第三十六話 憧れへの一歩
「おーい、おいー。」
タシタシタシ
「ん、ぁ?」
たたくなよ、だれだ?
「あ、起きた。おはよ..........結構読んだね。」
「あ、結城。そういや本読んでたっけ。」
あ、まずっ!?
「本っ!........あれ。」
本が横にズレてる。寝る前の俺が無意識に片付けたんかな。何にせよ良かった。寝ると口の中に唾液がたまるからそれが本に落ちたら本当にマズかったし。
「それでもテーブルは..........」
「ん?あっ、あるよね、寝ちゃうと。」
机の上が代わりに大、とまでは行かないものの惨事になっていた。いや申し訳ない。
「ごめん、これ拭きたいから何か捨てる予定のある布を貸してほしいんだけど。」
「あー、大丈夫だよ。こういう時にこそ魔法だよ。」
「え、こんなんにも対応できる魔法があるの?」
「まぁ見ててよ。」
結城が魔法の準備らしき事をし始めたので取り敢えず積み重なった本を机の上から避難させる。
あっ、勝手に浮いていく。腕の中から誰の手もなしに本が抜き取られてくのは不思議というか、不気味というか。そんなこんなで本を持ち続けなければならない問題が解消したので結城の方を向くと、
「
ふわっ、と微かな風を感じた後に机の上に広がっていた液体が一気になくなった。本当に摩訶不思議な光景だよな。
「ん?乾かしたのはいいけど、あれ拭いた後?」
「いや、そのまま乾かしただけだよ。」
「え、そんな事したら。」
唾液は拭かずにそのまま乾くと強烈な嫌な臭いを放つようになるから、本当は良くないはず。それにこんないい場所で俺の唾液の臭いが充満してほしくない。
「そうだね。だからこうするんだよ。」
薄っすらと、淡い青色のオーラを纏う結城。見た目イメージ的に水魔法っぽいけど。
「“流れ行く水よ、一つに集い恩恵を、
結城の周りの空間から水が何処からともなく現れ、空中を流れる。途中途中流れから逸れた水滴がキラキラと光って綺麗だ。そして、流れる水の終着点に水の球体が形成されていた。それを見て宇宙空間で液体がとどまった映像を思い起こすのは俺だけだろうか。
重力を無視してフワフワと浮く様はまさにバブル。そしてそれが
「
水球はその言葉と共に形を維持できなくなり、不安定になる。まるで表面張力が働いてるかのごとく綺麗だった表面が揺れに揺れ、決壊する。
そして決壊した水は真下の机に向けて流れ、流れ、あれ?
「ちょ、流れ過ぎじゃない?」
「あっ、ちょっとやりすぎちゃった。」
鳥籠の中が大決壊。ビッシャビシャになり机から落ちた水は土色になっていた。まぁまぁの
「ま、まぁ、問題の汚れは取れたわけだし、後は
「いやいや、地面が大洪水じゃん。流石にこれをそのままには出来ないだろ.............あー、だけど地面を乾かすとなぁ。」
さっきの魔法の威力を見るに、相当の威力があるはず。そんなんで地面丸ごと乾燥なんてさせたらせっかくの綺麗な緑が台無しになってしまう。
「それは大丈夫だよ。ほら、もう始まってる。」
「始まってる、とは?」
そして地面に目を向けると.........は?ぐ、ぐんぬんと水位が下がっていって、無くなった?
