第四十六話 ふっかけられた喧嘩③
端から見たら冷静に見えるアイツの表情。だが内心に見え隠れする焦りが見えた。
ビンゴだな。
「てめぇ、何ってやがる。ちょっと強い攻撃が出来たからって、調子に乗ってんじゃねぇぞ........!それに、ズルだと?俺が何のズルをしたっていうんだ?勘違いにしては洒落にならねぇことを言ってんな。そもそも、俺はそんなことしねぇし、牙狼族はズルなんて卑怯な真似はしねぇ。勝手に喋んのはいいが、言っていいことと悪いことがあるぞ!」
ここにきてベラベラ喋り出す豪災。墓穴を掘りまくってるけど、本人は果たして気づいているのか?
「俺が確証も無しにこんなこと言うとでも?」
「へぇ..........証拠でも、あんの?」
「あるさ。なんなら、お前自身がそれを見せてくれてたんだぜ?」
コイツ、ここで俺を攻撃すりゃあいいものを、変なプライドがあるのか発言を許可しやがった。まぁ、そっちの方が都合がいいから嬉しいけども。
「ほんじゃ、言っていくぞ。だがその前に、鎌風さんとの講習で習った内容を確認しようか。」
「あ?何でそんなことをする必要が.........」
「黙って聞け。」
「...........」
そこは黙るんだ。
「...........何でテメェは途中からウィンドカッターしか使わなくなったんだ?」
「........................」
「お前が始めに打ってきた魔法。雷属性のライトニングボルト。階級は確か3?だったかな?」
俺は結城に視線を送る。
「うん、それであってるよ。」
結城は俺の問いかけに答えてくれた。よかった、ここで間違ってたら俺恥ずかしいから。
「よし。んで、その後すげぇことにお前は短縮詠唱でライトニングボルトを使ったよな?」
「............」
「で、ここからなんだけどさ、どうしてそんなに高階級の魔法が打てたんだ?」
「あ?んなもん............そりゃあ、俺がすげぇからだ。」
ここに来て馬鹿さが出たな。こういう時は無駄に受け答えしたらいけないんだよ。余計に追い詰められるから。
「なぁ、鎌風さんとの講習、思い出せよ。」
「........何をだよ。」
「実戦、実技面の講習。お前もよく覚えてるだろ?最初、俺たちは第一階級の魔法、一番弱い魔法から始めた。その時にさ、俺はぶっ倒れてその場から居なくなったから、結城にその後のことを聞いたんだよ。魔法に関してからっきしだったからな。」
「それで?」
「俺がぶっ倒れた後、5、6発ほど魔法を打たせて終わったらしいな。」
「あぁ、そうだったな。」
「それって鎌風さんが言ったんだよな?止めろって。」
「そうだ。」
「それって魔素切れが起きないようにするための処置だったって、知ってる?」
「...........なに?」
「生まれて十数年の牙狼はまだ体内魔素量が少なく、魔法を使いすぎると体内魔素が無くなり頭痛、吐き気、幻覚が見えるようになる等の症状が出始めるんだと。」
「............」
「要するに、第三階級の魔法なんざ今のお前じゃ絶対に連発で打てないっつーわけなんだよ。」
「........はぁ?出鱈目言うんじゃねぇよ。確かにそれは本当かもしれねぇが、俺はライトニングボルトを四回発動したんだ。俺の体内魔素量は他の奴らよりも多く..........」
「確かに、第三階級の魔法を撃てるぐらいお前の体内魔素量は多いのかもしれない。俺が参加しなくなってから一ヶ月ちょいは経ってるし、その間に成長したんだろうよ。だからまぁ、今言ったのはあくまで違和感のひとつなわけだが、決定的証拠は別にある。」
「なんだよ。」
「その証拠は皆さんも目撃しています!皆さんはお気づきですか?」
突然俺が静まり返った観戦席に向けて発言したため、周りが騒然とし始めた。牙狼たちは近場にいるほかの狼と話し合い、俺の言う証拠とは何なのかを考え必死に思い返し始めたのだが、答えは出てこないようで、時間がたつとまた静まり返った。
「まぁ、すぐには出てこないかもしれません。しかし、今講習所に通っている子供たちなら、気づけると思います。大人の皆さんは忘れてしまっているようですから。」
するとまたも騒然とする闘技場。大人達が子供達に何が証拠なのか聞き始めたようだ。当然、急に尋ねられた子供達はすぐに答えられるわけもなく、さらに煩くなっていく。
「皆さん!お静かに。」
だが、俺の一言でまた静かになる。うんうん、素直でよろしい。
「じゃあ、答え合わせと行きましょうか。」
「まず、俺は豪災の放つ魔法の嵐に成すすべもなく逃げることしか出来なかった。四方八方から迫りくる雷の魔法が非常に強力だったもので、ね。」
「..........」
「おや?皆さん、この時点で違和感に気づきませんか?」
闘技場の狼全員が首を傾げた。
「四方八方から迫りくる雷の魔法が協力だったんですよ?え?まだ分からないんですか?」
俺のあおるような言葉から狼たちが少しいら立つ。いや、これ基本中の基本だよね?
