『未来は手の中に』
…………どうしてこうなった?
「ねエねエ! ワタシにもお菓子分けてくだサイ! 独り占めタブー! ダメダメですカモよ!?」
……何が、どうしてこうなった?
「えー、僕が買ってきたのに。 それにこのグミ、
「エー! 面白いデスね、ジパングのガミーはヘンテコでミステリー、興味アリーデース!」
どこで、何を間違えた?
「おい、遊びじゃないんだぞ? 煌、君も私の話をちゃんと聞いているのだろうね? 何度も説明させないでおくれよ」
「あ、あぁ……」
日継高校 部活棟3F、その一室。
そこに、オレ達五人は集まっていた。
野崎、御山弟、メレンゲ、そして…………
「あの、本当に私……、参加して良かったのでしょうか……。 保健室登校ですし、ほとんど活動できないと思いますが…………」
「部活動の
……何がどうなったら、世間を賑わせるテロリスト達と一緒にオカ研を始めることになるんだ?
「なんだい煌、不満そうな顔をしているね。 仮面や権能について、組織や世間の目を避けて情報共有の出来る場を確保しながらも、私たちが知らずに違反していた部活動所属必須の校則の対策となる。 なんとも素晴らしく考え抜かれた案だと思うけど? 何か不服な点でも?」
「いや……、ねえよ。 正直、オレは権能のことはほとんど分かんねえし、今までお前らからしっかりした説明もされてこなかった。 だからありがてえっちゃありがてえしな。 ……それに、何だっけか。
「当然、良くはない。 けれどね、『
「ゴウェ、ゴエ……、難しいデス!! 日本語でおkデス!!」
「……既に日本語だが?」
「ドーユー意味デスなのそれ!」
「敵同士の者たちが、利害のために一時的に協力し合うという意味だが」
「あの……。 メレンゲさん、でしたっけ……? あっ、横からすみません。 あの、前に本で読んだことがあります。 海外の方が日本の
「オー! とってもベリー名案デスわネ! エート、エート……、Go wets done shoot?」
「おー、似てる似てる」
「ヤッター! これでワタシも日本語のタツジン!」
「……先が思いやられる」
やっぱこいつらといるとシリアスな場面でも急に砕けるっつーか……、
「まあいいだろう。
「ああ……。 あの人ダルがりだからなあ……、仕事なしで顧問役になれるなら楽だろうし、給与の足しにもなるし、他の仕事を断る口実にもなるだろうからな……」
「逆に、私たちに限ってはしっかり活動確認してこられた方が面倒だ。 その点、霧山は最適だろうよ」
「そういえばお前、一条には部活動新設の申請だしたのか? 確か生徒会長の承認がいるはずだろ?」
「抜かりはない。 活動内容がどうのと聞かれたけど、君の名前を出したらすぐに許可が降りた。 プライドの高いあの男のことだ、煌を見くびって扱っていたせいで
あの一条が、オレに期待……?
想像のできねえ話だ。
だがそう言われると応えたくなる気持ちもなくはない、が、オカ研じゃあ期待に応える活動は出来なさそうだしな……。
あいつには悪いが、今回は退学騒ぎを起こされた迷惑分の謝礼として受け取っておくことにしよう。
本当はこんなもんじゃ済ましたくないが、あいつとの投票戦のおかげで『支配者』の正体も分かって、退学なんかよりずっとヤベェことが起きる可能性を未然に防げたワケだしな……。
「ということで、部長。 音頭を取ってくれ」
「はぁ!? 部長オレかよ! お前が申請したんだからフツーに考えてお前が部長だろ!」
「私は副部長だ。 もう申請書は通っている、変更不可だ」
「くそ……、面倒ごとばっか持ってくる悪魔め……!」
「それは
メンバーの視線がオレに集中する。
なんで……、どうしてこんなことに。
オレが狭間の立ち位置なんつー半端に居座るもんだから、災厄が降りかかって来てんのか?
「……まさかお前らと部活する日が来るなんてな、思いもよらなかったぜ。 だってよお、オレはここに全員に殺されかけた経験があんだぞ!?」
「そ、その件は……、本当にごめんなさい……。 第二人格がやったこととは言え、私は……、なんとお詫びすれば、いいか……」
「チョット! ワタシはキラくんサンとお喧嘩した記憶ナシですが!?」
「いやいやあったんだよ! 後ろからガッツリ掴まれて、炎みたいなの近づけられてよ! でもそれは夏休みの時でループの途中だったから、オレ以外が憶えてないのは当然で……、ってこの話お前らに何度もしたよな!?」
「殺されかけるなんて人聞き悪いなあー、僕がそんな酷いコトするワケないじゃんー」
「オレの記憶が正しけりゃ
「君が頼りにしているその記憶だって、人生の9割以上喪失してしまっているじゃあないか。 あまりにも信用出来ない。 それにもう、過去のことは水に流してやりなよ。 これからは一時的な協定を結んだ仲間になるんだからね」
「テメェ自分のこと棚に上げやがって!! 最新の殺されかけ記憶はお前なんだが!?」
脳裏に『いつもの場所』がチラついた。
文句ばかり出てくるが、まるで新しい居場所が出来たみたいで、少し
「……はぁ、いいよもう! まあじゃあ、早速だけど部活始めっか。 オカルト研究部、新設っつーことで」
メレンゲがどこに用意していたのか、紙コップと大容量のみかんジュースを出して配分し始める。
クッキーに煎餅まで用意して、まるでパーティかお茶会だ。どんなシリアスな会になるかと身構えていたが、弛緩した空気が平たく続く。
これで良いのだろうか……?
不安だらけのまま、活動が始まった。
―――――――――――――――――――――
「……
「ですから……、『
「『
「追跡しましたが……、『
7thが鋼鉄の腕で机を叩くと、近くのラップトップやマグカップが跳ね飛んだ。
「……なんという失態だ。 現代科学の
「7th、貴方も補給と休暇を――――、」
「
白衣の研究員が怯えた様子で部屋を出ていこうとすると、その直前に自動ドアが開き廊下から人影が入室してきた。
「……何を騒いでいる」
「あッ……、『
研究員の呟きを聞いた7thは、高熱のフライパンにでも触ったみたいに飛び上がって振り向いた。
そこには
数々の勲章が貼り付けられた純白の軍服、腰には時代遅れの帯剣。生者の毛髪とは思えない銀髪に、虚空を覗いているような空っぽの目。
しかし、何よりの特徴はその顔だ。
左半分を覆う巨大な火傷痕が、無表情の顔面を猟奇的に装飾している。
「アイン、どうして
「……予定が狂った。 計画を早める」
「
「欠けたピースは私の権能で補う。 恐らく『
「……
「ああ……。 私達、人類に
アインの色白い手が、己の火傷痕を
その空虚な瞳の奥に隠すのは、静かに燃える憎しみ。灰を散らす、白銀の炎。
「……未来は、我々の手の中にある」
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