第三十五話 3日間くらい泊まりたい。
ハッキリ言って現実とは思えない。
でも、でもこれは現実なんだ。ここに来るまでに死にかけたのが論より証拠だ。だからこそ、だろうか。
「すげぇ!」
目の前の空間がキラキラして見えて仕方がない。一瞬でバビュンと飛んでいく感じじゃなくてふわふわと気持ちゆったりめに飛んでいくのがまたいい。
いや、にしてもファンタジーですねぇ。目の前に3dのCGが流れてるみたいだ。
「でしょ?まぁ、これ全部父さんがやったらしいんだけどね。この部屋自体に魔術陣組み込んで半永久的に稼働させるなんて、本当にどうなってんるだか。」
何か訳わからん事言ってるけど気にせんとこ。今は全力でファンタジー成分を吸収していたい。そう思って両手を広げて、
バシッ、ボトン
「あっ」
浮いてた本に手が思いっきり当たって落ちた。あやっっっべ。
「えっえっ?あ、あのぉ」
「あっはは、大丈夫だよ。そういう風になってるから。」
そう言って本を拾い地面についた時の誇りを払う結城。
は?持ってる?
「え、どーやって持ってんの?」
「ん?あぁこれね。これも父さんの用意した陣の一つでね、人間のように物をとって使えるようにするんだって。確か
「触れてる感覚あるの?」
「うん。どういう原理なのかは全く分からないけどね。流石魔術と言ったところかな?」
本当に何でもありだな。なんとなぁくぼんやりと、うっすぅーく、黄色味?オレンジ味?がかったアーチ状のなにかが結城と本を繋いでるから、それが発動してる魔法なのだろう。
「んー、丁度いいかな。まずはこれ、読んでみてよ。」
「お?何だそれ?」
「端的に言っちゃえば“魔法とは何なのか”について書いてある本だよ。」
「ほほう!これ見れば全部が分かるってことか?」
「うーん、そうじゃないんだけど、粗方全貌が分かるってぐらいかな。それも氷山の一角に過ぎないんだよ。(しかも偏見を隠す気もないっていう。)」
え、この量で?縦横がミ〇ケ並みなのに分厚さが国語辞書以上にあるのにまだ序の序だと?奥深すぎだろ魔法。
「その本を本気で全部読むつもりなら、今日は教えることは特になさそうだね..........時間になったらまた呼びに来るから、それまでゆっくり読んでてよ。」
「え?隣で教えてくんないの?」
「その本を読んでても特別分からない単語は出てこないと思うから。」
「えぇ、それでもさ、監視ぐらいしない?ほら、俺が本を盗むとか―」
「ここの魔術がそれを許さないから大丈夫だよ。」
「あ、そっすか。」
流石は魔術、時代の最先端を進んでいらっしゃる。防犯対応完璧すぎるだろ。
「じゃぁ、お言葉に甘えて読ませてもらうよ。」
「うん。思うがままに読んでって。種類ごとに分かりやすく纏めてあるから、他のやつを読みたくなったら自分で探してね。戻すのは勝手にやってくれるから。あ、そうだ。」
そう言うと、結城は何かを唱え、俺に細長い紙を渡してきた。ふわふわした軌道を描きながら渡されたから多分さっきの魔法だろう。
「この栞を使って。本当に気になるやつに挟んだら、次来た時に勝手に手元に届けてくれるから。」
何て便利な(以下略)
「じゃあねー。」
バタン、と扉が閉まりぽつんと一人だけ取り残される。音もなく行き交う本だけが異様に目立つ。
入り口付近に居たから未だに中の構造を知らない俺は取り敢えず先に進むことに。
だけども、非常に広いし(道幅)が狭いから中々奥に進めないし道が分からん。
クイクイ
おっと?背中に何か当たるなと思って身体を横に向けながら背中を見ると、突っかかりから解き放たれる本の姿が。
...........あれについて行ったら奥いけんじゃね?
