愛憎

「...ありがとう」

 あれから俺は彩夏が座っているベンチに並ぶように腰掛けた。

「おう」

 ...元カノと夜のベンチで二人、流石の鬼畜なぼっちとてこれはキツいぜ...!

「何で、が分かったの?」

「昔、落ち込んだらここに来てただろ。だから、ここかなって」

 落ちるところまで落ちている俺とは違って昔から彩夏は繊細な少女だった。

「...そっか...でも、大丈夫?」

 彩夏は俯きながら呟いた。

「何が?」

「...織音と付き合ってるん...じゃないの...?」

 こちとら、現在進行形で織音にチキンandクズ男っぷりを見せつけて迷惑を掛けている所だ。

「俺が人間不信過ぎて付き合ってないな」

「...ごめん」

 彩夏は一瞬笑みを浮かべた後、すぐに顔をくしゃりとしかめた。

「なんで、謝るんだ?」

 本当にわからない。

 彩夏が俺に謝罪する道理など、どこにもないだろう。

「...私のせいでしょ?私が君を傷つけたから」

「彩夏が俺に何をした?」

 何もされた記憶がない。

「...殴ったりしたでしょ...?」

「あれは同意の上だし、暴力ではないだろ」

 あれはあくまでもただのスキンシップであり、俺もそれを許容していた。

 ならば、彩夏が悪いことなど一つもない。

「...でも!なら、なんで...?」

 彩夏は縋るようにこちらを見つめてきた。

「なんでとは?」

「...えっと...ごめん!織音も心配してるし...帰るね!」

 彩夏はまたあの時のような表情を浮かべ走り去っていったのだった。



 あれから家に帰り家族に頭を下げた私は自室で一人、窓から鉛色の夜空を眺めていた。

「...何、言ってんだろ...私」

 あの時私は光希があの行為に対して嫌悪感を持っていなかったのならば、なぜ自分を拒絶したのかと問い掛けたくなってしまった。

 あんなの私に忖度して言ってくれたに決まっている。

 なのにも関わらず私はあの時、復縁すら迫ろうとしていた節すらある。

 本当にこんな自分が憎い。

「織音も狙ってるのに...!」

 私は自分のことを気に掛けてくれた妹の意中の人を奪おうとしたのだ。

 窓のガラス越しに見えてくる自分の顔に吐き気がする。

 私はこんな自分が許せない。

 私は深呼吸をし、一通ずつLINEを光希と織音に送ったのだった。

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