「四方八方から!迫りくる魔法、ですよ?」
「あ...」
お?声からして結城かな?流石、魔法をまじめに勉強している生徒だ。ここまでのヒントを出せば気づくわな。じゃあ、あとは分からない方々に説明するか。
「皆様、魔法の基礎知識を振り返りましょう。まず、魔法とは、体内魔素を利用して発動されるものです。階級が上になればマナを利用出来るものもあるようですが、ライトニング・ボルトのような第三階級の魔法にはそんなものはありません。」
「何が言いてぇんだよ。」
お前、まだ気づいてないのか。
「あのさ、豪災君。どうやって四方八方から放つ魔法を使えたの?」
「?......んなもん、俺が強いからであって―」
「観客の皆様!あなたたちの中で第三階級の魔法を四方八方から放てる方はいらっしゃいますか?」
豪災の戯言を行く気など俺にはサラサラ無い。遮るように問いかけたこのによって、狼たちはようやくその違和感に気づいた。俺の問いかけに反応を返す狼は、いない。いるわけないんだ。
「な?豪災。これが答え合わせだよ。本来、魔法は体内魔素を利用して放たれるものだ。逆に言えば、燃料がないところで勝手に魔法が発動することはない。」
「.......」
「体内魔素って、どこにあると思う?」
「.........」
顔が、青くなっていく。
「体内にある魔素を、どうやって体外に出して離れた地点に届かせた?どうやって燃料もないところに、一度の詠唱でいくつも......具体的に言えば四つほどの魔法を発動させることができたんだ?」
「っぁ」
声にならない声から、かすかな震えを感じた。
だが、このままだと足りない。だから、探す。周りを見渡して、挙動がおかしくなっているであろうやつ等の場所を最初に放たれた魔法の方向から割り出す。
.....居た。
「お、おい、何してんだ?」
「あそこ、ここ、それに、そこ。藍華さん!ひっ捕らえてくれ!」
「!?」
俺は三ヶ所に指を指すと、藍華さんは迷うことなくその三匹を捕らえる。
豪災の様子が明らかに変わった。
「お、お前.........」
「藍華さん!そいつ等、どうですか?」
「........アァ、迅。お前の予想通りだ。」
藍華さんは三匹の狼の首根っこを噛んで乱暴に放り投げる。その三匹は全員、顔色が悪くなっており、呼吸するのも苦しそうだった。
「完全に、体内魔素の枯渇症状だな。」
がっつりとした証拠が、あげられてしまった。
「多分そこからだったんだよな..........俺が魔法を三発同時に打たれたのって。」
震えるだけじゃ何も変わらないぞ?まぁ、今から変えられるもんなら変えてみろってところだけど。
「お前はガッツリ短縮詠唱って言ってライトニングボルトを使ったていたが、よくよく思い出してみれば詠唱間違いだらけだったし、一番抜かしちゃいけない所抜かしまくってるし。それに、途中から名前しか言ってなかったな?」
「っ!?」
「ここに来て講習をちゃんと聞いていなかったっていうのが仇になったな。」
息遣いが荒くなっていく。取り返しのつかないことをやったやつが焦りやら絶望やらでなる呼吸だよな。
目が泳ぐぐらいで止まらないと取り返しつかないことになるぞ。
正直どうでもいいけど。
「そう、テメェは絶対に出来ないことを自分だけでやったと言った。鎌風さんが止めろと言ったこともな。禁止されてることをするのも十分違反だが、それよりもテメェ、この試験もとい試合で...........なんの悪びれもなく嘘、ついたな?」
「っ、あ............」
「牙狼族は、そんな卑怯な真似事はしないんだろ?」
「え、あ」
「あ、そうかそうか、お前に牙狼族の誇りはないんだな!なるほどなるほど..........」
「違う!俺にはちゃんと牙狼族の誇りが......」
「じゃあお前が仲間引き連れて俺をリンチしようとしたことをどう説明する?」
「...........そ、それは、」
何も言い返せねぇよな?