さてさて、何処につながってるのかな。
「おぉ、すごっ。」
何と言うか、ここだけ別の異世界感が広がってる。
建物の形を何かに例えるなら、鳥籠といったところか。白に塗装された木材の柱と惜しげもなく張り付けられた不純物のない綺麗で透明な硝子が美しい。
中には自然が広がっており、しかし地べたを這う虫はおらず、キラキラと輝く羽を羽ばたかせながら飛ぶ蝶が目を引きつける。
建物の中に建物ってところもおかしいとは思うが、それが気にならないほどに圧巻されていた。
こんなんテレビでしか見たことないぞ。それを本を読むスペースを確保するためだけに建てられてるなんて、なんて財力なんだ。
更に中を見れば、ちゃんと本を読む丁度いい机と椅子が。それも、椅子はブランコの様な作りになっていて、なんともメルヘンチックな。
まぁ、変な虫はいなさそうだし、グリーンだから本に集中できそうではあるから、入ってみてもいいかな。
背より少し低い入り口を屈んで進み、中へと進む。特に蒸し暑いなんてことはなく、逆に涼しいまである。本を読むのにいい温度どころか心地よくて寝てしまいそうだ。
おっと、せっかく読ませてもらえる機会をもらったんだ。流石に読まないとな。
取り敢えず初っ端の説明文やら概要やらはスキップしていく。知らんわ、作者の読み手に受け取ってほしいことは何なのかみたいな内容。教科書にもあったけどあれまじで何なん?要らんやろ、直接内容読ませて欲しいんだが。
さて、内容が魔法の説明文っぽくなったところで適当にパラパラページをめくるのを止めて読みに入る。
我々の生活には、魔法というものが根付いてしまっている。今や魔法が無ければ成り立たないものが山程存在する。生活を支えるものではなく、我々が依存するようになってしまった存在である。
魔法とは、六つの偉大なる始祖から生まれ、年月を経て形を変え、派生し、発展と衰退を繰り返し、世に認められる形へと組み替えられていったものである。この世に未だ未解明の魔法はあれど、それは許容された魔法であり、この世に唱えられぬ魔法は存在しない。膨大なマナがあれば小人であろうが容易く災害を起こせるほどに強力なものであり、一歩でも間違えれば破滅へと導く危険極まりない代物だ。世に秩序が生まれ、法を作り、民の持つ力をどれほど抑圧したとしても、一つの魔法でそれらが容易く消し去られてしまう、因果すら歪めてしまう力である。神はそれを許容しなかった。許容してしまえば、それは世界の崩壊を受け入れるのと同意であったからだ。人の無限に近しい可能性を封じ、発展の機会を制限し、過去の遺産を地の奥深くに封印し、種族間の争いの火種をことごとく鎮火していった。魔法が発達する機会を完全に無くすためであった。それでも、人は改善の手を止めなかった。ただ敵を殲滅するだけのものが、他者を守り、癒し、恵みを与える、人に別の利を与えるものへと変貌したのだ。俗に言う一般魔法の誕生である。争いが無くなり、平和になった世界では、戦に向いた魔法は衰退し、生活に役立つ別の魔法が次々に生み出され、繁栄をもたらした。人力で出来ぬ事を可能にしてみせる魔法は、民からすればどの様な神よりも崇めるべき存在であった。だが、平和は長くは続かない。民は、人間は欲に塗れた生物である。己と他者を比較し、より優れたものを作り出し優位に立とうとする。そしてそれらを積み重ね、欲に歯止めが利かなくなり、いつか限界を迎えてしまうのだ。一般魔法のもたらした繁栄はいつしか醜い人の欲を育てる糧となり、再び戦争の火種を燃え上がらせる燃料と化したのだ。だが、戦闘に特化した魔法が廃れてしまった世界において、過去の魔法とはかつてないほどの兵器へと姿を変えた。たった一人、其の魔法を使えるものが存在するだけで戦況が一変するほどの過度な力になってしまったのだ。