『遊』






「……本当に、ここで合ってんのか?」


「遥夏の送ってきた暗号ウラルの地図通りだよ」


「URLな。 表札は水島だし、間違いないよな……。 遥夏の家って実は、中々なお金持ちだったりするのか……?」




 『いつもの場所』メンバー、夏休み二つ目のイベントは宿泊会だった。

 今夜は提案者の遥夏の家に全員で泊まり、オールでピザやコーラでパーティー!との声掛けで集められた、が…………




「こいつはただの家じゃねえ、邸宅だ。 今日呼ばれたのって、ピザパーティーだよな? 立食パーティーじゃあねえよな?」




 休日だと言うのに何故か学校の白シャツを着た野崎が、扉鐘ドアベルを鳴らす。

 すると、スピーカーからの返答もないまま、玄関がバーンと開け放たれた。




「待ってたよん二人ともー! ささささ、入って入って〜!」


「お邪魔します」


「お、お邪魔します……」




 遥夏の後ろを追って広いリビングまでいくと、涼しい空気に包まれて、大きなテレビモニターを占領し格闘ゲームをする仁と勝人が待っていた。




「こいつはどうだぁ!!」


「まだまだだね、読み通りさ」


「ばーーーーかっ! それくらい俺も読んでんだよっ!」


「ふふふふ、言ったはずだよ、だとね!」


「なっ!? お前、こんな所にリモート爆弾を……! ま、まさか、最初から俺をこの崖際におびき寄せるつもりで……!」


「そのまさかさ!」


「うおおお!! 死ぬっ! 死んでたまるかああああ!」




 人の家なのに、うるせえよこいつら。




「大丈夫大丈夫。 親、今日いないからさ」


「つっても、こいつらの奇声は流石に近所迷惑になるレベルだろ」


「んーん、うちのママ、趣味でよくヴァイオリンするんだけど、家の壁が防音でできてるから問題ナシなんだって! だから大丈夫! 皆がどれだけ叫ぼうと助けは来ないよ!」


「え? 今からオレ達って殺人鬼に襲われたりすんの?」




 パーティーはすぐに始まった。

 持ち寄ったお菓子が机中に広げられ、キッチンの二台置きされている冷蔵庫から肉だらけの特大サイズピザが三枚もでてきて、「男子三人もいるんだからいけるでしょ!」と手を付け始めたが、二枚目が終わった頃にはもう、誰も顎を動かさなくなっていた。




「……美味かった。 美味かったよ? でもよ、遥夏。 なんで三枚とも同じ味なんだよ……?」


「だってぇ、お肉ドカ盛ベーコン生ハムピザ、美味しそうだったも〜ん……」


「……美味だが、美しくない。 生ハムにはチーズとメロンが最適解と立証されたね。 これじゃあ塩分過多で死んでしまう」


「野崎さんって、凄い食生活してそうだよね……」


「俺に任せろ! 食い切れるぜ! ピザをこう、真ん中で折って二重にするとよ、一枚しか食べてない気分で、二枚分食えんだよ! しかも味が二倍で美味ぇぞ!!」


勝人オメーは病み上がりなんだから無茶すんじゃねえよ!」




 食後に一番風呂を借りた。

 浴室なのに空調が取り付けられていて、溢れる熱気を冷房で冷やしたらきっと気持ち良いだろうなあと想像しながら、スイッチを押すのはめておいた。


 着替え中、服籠に入れられた桃色の女性用下着に気が付き、視界に入れぬよう気を払いながら、下敷きになっていた服を引っ張り出して上から隠した。

 遥夏の抜け具合には、本当に頭を抱えさせられる……



 順に風呂から出てきたところで、巨大コースの双六すごろく大会が始まった。

 宇宙人が当然のように住み着いた世界線の日本を舞台に、人間と宇宙人のハーフとして生まれたキャラクターを操作して、マスに書かれた様々なライブイベントを越えて一生を過ごし、ゴールを目指すゲームだ。




「私は初めて双六すごろくを遊ぶけどね、この作品が普通じゃあないことくらい分かる。 "宇宙人排他主義者に差別されて5000マネーを奪われる"だって? なんだこのイベントは! 非現実的すぎるだろう!」


「はぁ? "母の星からの帰星命令を受けたので15マス戻る"!? 戻しすぎだろどうなってんだよこれ!!」


「やったぁ! "大統領のマインドコントロールに成功! 国をひとつ選んで獲得する"だって!! これで私もプレジデントだよ!! イケメンSPに囲まれて次期エリア51管理人だよぉ〜!!」




 マニアック&シビアすぎる双六すごろく大会の結果は、野崎のぼろ負け。

 不動産で資金運用し富と人脈を得た堅実な仁と、圧倒的な運と超能力による洗脳で地球制圧ルートを突き進む遥夏の接戦となったが、最後には衛星レーザーで仁の持つ物件を全て焼き払うという力業で遥夏が勝利を収めた。

 そう、お分かりの通り、明らかなクソゲーだった。



 時計が二時が指し示し、仁が眼鏡を外して目を擦り始めてもまだ、元気一杯・天真爛漫の遥夏が次のボードゲームを持ってこようとしていたので、野崎と二人で睡眠をけしかけ、寝室へ押し込んだ。

 遥夏はドアを閉められる最後まで、「全員一緒の部屋で寝るの! せっかくのお泊まり会なの! 恋バナするのーー!」と大騒ぎしていた。

 男子組と女子組が同じ部屋で寝るというのは、さすがに問題がある。しかもこっちには、一応病院から抜け出してきた治療中の勝人もいる。お前の元気に当てられて傷口が開きでもしたら大変なんだ。

 仕方の無い采配なのだ。

 これくらい我慢せよ、遥夏よ。



 部屋の布団につくなり、仁も勝人もすぐに眠ってしまった。

 神無月家と病室以外で寝るのは初めてだ、眠れるだろうか、頭痛なんかにうなされて周りに心配をかけてしまわないだろうか、なんて考えている内に、天井の模様と目蓋の裏の黒が同化していた。




 夢は、見なかった。

 問題なく、すっきりと眠れた。


 最近は眠りが安定していて助かっている。

 事件に巻き込まれたりなんかで、身体が疲労しているからだろうと適当に理由をつけていた。

 何のおかげにせよ、嬉しい限りだ。


 だが……、どうしてかわからないが、

 最近はそれが、逆に違和感にすら感じ始めた。

 不安定に慣れすぎてしまったのかもしれない。




 深い眠りの中で、ただぼんやりとした不安を感じながら無意識に落ちていった。






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