華のJKですが、組長の家族の護衛してます

波野夜緒

第1話

「遊園地、ですか?」



夜月組長ご自宅のリビング。


そこで私は目の前の人物が言った言葉を繰り返した。


初めまして。私は百瀬時雨、華の女子高生です。


なんだコイツ、そう思った方、その通りです。アナタは正しい。


夜月組長ご自宅のリビング、それはつまりヤクザの組長の家のリビングを表す。


まあ、そのまんまである。


でもって、女子高生の私がなぜそんなところにいるのかといえば、いろいろあったとしかいいようがない。


強いて言うなら、私がしていた情報を売る仕事の縁だろうか。


さて。そこでケーキをご馳走になりながら私は美咲さんと美杏ちゃんの護衛をしている。


美咲さんは夜月組長の奥さんで美杏ちゃんはその娘さん。


どちらも私の護衛対象だ。


ちなみに、女だとなめられるという理由で男装させられているのは非常に納得がいっていない。


誰だ、こんな案出した奴。


さっさと名乗り出ろ、半殺しにしてやる。


と、まあ、それはさておき。


美咲さんは病弱だけど最近は調子がいいらしく元気そうで何より。


美杏ちゃんも美咲さんと一緒にいれて嬉しそうだし。


正直、今の状況的に護衛の意味がわかんないけど、ふわふわとした空気が流れている。



「そうなの。チケットを貰ったんだけど、博さんは忙しいし、私と美杏で行くとなれば時雨ちゃんも来るでしょう?」


「そうですね。夜月組長次第ですけど」



美咲さんの言葉に苦笑する。


ヤクザと一番程遠そうな穏やかな美人である美咲さんが夜月組の姐さんなのは謎だけど、これは博さんこと夜月組長が悔しがりそうだなぁ。


あの人、普段は厳しいしすぐ手が出るのに、奥さんと娘さんにはめっちゃ甘いし。


家族でいるときの夜月組長見た構成員の顔よ。


幽霊でも出たの?って感じ。


何も知らない美杏ちゃんは「ゆーえんち!」と嬉しそうに声を上げる。


ひたすらに可愛い。



「それとも時雨ちゃん、チケットいる?」


「いやぁ、オヤジによく呼び出されるんでちょっと使う暇ありませんね」



私は笑いながらやんわりと断る。


うちの弟たちは行きたがるだろうけど二人とも小学生だから保護者がいないといけないし、母さんは入院中だし。


そもそもオヤジ、矢神組長の急な呼び出しに対応しなければならない。


オヤジは私の雇用主であり、夜月組は矢神組の傘下にあたる組だ。


よく分からない人で、どうしてもお金が必要な私のことをかなり好条件で働かせてくれている。


いや、社会的にはアウトだし、学校にいる時と家の事情以外で無視するとガチめに殺される可能性はあるけども。


あれ?これを好条件とか言ってる私ってもしかしておかしい……?


そんな事を考えていると、夜月組長が部屋の前を通りかかった。



「あ、博さん」



美咲さんに名前を呼ばれ、夜月組長がこちらにやってくる。



「どうした、美咲」



やっぱりいつもと雰囲気違うな、夜月組長。


デレデレとまではいかないけど顔が完全に緩んでる。


それでいいのか、組長。



「実は、遊園地のチケットを貰ったんだけど、期限が近くて。博さん、予定空いてないでしょう?」


「……ああ、そうだな」



組長の顔が一瞬歪む。


申し訳なさが溢れ出てて逆に怖いです。


罪悪感で切腹するとか言い出しかねない。まあ、冗談だけど。


しかし、美咲さんはお構い無しに話を進める。



「それで、美杏も行きたがってるし、時雨ちゃんがいれば行ってもいいかしら?」



美咲さんが言葉を言い終わり 、夜月組長がこちらに視線を向けてくる。


それはもう、恐ろしい。


めちゃくちゃ睨んでくるし。


カタギに向ける顔じゃないのよ、それ。


私がカタギかはさておき。


背筋が凍るのを感じつつ、組長が口を開くのを待つ。


すると、美杏ちゃんがちょこちょこと組長に近づいていき、スーツを少し引っ張った。



「おとうさん、だめなの?」



天使か。


こてんと首を傾ける美杏ちゃんに組長が動揺するのがわかった。


流石、親バカ。


娘には弱い。


やがて、組長は小さく息を吐き出してから小さく返事をした。



「楽しんでくれば、いい」


「ほんとうに?ありがとう!」



美杏ちゃんが目を輝かせてぴょんぴょんその場で跳ねた。


その様子を美咲さんが微笑みながら見守っている。


今日も平和でだなぁ。


てか、こんなに緩くていいのかなぁ。


のんきに眺めていれば、突然肩に手が乗せられた。



「よ、夜月組長」



びくりと体を震わせつつ振り返れば、そこには世にも恐ろしい顔をした組長が立っていた。


鬼も泣いて逃げ出すよ、これは。



「百瀬、何かあったら承知しないからな」


「分かってますって……」



ドスの効いた声で言われ、私はあまりの迫力に目を逸らす。


この人、なんなの。


そう返事をして、目を逸らした。





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