あんな自信ありげに勝つって言っておいて、牙狼族の誇りがどうたらこうたら言っておいて、俺のこと弱いって言っておいて、こんなことやってんだから。
「まぁ、お前の計画に加担した奴らにも責任はあると思うが、お前はこの村でやってはいけないことを平然としやがった。それなのに、お前に牙狼族の誇りがあると言えるのか?」
「......」
何も言わず項垂れた豪災に、最初のころの威勢の良さは見られない。こいつはもう終わってしまった。自分から吹っ掛けた試合でズルして、それがばれたんだ。お咎め程度で済めばいいが、こいつの日頃の行いから生ぬるい処置はされないだろう。
鎌風さんとの約束が、これで果たせる。
////////////////////
『豪災を打ち負かせてほしい?』
『あぁ。』
風牙とハウスシェアしている家に戻る途中で鎌風さんは止まり、話を始めた。
『まぁ、講習内での態度を見るからに問題児なんだろうとは思ってたが、なぜ俺にそれを頼む?鎌風さんが直接咎めればいいんじゃ?』
『それは何度か試してみたが、どれも無意味だったな。しかも、奴が問題児足る所以は他にある。』
『他とは?』
『いじめだ。』
出たよいじめ。どの世界も陰湿だねぇ。
『過去、奴と同じ教室、私の担当するクラスの仲間に対して暴言、暴力をふるったそうだ。被害者からの証言だ。それは間違いない。』
『それでも対処ができなかった、と。』
『そうだ。』
悔し気に顔をゆがませる鎌風さん。ここだけ見るといい講師なんだよなぁ。
『きわめて厄介なのが、対象以外の狼が近くにやってくると一目散に逃げることだ。奴の取り巻きには姿や気配を消せる能力持ちがいるため、痕跡も探せず、証拠不足で断定ができない。』
『本当に気持ち悪いな。』
そんなことをして何が楽しいのだろうか?
『だが、奴があそこまで感情的になるのは珍しい。だから、君なら奴を何とかできるかもしれないと思ってな。』
そうだったのか。ん-、だがなぁ?
『そういわれてもなぁ。』
『.......風牙が家にこもるようになった一端が奴だ。』
『は?』
『風牙も奴のいじめの被害者だったのだ。』
そうか、風牙がこもるようになったのはあいつのせいでもあるのか.....そうか。
『それで、俺があいつと戦うと思ってるのか?』
『.........』
ただの追加情報だったわけか。
『......まぁ、いいさ。いいぜ、それを受けよう。』
『ほ、本当か?』
『ここでうそを言って誰が得をするんだよ。』
いじめはさんざん見てきた。俺もされてきた。いじめは何も生まない。ただ被害者に心の傷が残るだけだ。そうやって傷ついていく奴等を何もせずに見てきた。あっちではそれもいじめと同罪と言われた記憶がある。あの時は割って入る優位も、状況を変える力もなかったんだ。そんなこと言われてもどうしようもなかった。
でも、今回だけは違う。この世界でなら、少なくとも身近な友人ぐらい救いたい。果たして俺が戦うことで風牙や被害にあった狼たちの怒りや苦しみを和らげられるかは分からないが、
『今回ぐらいは、やりかえしてもいいよな?』
////////////////////
なぁ、風牙。これで少しは、前を向けそうか?
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