体の大半を妖怪に奪われた僕は、狐幼女(仮)と共に

琥珀ミライ

第一章 右腕

第1話 奪われた星月崇という男

 暗い、痛い、寒い。

 でも今、自分に起きている事は分からない。

 何故なら、今僕は目が見えないし、耳も聞こえない。

 それどころか、両手両足の感覚もない。

 ただ感じるのは、とてつもない痛みと共に体から熱が奪われていく感覚だけだ。

 そんな中で、僕が思っていた事は只々後悔だ。


 何故、僕はこんな所に来てしまったのか?

 何故、僕は逃げなかったのだろうか?

 何故、僕は……彼女を助けようとしたのか?

 結局、何も出来なかったのに……。


 しかし、今更そんな事を考えても意味の無い事だ。

 もう僕が出来る事は、そこまで来ている死という現実をただ待つだけだ。

 絶望的状況の中、僕にある声が聞こえた。厳密には今の僕は耳が聞こえないので、心の中に響いてきたというべきか。


「馬鹿者が。だから、我はかまうなと言った。お主が来たところで、何も変わらぬと……この結果はそんな忠告を受け入れなかったお主の責任じゃ」


 僕はその声を聞いて、少し後悔の念が薄らいだ。

 どうやら僕のしたことは、全くの無駄ではなかったようだ。

 自分の気持ちを伝えたいが、もうすでに僕の喉からは声が発せられない。

 ただ口をパクパク動かすだけだ。


「ふうっ。すでに話す事も出来ぬか……。しかし我もお主と似た状況じゃ。何とか奴らを蹴散らすことは出来たが、この身がこの心の臓を支えるのは難しいじゃろう。さて、ここからが本題なのじゃが……お主は生きたいか? たとえその身がどうなろうが、その運命がどうなろうが……お主は生きたいか?」


 僕はその問いに、口をパクパク動かした。


「……そうか。お主がそう言うならそうしよう。こう見えて、我も少なからずはお主に感謝しておる。都合よく、ここには奴らの落とし物があるし、その造形を戻すことは出来るじゃろう。……さて、少し痛いが我慢しろ。我もそれなりに痛い思いをする。では……ゆくぞ」

 

 そう言うと、僕の胸に彼女の手が触れた。

 それと同時に、その手は僕の胸を突き刺し、中をえぐった。

 もうあらゆる痛みを経験し、これ以上その感覚が入る余地が無いと思ったこの身に、感じたことも無いような激痛が体の隅々まで駆け巡る。

 口からは血反吐が漏れ、たいして動かない体をねじらせる。


「我慢しろ。すぐに終わる……では行くぞ」

 

 次の瞬間、自分の中から熱い物が抜けたと思ったら、すぐに違う熱い物が体の中に入ってきた。


「はあっ、はあっ、はあっ。……よし、これでひとまずは安心じゃろ。我の物をお主に預け、お主の物を我が預かった。これで我とお主は文字通り一心同体じゃ」

 

 彼女が僕の中に何かを入れたとたん、僕の体は先程の凍えるような寒さから、どんどん暖かさを取り戻した。いや、温かいどころか燃えるように熱いくらいだ。


「安心しろ。そのうち、その身が慣れて落ち着いてくる。……さて、その他の部分も繋ぎ合わせてやるか。そのままでは、例え命があろうともどうする事も出来んじゃろ」


 峠を越したであろう僕に、彼女はまるで赤子を扱うように僕の体のあらゆる場所を触れていった。

 彼女のほてりを取る様な手の冷たさに心地よさを覚え、いつの間にか眠りについていた。


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