「ここの水はけがいいっていうのじゃなくてね、ここに生えてる植物が異様に栄養を吸収するから起きてる現象なんだよ。これも魔法と同じぐらいには不思議でしょ?」
いや、不思議も何も、キメェ。
「てか、こんなに吸収早いと1日に必要な水分とかハンパなくないか?」
「ふふ、それがそうでもないんだよ。」
そう言うと突如地面を掘り出す結城。
「おいおい地面掘り返してもいいのかよ?」
「あー、うん、そうだよね。地面に見えるよね、これ。でも違うんだ。本当はね、」
すると、徐々に地面を覆う草が揺れ始め、半透明になっていく。そして、霧散するようにそれらが消えると、
「これって...........」
「そう、これがこの部屋で見れる唯一の可視できる魔術陣、だよ。」
ほんのりと緑がかった光を放つ、The魔法陣が描かれていた。あ、違った魔術陣か。へー、でも、床に掘ってるんじゃなくてチョークみたいな素材で書いたものっぽいな。擦っただけですぐに消えそうな見た目してるけど。
「いやこれ、上から思いっきり水かけてたけど、消えないの?」
「これは魔石を
そう言ってまたばっしぁぁぁぁと容赦なく水をかける結城だったが、撥水スプレーをかけたのかと思うほどきれいに陣を避けて水が流れていく。本当に取れないんだな。
「へぇ、便利だな。」
「そうだね。でも、とっても便利な半面、面倒くさい面もあってさ。」
すると、結城は懐(自身の毛)の中から徐ろに何かを取り出していく。四〇元ポケットか何かでしょうか?貴方達の体毛は。
「1回効果を消しちゃうといちいち素材を用意して起動しないといけないんだよね、これ。」
ごとごとと重そうな音を立てて落ちたそれらは、何かの毛?であったり、牙?であったり、肉であったりと種類は様々だ。きっと
「∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼、∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼。」
ゴニョゴニョと何か呟いてるようだが、声が小さくて聞き取れない。でも長さ的にこの魔術陣の起動のための詠唱っぽい。
「“グリーン・ガーデン、起動。”」
直後、みるみるうちに魔術陣を含めた地面が砂がかけられたように見えなくなり、全体が茶色に変わっていく。そして倍速で草が成長していき、あっという間に先程まであった草の地面に戻っていた。
「ふぅ、これで元通り。ね?凄いでしょ。」
「いや、凄い.......んだけど、」
「だけど?」
「いや、凄すぎて、」
「それしか言わないじゃん。もしかして見るの初めて?」
「そりゃ、勿論そうだよ。いや、本当に非現実だなって。」
「魔法が当たり前の世界で魔法を非現実的って、どれだけ世の中から離れた場所で暮らしてたの?」
あー、そっか。ここじゃ
「あー、魔法なんざって偏見を凄く持ってたからさ。」
「へぇ、なら、今はどう?」
「魔法すげぇなって、本気で思ってる。」
「そっか、それなら良かった。」
「これからの授業が楽しみだな。」
「あ、そう言えば、明日辺りで魔法の実習訓練があった気が........」
「え、まじ?」
「うん。だから始まるのは今日より遅かったはず。お昼ご飯を食べた後ぐらいかな?食べ過ぎて動けなくならないようにしないと。」
「はー、時間を遅くするのに意味あるの?」
「あると言えば、あるかな。過去の講習生がね、その日に向けて張り切りすぎて前日に魔法を練習しすぎて魔素欠如になって倒れたっていうのがあったから、それの対策らしいよ。でも、これも形式化してるんだよね。」
「そうなのか。」
「ま、そんなわけだから今日は早く休まないと。」
「あー、そうか。なら今日はこれぐらいで―」
「それでさ、今日は何処で寝る?」
「ん?寝る、とは?」
「寝るって、寝るだよ。睡眠をとるの。」
いやいやいや
「それは分かってるよ。何処でって、どう言う意味?」
「そのまんまだけど........今日泊まるでしょ?読みたい本もあるだろうし、家は広いけど、どうせならここで泊められたらいいかなって。」