滅亡を防ぐための封印が返って人々の滅亡の助力となってしまったのである。神々はそれを憂い、またも人々に向けて力を行使したのである。それが、体内魔素の貯蓄、である。マナを用いれる者だけが魔法を使えるという過去の摂理をねじ曲げ、皆が皆魔法を使えるようになった。人々は魔法に抗う術を取り戻し、かつて強大であった力が戦争で用いられる共通の武器へと成り下がった。だが、成り下がったが故に、戦は更に激戦に変貌する。血で血を拭い、死してなお立ち上がり、己の力に酔いしれる。まさに地獄絵図を生み出したのである。今もなお、発展し豊かになった表面上の平和な世界の裏では、戦が繰り広げられ続けている。魔法とは、人にあり得ない程の力を与える摩訶不思議な力である。しかし、人を狂気に染めてしまったのもまた魔法であるのだ。故に、魔の法であり―
「なんじゃこりゃ。」
こんなん読みたいんじゃないねん。もっと魔法にはこんな種類があってぇとかいうプラスなイメージの内容が読みたいんだよ。何で本に時代を越えて魔法について説かれないといけないんだよ。
「うーん、気分下がるなぁ。んぉ?」
パタパタと、一匹の蝶が俺の元に本を届けに来た。え?お前そんな怪力なん?
「あ、ありがと」
くるくると上機嫌に俺の前を回転しながら羽ばたいていったあの蝶は一体なんなのだろうか。あれも魔法の一種なのだろうか。
ま、いいか。んで、おすすめしてくれた本はー、と。
「魔法概論ねぇ。」
キンキラな文字でそう書かれている分厚い本は、先ほどよりも重くはないが、パラパラと数ページを見ただけで分かるほどみっちみちに文字が書き込まれていた。うわ、見づれぇ。
魔法とは、理、因果、それらを紡ぐ言葉または詠唱によっていとも簡単に歪め、本来起こるはずのない現象をその場に呼び起こすものである。無論代価は存在し、使用者の魔素を奪い取る。代わりに常人には得られぬ力をもたらす。無償の力よりは信用のできる力ではあるが、未だに力の根源が本当に魔素によるものかは分かってはいない。ただ、長年の先人の努力により、魔法には階級が存在し、また、過去の遺産に、それに関する情報が残っているものがあることが判明した。常識として、階級が上がるほどに威力が上がる。これは現代の魔法師達が証明している事実であるが、遺された情報から次の可能性が生まれた。魔法はこの世の因果を歪める度合いに比例して強さを増し、また代価の魔素の量も過剰に比例するというものだ。文として起こしてみれば何ともまぁ当たり前なことを、と思うが今の子達は強さを威力と直接繋げて見ている節があるため記述に加えておく。
おお!こんな感じなのを求めてたんだよ!さて、次は、
我々が使用することの出来る魔法は必ず既存のものである。未知なる魔法は、我々が認識できていないだけであり、我々の祖先が生み出したものである。上記から分かる通り、魔法とは我々の知にも比例する。無知は弱者、叡智は強者となるのだ。故に、我々は魔法を
研究者に向けた資料だった。ふむ、確かに鎌風が教えてくれた内容よりかは少し詳しい内容だったかな。本当に粗方知れるって感じか。
しかし、俺が本当に知りたいのは魔法そのものってよりも魔法の種類というか、ぶっちゃけ言えば
ふと外を見てみればまだ明るくはあるが昼とは言い難い明るさになっている。気の済むまでみたいなことを言っていたけど長居するのもよろしくないだろう。
でもなぁ、正直まだまだ読み足りない。勉強より断然面白いから飽きないし、本当に楽しい。もっと知りたいという探究心をくすぐられた。研究したいとまでは行かないものの、今までに無いんじゃないかと思うほど知りたい欲が抑えられない。
こうやって耽るのも勿体ない。
さて、次の本はどれにしようかな。
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