第二十話 出会い
頭が痛みで朦朧としている。
......そうだ、俺、ゴブリンと戦おうとして、
「で、どうしたんだったっけ?」
何があったのか、正直覚えていない、と言うよりぼんやりとしか思い出せないと言う方が正しい。
「お....重い。なんだこれ?いつ創り出したんだっけ?」
物を作り出せるなんて言う非現実的現象を受け入れている自分も怖いが、まずこの鎌めっちゃ重い。
.....そうか、思い出してきた。
俺はゴブリンと戦っていた。本当に戦っていたと言って良いものであったかは分からない。とりあえず逃げては止まっての擬似ヒットアンドアウェイ。
でも、それをしてたらゴブリンに左腕を、ってそういえば、
「腕、痛くないな。」
不思議に思って見てみると、左腕は真っ赤に染まっていた。ナイフで切り付けられただけの傷では到底出すことのできない量である。
俺は、この大量出血のせいで左腕の感覚を失っていたのだ。ちらりと右腕を見ると、そちらも同じようだった。
今もポタポタと血が服を伝って滴っている。
あ、こりゃ不味い、失血死する。
人間血が体を巡っているから生きていられる。どの生物も同じだが。ただ、その血が失われたら、もちろん生きてはいけない。
失血性ショックが死因の事件はたまにニュースで報道されていたが、まさか俺も今それと同じ状況に立たされているとはな。
やば、頭がぼーっとし始めてきた....移動しなくては。そう思って歩き出すが、まともに歩けず、千鳥足状態になる。
とりあえず壁......
俺は、すぐそこにあった木に体を預ける。支えを得て少し落ち着いた頃、自然と目線が下になった時に、俺はそれを見つけた。
それは血溜まりであった。真っ赤ではなく少し黒みがかった濃い紫色。
時間が経ち始めているのか、はたまた速乾性なのかは分からないが、血は固まり始めていた。所々乾いてとても濃い黒色になっている。
そして、その中心には、脊椎や首周りの筋肉であろうものの断面がこちらに向いたままの状態で存在するゴブリンの切り捨てられた頭が─
「うっ!?うぉえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。」
胃に溜まっていた物をその場で吐く。
胃の中が空っぽになるまで、吐き続けた。
その短くとも永遠に近く感じる苦痛の時間の間に、俺はようやく自分がしたこと全てを思い出した。
「そうか、俺勝ったんだ。ゴブリンと戦って、そして、首を。」
ゴブリンの首を切った大鎌に目をやる。
それは木製の大鎌。
生き物を切れるような代物とは到底思えなかった。しかも、木製にしては重すぎるのだ。全長約ニメートルちょい。
俺では絶対に持てない。
だが戦った時、俺は確かにこの鎌を手で持っていて、この鎌でゴブリンの首を切った。これは紛れもない事実。.......ものは試しか。
そこら辺の木に鎌の鋒を向け、
「すー、はー、すー、うおぉぉぉぉ」
フルスイングした。
鎌は見事に木に刺さったが、俺はその反動で倒れ込んでしまう。
血を失っている最中にやる物ではないな。
.........取り敢えず動こう。こんなところで倒れていては、また別のやつにエンカウントしてしまう。
俺は全身を使って体を起こし、鎌を杖代わりにしてまた歩き始める。
「ふー、ふー、ふー.....」
まずい、意識が。
歩き続けてから何時間経っただろう。いや、多分数十分も経っていない。
脳に送る血の量が足りてないから、時間感覚までおかしくなったのだろう。
左腕に目を向けると、傷はまだ塞がっておらず、血も流れていた。だが、一番最初の頃よりは少なくなった気がする。.........俺の体内の血の量が少なくなってきたのを暗示しているのかもな。
こんなに頑張ったのに、死にたくねぇ!
俺は、普段鼓舞することのない自分を奮い立たせ、なんとか意識を保つ。
安全なところ、せめてあの湖まで行ければ、延命措置かもしれないが、明日まで命を繋ぐことができるかもしれない。
そんな小さな希望を胸に進む。
ズルっ
「え?」
瞬間、杖をつく足場がないことに気がついたがもう遅い。杖代わりにしていた鎌に全体重を乗っけて歩いていたため、俺は下まで転がった。
「ガァッ、ダッ、イッ、ヅゥ」
かなり急で硬い斜面だったのだろう、あちこちを打った。
辺な声が出る。息が吸えない。そして、俺はこの斜面の終わりであろう地面にぶつかりようやく停止する。
急いで仰向けになり呼吸をする。
「ははは、こんなことになるんだったら小説、もっと読んでおくべきだったなぁ。」
自分のやれなかったことに後悔した。
もっとこうすればよかったなんて考えていると、自然と涙が出てきた。
くぅ、うぅぅぅぅぅぅぅ。
辛いよぉ、寂しいよぉ、死にたくないよぉ!
周りの静寂が、なお孤独感を強める。
「~~~~~~~~~~、~~~~~~~~。」
!?
今、なんて?
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。」
っ!!
遠くから、微かな声が聞こえた。
幻聴なんかじゃない、紛れもない俺の知る言葉だ。
人がこの近くにいる。山賊なんかだったらその時は詰みだが、この可能性に賭ける。俺は必死に立ち上がり、鎌を使って今出せる最大のスピードで音の聞こえた方へと進む。
心なしか、木の高さが低くなっているように思える。さっきまでいた場所とはまるで違うようだ。そして進んでいると、視界が開けた。
そこには、
「む、村だ!!」
村があった。建造物なんかがあり、かなりの広さの土地に柵が置かれていた。街である可能性もあるが、そんなことはどうでもいい。とにかく、助かる可能性が見えてきた。
俺は村の入り口へと行こうとした。
「ようやく見つけたぞ。」
だが、行くことは出来なかった。
後ろから声をかけられた。誰かは知らない。だが俺を見つけたって?
その言葉に疑問を持ちながらも振り返る。
そこには、一匹の巨大な狼がたたずんでいた。
見つけたと言う言葉に納得がいった。こいつはモンスターだったんだ。そして俺を追い続けて、弱ったところで捕まえにきたってか?
本当趣味悪いな。
俺は、その事実に対する恐怖か、はたまた血を失いすぎたのか、その場で眠るように意識を手放した。
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「おい、少年!?大丈夫か!」
目の前で人間が倒れた。
慌てて駆け寄ると、彼の体に無数の傷が見受けられた。
そして左腕からは血が流れている。
「傷痕は...........何故だ、何故塞がらない!くっ、顔色が..........!」
血は一向に止まる気配がない。彼の顔は明らかに青白くなっていた。今すぐ連れて行かねば。
そして、私は少年を背中に乗せ、我らの村へと走り出す。
これが、この世界で時亜 迅が彼らとの初めての出会いであり、そして、彼が自分が何者なのかを知るきっかけとなる。
そのことを、この時、時亜 迅はまだ知らなかった。
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ドクン、ドクン、ドクン
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