「うー、あー。」
おー、そうなったか。まぁ、ぶっちゃけ泊まりたいんだけど、一応現在も負傷者であることに変わりはないんだよなぁ。あの部屋が今後も俺の住む場所になるって言葉無さそうだし、いや多分そう。
何にせよ怪我してる身だから寝る時ぐらいはあそこに戻らないといけない。居なくなって逆に心配させたらいけなし、させたくない。でもなぁ、この貴重な機会を逃したくはないしなぁ。
「うーむ。」
「もしかして、嫌?」
「いや、嫌じゃないんだけど、如何せん俺の方の状況がな。」
そうして今の俺の現状を話すことにした。
カクカクシカジカ
「なるほどね、確かに寝る時間に戻ってなかったら鎌風先生辺りは心配しそうだけど、心配いらないよ。」
「ん?」
「家は鎌風先生と繋がりがあるからね、こっちから今日は家に泊まるって内容を伝えておくよ。」
「あー、いいのか?」
「いいよいいよ、泊まる?って聞いたのはこっちだし。」
「いやぁ、申し訳ない。」
「申し訳ないなんて思わなくていいのに、変なの。」
クスッと笑い、結城はまた部屋を出ていった。今度は鎌風にさっきの内容を伝えるためだろう。いや、ほんとに申し訳ないな。自分のために家主にあちこち歩かせるって、中々良心にくるものがある。
だけど、泊めてくれるならありがたいことこの上ない。もうちょいこの世界の常識を知っておきたかったし、まだ魔法の中身に一切触れられてないからな。
まだそこまで暗くはないし、本が見れなくなるまでは存分にここを活用しようじゃないか。さてさて、次はどれを読もうかなー。
/////////////////////
「ごめんごめん、ちょっと連絡に戸惑っちゃって.........って、あれ?」
久しぶりに通信用の魔術陣を起動したから動作確認のあれやこれやをしてるうちに外が真っ暗になってて、急いで連絡して戻って来たけど、流石に寝ちゃってたか。
「..........あ、魔法大全読んでる。というか、他にも四冊ぐらい読んでる。読むの凄く速いのかな?」
手に取るとどれも魔法の詠唱に関するものばかり。それも基本の“き”と言えるものから中々使えない上級のものまで。流石に書き込むようなことや付箋を貼ったりした形跡は無いけど、開きっぱなしの
「『魔法なんざっていう偏見を持ってる』、ねぇ。」
彼に持ってきた寝る用の毛布を肩から掛けつつ、彼の読んでいた本に目を向ける。
「...............どれも過去の遺産で、今使われていない龍刻文字とかも混じってるから、そこらの素人じゃ読んでも分からない内容があるのに。」
文献通りの真っ黒な髪が揺れている。
「学校に通ってるならまだしも、魔法に偏見を持ってるような否定的な印象を持ってる人間がそうそう読んで理解できる内容じゃないんだよ。」
無防備に、気持ちよさそうに寝ている彼の隣に伏せる。
「ほんとに、嘘が下手だよね。異世界人なら異世界人だって、言ってもいいのに。」
多分それは確定で、でも本人がわざわざ言わないってことは何かしら理由があるってことだから、僕は聞かない。彼が自ら言い出してくれるその時まで。
「おやすみ。明日は念願の魔法が使えるといいね。」
そして、一緒に魔法を楽しもうね。
/////////////////////
「ふぁぁぁぁ、っー」
んーーぁ、よく寝た。結局あの後寝ちまったか。も少し長く読んでいられそうだったが、次の日学校が無いってことを脳みそが理解してしまったから
長い時間置き続ける事が出来なくなってるな。別に悪くはないけど、昨日ぐらいは起きれた方が良かったな。
「ん?」
足元に何か生暖かいものを感じるのだが。
「あぁ?あ。」
椅子をずらして下を見れば、伏せ寝する結城?の姿が。いや、流石に結城のお母さんな訳ないだろうし、え、だよね?
「...........でも、こうして見ると、狼って言うより」
犬、だよな。
..............そんじょそこらの犬より真っ白でモフモフだし、毛は一切絡まっていない。
「.............」
気付けば俺の手は結城の頭の上へと乗せられていて、左右に撫でていた。
な、なん、だと?
