員はただ鋭児の勝利だけを宣言する。吹雪の乱入には、全く言葉すら触れない。この学園において、六皇という存在は、やはりそれだけの影響力があるのである。
「ふぅん。同学年の女子の『おっぱい』は、そんなに気持ちいいんだ……」
と、ぷいっと横を向いてしまう吹雪だった。
「いや、事故っすよ。事故。てか、なんで吹雪サンここに……自分の試合は?」
どうしようも無く駄々っ子な吹雪は、焔がそうなったときより宥めるのは、難しそうである。
「雹堂吹雪の試合は、第二回戦からで御座います!」
「あ……そか」
吹雪をこんな風にツンツンと人間らしく怒らせてしまう鋭児の存在は、やはり特殊だと周囲は思う。怒ってこそいるが、明らかにヤキモチだと誰もが理解しているのだ。
「黒野ー!」
と、一部の男子が悪のりして、ひっそりとした声で彼を呼ぶと同時に、イヤラシイ手つきで、胸を後から揉み拉く仕草をする。
いくら何でもそれは拙いだろうと冷や汗を流す真面目な男子も当然いる。しかし、そう呷るのは、吹雪が残した相合い傘の件があるからだ。
流石に公衆の面前でそれは拙かろうと思う鋭児は、その悪のりには同調せず。膨らんだ吹雪の頬を軽く指でつついて、しぼませてしまう。
「吹雪サンが来てくれて、吃驚したんすよ。不可抗力っす。女の子に怪我させたらやべぇなって、思ってて……」
「だって、私今日は試合ないんだもん。だから応援にきてあげたのに……」
と、また頬を膨らませて怒ってしまうのだった。
正直こういう女子の対応には、決して馴れているとは言い難い鋭児だった。すっかり困ってしまうのだった。年上の女性に困らされている鋭児というのも、なかなか面白いのだが、横では次の試合が開始されている。
「やっぱり、鋭児君は張りのあるおっぱいの方が好きなの?」
と、とんでもない爆弾を落としながら、吹雪は鋭児の方を振り向く。
吹雪の言う張りとは、焔のようにはち切れんばかりの、バストを意味する。そして、囲炉裏のバストもダイナミックでないながらも、どちらかというとそう言う感じの張りのある瑞々しいバストなのだ。
勿論吹雪もバストは十分にあり、細い彼女の躰が尚そのバストを強調している。そしてバストに張りが無い訳でもない。しかし、はち切れんばかりというよりかは、非常にシットリして色っぽいのが、吹雪のバストなのである。
試合をしている、男子同士が、吹雪のその一言に誤爆して、互いに技の直撃を喰らってしまうのだった。
「あ、いや、吹雪サンは、吹雪サンで、十分魅力的だと思うし、別に俺焔サンと比べたことなんて……」
照れてフォローをした所で、それはハッキリと、吹雪と焔の両方を十分に知っているという意味であり、鋭児が自分を魅力的だと言った一言で、吹雪は嬉し恥ずかしそうに、両手で顔を覆っているが、発言内容がぶっ飛びすぎている。
嬉し恥ずかしそうにしている、吹雪の喜怒哀楽だけを取ってみれば、非常に美しく可愛らしいのだが、流石にこの言動に対しては、引いてしまうF4組だった。
「オホン……。雹堂。いくら、氷皇だと言っても、場は弁えて貰えんか?今は試験中なんだ。ちなみに黒野の次の試合は、明日だ」
「ああ……はい」
これは、要するに吹雪を何処かにつれていけという、教員命令でもあるのだ。勿論彼女達を学生だという視点で教員の立場を取る者達も居るが、皇座に付いているということを重視する教員達は、彼等に対してあまり命令的な言動をせず、非常に気を使っているのが解る。
「鋭児君、他の試合見るのも勉強になるのよ?」
吹雪はそういって、確りと鋭児の腕に絡みながら、少し年上っぽく彼にレクチャーする。勿論確かに年上なのだが、こういうウキウキとした表情はなんだか子子共っぽく、それでいてお祭り状態の焔とは少し違う浮かれ方なのである。
勿論日常的に、彼方此方凱旋に出かけている鋭児であるため、多の属性の試合を目にすることはあるのだが、決闘に等しい日常の遣り取りとは少し異なる情景は、確かに一種独特のものがあった。
特に、同じクラスの連中とも成れば、どうしても手の内がある程度解ってしまう。経験者である二年三年ともなると、負けない戦い方というのも、少しずつ見えており、それをどう崩していくか?という組み立てになり、そういうのも大事な勉強である。外から見る勉強というわけだ。
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