第9話 次の目的地

 昨日に引き続き、俺達は村長さん宅の空き部屋で一泊させてもらう事となった。


「……それでナナ。今後はどうすればいいんだ」


 寝る前、俺の部屋にやって来たナナとこれからの計画を話し合う事にした。


「俺達の最終目標は魔王討伐だ。けど、俺にはその魔王がどこにいるのかさえ分からない。お前はなにか知っているのか?」


「そうですね」


 ベッドに腰掛けながら言う俺に、簡素な丸イスに腰かけたナナがうなずく。


「天界が得た情報によりますと、ここテティス王国では現在国を挙げて魔王討伐の準備が進められているようです。正規軍はもちろん、『冒険者ギルド』からも戦力を募集する予定だそうです」


「冒険者ギルド。報酬と引き替えに人々から受けた依頼を解決をする『冒険者』を取りまとめる組織……だったな」


 天界で聞いた話(軽くだけど、一応その辺りの説明は受けた)を思い出しながら言った。


「ええ、そうです。魔王とその軍勢との戦いは今日とは比べものにならないほど厳しいものとなるでしょう。まずは冒険者として活動しながら実力を磨きつつ、いずれ行われるであろう魔王討伐隊参加者の募集に備えるのはどうでしょうか」


 仮に居場所が分かったとしても、いきなり魔王の元へ向かうのは無謀すぎる。まず経験を積むってのはごく妥当な方針だ。こっちで暮らしていくためのお金だって稼がなきゃいけないし、一石二鳥である。


「異論はないな。……そのためにはギルドのある町へ行かなきゃならないけど、それはどこにあるんだ?」


「先ほど村長さんから地図をお借りしました。……これを」


 ナナはベッドの上に地図を広げる。


 どうやらこの辺りの地図らしい。町や村の位置はもちろん、川や森、山などの地形までかなり細かく描かれている。


 ナナは地図の一箇所――周囲をぐるりと壁に囲まれた町を指さす。


「ここにリニアという大きな町があります。この国の冒険者ギルド本部が存在しており、通称『冒険者の町』と呼ばれています」


「ここから向かうのにどれくらいの時間がかかる?」


「徒歩でおおよそ三日との事です。街道を通れば魔物や盗賊などに襲われる心配もありません。……いかがでしょうか?」


 ナナから確認を取られるが、そもそも俺はこの世界の事はまるで分からない。意見のしようなどなかった。


「ああ。それでいいよ」


「決まりですね」


 という訳で、次の目的地は『冒険者の町リニア』に決定した。





 翌日。


「行かれるのですか? 救世主様、聖天使様」


 村を出る俺とナナを、村長さん始め多数の村人達が見送りにきてくれていた。


「はい。みなさんには色々とお世話になりました」


「その上、私達のために旅の資金まで用意していただいて。本当に感謝していま

す」


 ふたり揃って深々と頭を下げる。


 俺達には、『今回の報酬』という事で村長さんから硬貨の詰まった皮袋を手渡されている。もともとは冒険者ギルドへの依頼費用として用意したものらしい。


 魔物の脅威は去ったとはいえ、まだまだ食料や物資不足で厳しいはずだ。その上さらに資金まで出させるのはさすがに気が引けたのだが、村人達から『最初から使うつもりの金だったんだし、気にせず持っていってくれ』と勧められた。


 俺達も先立つものが必要だし、素直に受け取る事にした。


「いえいえ、当然の事です。本来であれば村人の生き血を捧げるべきところなのでしょうが……」


「ずっと思ってたんですけど、なぜ村長さんの救世主像はそんな血なまぐさいんですかね」


 もっと希望あふれる救世主像を思い浮かべたっていいんじゃないか。


「あんたら、これからリニアに行って冒険者になるつもりなんだって?」


 村人のひとりが言った。


「はい」


「そうか。あんたらならきっといい冒険者になれるだろうさ」


「思い返せば、あんたらって本当に不思議な人達よねぇ。冒険者でもない人間が、夜中に天使を連れて森の中をうろついてたりして。だけど、そのおかげであたし達の村は助かった。村長の言う『村を救うために遣わされた救世主』ってのも案外間違ってなかったりするんじゃないかい。ねえ、どうなんだい?」


「はは。それはご想像にお任せしますよ」


 まさか『死んで転生したらあの森に出ました』なんて言う訳にもいかないので、適当にはぐらかす。


 ちょっとムシのいい考えかもしれないけど、救世主の二つ名は素性をごまかすのに便利とも言える。ここは都合よく利用させてもらおう。


「……うむ。どうやらまたひとり真実に目覚めし者が現れたようじゃな。この調子で覚醒者を増やし、いずれ世界を次なる段階へと進めていかねばな……」


「前言撤回します。救世主とかじゃ絶対ないです。本当です」


 うん、やっぱこういう話はうかつに利用なんてしちゃダメだな。確実に面倒な事態になる。


「まあまあ。彼らは村を救ってくれたんだ。少なくとも怪しい人達じゃないよ。今さら詮索なんてしないでおこうじゃないか」


「そうしていただけると助かります」


「私も、とあるお使いで地上に下りただけですので。『天使が地上にいる』からって、そんな大げさに捉えなくて大丈夫ですからね」


 ナナの言葉に村人達が『ああ、なるほど』『なんだ、ちょっと身構えてたよ』とのんびりうなずき合う。


 彼女の言葉に嘘はない。まさかお使いの内容が『魔王討伐の手伝い』だとは思わないだろうけど。


「それじゃあ、俺達そろそろ行きますんで」


「救世主様、聖天使様、改めて感謝いたします。よろしければまたいつでもこの村にいらして下さい。その日までに村人全員を覚醒させておきますから」


「どうかこのままの村でいてください」


 願わくば、村長さんが正気に目覚めてくれる事を望みます。


「……それじゃあ。俺達はこれで」


「ありがとうございました~」


 村人達に手を振りながら、俺達はリニアへ向けて出発した。



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