だが、止められない。
心地よいフワッフワな手触りがなんともいい。ん?手になんかピクピクするものが当たって―
「.................おはよ。」
「.........うっす。」
「毛並み、どうだった?」
「いや、もう、最高っす。」
「..............まあ、いいけどさあ。」
やっちまったよね。まさか起きるとは思って無かったわ。いやぁまいったまいった。
「申し訳ございませんでしたっ!」
ま、土下座するよね。いやぁ、魔術陣で生み出された地面のはずなのに草独特の臭いと肌にチクチクさせる感覚がするというのは不思議なものだねぇ。
「え!あ、いやいやそんな事させたいわけじゃなくて!い、いいよ、大丈夫だから。」
ふぅ、お許しを何とか貰えたぜ。
「でも、寝てる間に勝手にそういうのするのはよくないと思うな。」
いや本当にそう思います。
「次からは止めてね。」
「..............精一杯努めます。」
「止めますとは言わないんだね。」
「止められる気がしません。」
「素直でよろしい。」
そう言って結城は立ち上がると踵を返して進んでいく。これはついて来いってことかな?そして立ち上がろうとしたところで、
「うっ」
身体痛ぇ。同じ姿勢でずっと寝取ったらそら身体が固まるわな。おぉ、老けていくのを感じるわい。
「どうかしたのー?」
その間にも距離が離れていたようで、心配の声が遠くから聞こえてくる。
「でーじょーぶだー、オラまだ戦えっぞー!」
「なんだってぇー!」
この世界の生物にこのネタは通じないようだ。悲しくなるね、ほんと。
「大丈夫ー、そのまま進んでー。」
「分かったー。」
そして身体をほぐし終えた俺はこの部屋を飛び交う本を頼りに約三分かけてようやく入り口にたどり着いた。結城、待たせてスミマセン。
朝食は食ってない。結城もその様で、そのまま講習所に行こうとしてるから多分気にしなくていいだろう。取り敢えず飯を食べないのか?と言う疑問は飲み込んで結城宅を出る。あー、揺れるー。
上下に揺られること体感五分。
衝撃を受けていた上半身及び跨っていた股部分にまあまあの痛みと三半規管の乱れを感じながらもまた俺は講習所に着いた。
結城からめちゃくちゃ謝られたけど、送ってほしいって言ったのは俺だから気にせんでええんやで。
「さてと、何か必要なものってあったっけ?」
「いや、実習だから特に..........あ、それってさ、動きやすい服?」
「あ?うーん、どうかなぁ。そこら中転げまくったせいでビリビリだから、動き辛いなんてことはないだろうけど、かと言って動きやすいかと言われるとどうも言えない、かなぁ。」
実は
治療を受けていた(らしい)時の服の方がよほど良かったので上だけは受け取らなかった。だから今の格好は入院する人が着る上着とダメージジーンズ(ジーンズではない)といったキテレツなものである。でも服のセンスないからこれでいいと思ってるんだよね。
「まぁ、そこまで動かないだろうから、ダメでは無いと思うけど..........」
「一生徒のことをいちいち気にしてたらキリないし許してくれるだろ。」
「そうだといいねぇ。」
何故不安になるようなことを直前に言うのだね結城氏。
そんで、今日はっ、と。
「..........ま、居るのは仕方ないよな。」
当然のごとく居る鎌風だが、別に不思議じゃない。てか居ないほうがマズイし。でもなぁ、アレの後会うのめちゃくちゃ嫌なのですが。それでも授業は受けたいし結城と魔法について話し合いたいから行かない手はないんだよな。本に書いてあったやつ沢山試したいし、何より更に身近にファンタジーを感じたい。
あー、楽しみで仕方ない。
「えー、あぁ、それでは今から実習訓練を執り行う。」
あ、目逸らしやがった。流石に向こうも気まずく感じてるよな。それに、藍華さんが居ないし、何やってんだよ。
「先月述べた通り、今月の実習は魔法だ。だが戦う訳では無い。己の使う魔法の威力、有効射程、発動の速さ、詠唱の正確さを確認してもらう。今日は第一回だ。そして今後、今日を含めた数回の実習の結果を比較し、己の魔法の改善及び強化に努めてもらう。」
成る程、個人個人の能力値の確認のついでにって感じか。どちらにも利があるが、ただ継続するだけで魔法ってつよく―「ただし、」
「単に把握するのではない。先程も言った通り改善と強化を行ってもらいたい。そのため、計測を行った日の次の講習では、体内魔素の増加の訓練を半日かけて行う。」
えぇー。
え、皆嫌なの?まさかの反応なのだが。そんなに辛い訓練なのだろうか?
「ねぇ、体内魔素の増加訓練ってそんな辛いの?」
「いやぁ、辛い訳じゃ無いんだけど、うーん、僕も出来るだけしたくはないな。」
そんなにか。
「具体的には何を―」
「皆の反応はもっともだ。私も出来るなら皆に経験はさせたくない。だが、体内魔素の増加にはどうしても必要なことなのだ。苦しいかもしれんが、どうか頑張ってほしい。」
となると、自然に増加はしない感じかな?魔法大全には載ってなかったけど、反応的に当たってるっぽい?
