第19話 試合③

 5回裏。私は先程の無残なバッティングの件を汚名返上するためにヒット一本で抑えました。


「どや」

「……ピッチングは良かったで」


 伊吹は適当にサムズアップで応えます。

 むー。もう少し何か褒めて欲しいな。


  ◯


 そして6回表私達サクラヤマ・ファイターズの最後の攻撃。


 1番の子はヒット。2番の子はゴロでアウト。でもゲッツーに出来ず、ファーストにいた子は二塁に進塁。その後、3番の子は粘ったけど内野フライでツーアウトニ塁。


 そこで4番の由香里の番が来ました。


 峯岸も疲れてきているのかキレがありません。そして由香里に対してフォアボールで出塁を許してしまう。


「あれは敬遠ではないよね?」

 私は伊吹に聞きます。


「せやな。ちゃんと勝負してたしな。疲れてきてるんかな?」

「チャンスってことね」

「純ー! 打てー!」


 純は初球打ちでレフト前ヒットを放ち、満塁になりました。


「シャアァァァ! 満塁や!」

 伊吹はガッツポーズをして喜びます。


 チャンスです。


 そして6番の子がヒットを放ち走者は2人が戻り2点が入った。


 8-6。


「逆転や!」

「やったー!」


 私もつい嬉しくてはしゃぎました。

 観客からも歓声がすごいです。


  ◯


 次の子はキャッチャーフライでアウト。


「ウチの番まではまわってこんかったか。でも、2点差や。ここを凌げば勝ちや! 頑張るでー!」

『おー!』


 ここを凌げといえど、投げるのは私だからね。ちょっとプレッシャーを感じる。


 1人目の子に初球甘いところを打たれてヒットに。


 2人目の子と対戦中に盗塁を許される2塁に。その2人目はなんとか三振させワンナウト。


 伊吹がタイムをかけ、ピッチャーマウンドに他にもに数人が集まってきました。


「まさか盗塁とはな」

 伊吹が二塁の相手をちらりと見て言います。


「バントしないから怪しいと思ってたんだけどね」

「仕方ないよ。牽制とか練習してないんだし」

「ごめん」

「別に自分のせいやない。牽制のサインは3本にしよか。牽制は知ってるよな?」

「盗塁させないやつでしょ」


 3人目のバッターにヒットを打たれ一、三塁に。


 4人目は9番峯岸。

 代打を使わず峯岸がバッターボックスに立った。


 初球はストライクゾーン少し外。

 バン!

「ボール!」


 振らないか。選球眼があるのね。


 次、伊吹はキャッチャーミットを外角下から少し上に移動。初めの外角下を投げろということ。


 バン!

「ボール!」


 インハイから外角下。

 ……インハイか。インハイはバッターの顔近くなんだよね。なんか投げづらい。


 でも、ちゃんと投げなきゃあ!


 あそこはストラックアウト3番!


 ダン!

 ボールは大きく打たれた。


 インハイだったせいか、球速より制球を意識したため甘くなったのか?


 そしてそれが犠牲フライとなり、1点取られた。


 8-7。


「ツーアウト! あと1人!」

 ショートの子が声を出す。それに呼応してメンバー達も「ツーアウト!」と呼び合う。


 私も声を出して、

「ツーアウト!」

 と声を張る。


 そうだ。ツーアウトだ。1点は取られたけどツーアウト。あと1人。


 だが、その後2人にヒットを打たれツーアウト満塁に。

 伊吹がタイムをかけ、メンバーがピッチャーマウンドに駆け寄る。


「ごめん」

 私は開口一番謝った。


 あと1人なのに。

 満塁にさせてしまって申し訳がない気持ちで一杯。


「なあに。良い球投げてたって」

「そうよ。ツーベースヒットじゃないぶんましよ」

「遠慮せずおもいっきり投げなよ」

 と名前も知らないメンバー達に励まされる。


「せや。自分ようやってる。ウチんところにバシッと投げや」

 伊吹は自身のキャッチャーミットの中に拳をぶつけます。


「分かった。おもいっきりいくよ」


 そして皆は持ち場に戻ります。


 満塁って気味が悪い。左右に後ろに敵がいて、点を狙おうと気を伺っているのですから。


 気をしっかりしなきゃあ。


 私はおもいっきり投げます。


 バッターは大きく振りますが、ボールは伊吹のキャッチャーミットへと吸い込まれます。

「ストラーイク!」

 よし!


 2球目はインハイ。見送られてボール。


 次は外からの内。

 バン!

「ストライク!」


 きちんとストライクゾーンに入りました。


「よし!」

「あと1球!」、「1球」

 皆が1球コールします。


 でも、相手もそう簡単にやられてはくれません。


 ダン!

 打たれ球はレフト線の外へ。

「ファール!」


 ダン!

「ファール!」


 粘るなあ。もう終わりにしてよ。


 外角高めに伊吹はキャッチャーミットを構える。

 私は頷き、ボールをおもいっきり投げました。


 しかし、相手は振らずに見送られました。


「ボール!」


 本当にしぶとい。


 伊吹はストライクゾーンギリ低めから真ん中にミットを移動。


 それ大丈夫なの?

 でもやるっきゃない!


 私はおもいっきりボールをふり投げた。

 そして相手もまたおもいっきりバットを振ります。


 バン!

「ストラーイク! バッターアウト! ゲームセット!」

「や、や、やったーーー!」


 私は歓喜で両手のガッポーズをします。


 メンバーの皆もピッチャーマウンドに集まり、私達は喜び合いました。

「やったじゃん」、「ひやひやした」、「逆転勝ち!」、「よっしゃあ!」、「サイコー!」


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