「とにかく、だ。次の講習の為にまずは測定を行う。自分の魔法の今をよく知ってほしい。今回の的はコレだ。」
そう言うと、鎌風は地面を前足で何度か叩く素振りをし始めた。
「“大地よ、
すると、僅かな地面の振動とともに地面が文字通りせり上がる。どこぞの錬金みたいな、なんて思っていたが、地面が揺れているだけで削れてるとか減ってるとかないから等価交換では無さそう。まさに魔法だな。オーラ黄色っぽいけど土魔法なんだよな。あ、この世界だと地魔法だっけ。
さて、そんなこんなで少し離れた場所に縦長の壁が約十個ほど立ったのだがこれが的なのか?もっと線書いて精度上げられるようにしたほうが良さそうだけど。
「先ずはコレに魔法当ててみて欲しい。ただし、威力は考えなくていい。どれだけ届くかだけを確認するんだ。」
さてと、最初は射程距離のテストか。操作精度.......魔素のコントロールってところか。いや、知らんて。どうやって感じないものを操作するんだよ。
「ではそれぞれ始めてくれ。」
無常にも講習は進む。やめてくれ、俺が惨めになるから。そして、皆が一斉に魔法を打ち始めた。
「“風よ、我が手に集い、敵を討て!
ヒュン
風の斬撃は的まで届くが威力が無に等しく少し音を放つだけに終わる。不可視というわけではなく陽炎のような空気の揺らぎ?が見えるため軌道が分かりやすかった。
「“大地よ、我が命に応え、敵を潰せ!
ドゴォ
アースドウォールの様に土がせり上がるが、壁ではなく土の塊が地面から射出されるカタチで的に当たる。ハンマーじゃなくて礫じゃね?
「“燃え上がる火よ、彼の者を焼き尽くせ!
ボウボウ
とってもメジャーな魔法だった。よくアニメとかで見るやつ。何処からともなく火が生まれ的へと飛んでいく。たが威力が足りず的まで後少しで消滅した。まぁ空気抵抗やら考えたら至極当然か。でも火の玉が飛ぶ感じって生で見ると案外シュールだな。興奮など一切しなかった。
「“雷よ、天の鉄槌を今ここに!
バチバチッ
おお、口元から雷が発生してる。あ、でも避雷針みたいな対象を定めるものが無いから霧散して、あぁ。雷は最初こそ勢いが凄かったが、付近の地面やら空間やらに広がって霧散していった。近接特化ってとこだな。
あっちだったらチュウニ病扱いされて絶対に言えない台詞をここでは普通に使って魔法を放ってる。
魔法を使っているのを目の当たりにし、内心はしゃいでいた。
..........え、俺コレ言うの?言っとくけどもうそんな歳じゃないんですけど。イタくない?絶対イタいよね。
「はぁ。」
「ため息をつく暇はないぞ?さぁ、迅君も魔法を使いたまえ。」
「わ、分かりました。」
さ、さぁ、やって来たぞ時亜 迅。人生初?の本格的な魔法だ。本で見た感じ今までに放たれた魔法はどれも下階級、それも第一階級なので、俺もそこら辺を唱えれば良さそう。でもなぁ、どれ使うかな。
うーん。雷、は痛そうだし、地と風は届かなさそうなんだよな。やっぱ、ここは王道を行こうか。さっきの狼も言ってたし粗方
「も、“燃え上がる火よ、彼の者を焼き尽くせ!
体から何か変なものが流れる感覚が。でも弱いから分かりにくい。おっと、身体の周りにオーラが見える。おし!成功っぽい............?
何故透明なんだ?
おかしい。さっきの狼は確か赤色のオーラだったはず。まさか詠唱ミス...........
すると、身体の中の流れが急速に止まる。そして逆流を始めた。あれ?戻ってきてね?何故?なんて思ううちに、身体が震えだした。
あ、あれ?何か寒い。これ、悪寒か?コロナの時にこんな感じあったぞ。特段気温が低いわけでもなく、風も無いはずなのに震えが止まらない。体の奥底は温かいのに歯の当たる音が鳴り止まない。
遅れて、体の、特に胃の中から気持ち悪さを感じて、体全体の血の気が引く様な感じ―
「オゴッ」
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