114話 仕上げの甘々デート


 食事を終えた俺たちは、午後の予定について話し合い、馬車の出発時刻まで、各自の自由行動にしようということになった。

 

 トゥーリアは色々とお土産屋を見て回る予定。

 ソフィーは本屋で色々と本を物色するらしい。

 ミステルは昨日の戦いでダメにしてしまった洋服について、同じものをもう一着買うために洋服屋にいきたいそうだ。

 

 そんな彼女たちの予定を聞いて、さて俺はどうしようかと腕を組んで考えていると……


「ミステル。せっかくだから、服屋にはニコと一緒に行ったらいいんじゃない?」


 トゥーリアがミステルにそんなことを提案した。


「え、でも悪いですよ。ニコも用事があるかもしれないし――」

「なにそんな遠慮してんのさ。キミたちはもう恋人同士なんだから。胸を張ってここぞとばかりにデートしないと。もうしばらくエルミアに来る機会はないかもなんだよ」

「で、デート……」


 トゥーリアの言葉を受けて、ミステルの顔が少し赤くなって、チラリとこちらに伺うような視線を移してくる。

 

 もちろん俺も内心ちょっとドギマギだ。

 二人とも、恋人という関係性に全然慣れていない。


「同じ服を買うのも悪くないけど……ニコくんがもっといい服を選んでくれるかもよ……」


 ソフィーもトゥーリアの意見に賛成らしく、悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言った。


「あの……ニコは……どうですか? この後、予定は……」


 トゥーリアたちに背中を押されて、ミステルは恐る恐るという感じで、上目遣いになって聞いてきた。

 

 俺としては一昨日の午後に自由行動をしたときに、自分の用事はあらかた済ませてしまったため、特に予定はない。

 ……というか、自分の恋人にこんな風に聞かれたら、例え用事があったとしても断れるわけがない。


「大丈夫。特にこれといって予定はないから」

「そ、それじゃあ……一緒に来てもらってもいいですか?」

「もちろんだよ」

「ありがとうございます……」


 ミステルは俺に向かって嬉しそうな笑顔を見せてくれた。

 彼女にそんな表情を向けられた俺は、思わずデレっと頬が緩んでしまう。

 そして、そんな俺とミステルの様子を見て、トゥーリアとソフィーはニヤニヤと笑っていた。

 

 ……なんだかいちいち恥ずかしい。


 ***


 黄金の羊亭を後にした俺たちは、トゥーリアやソフィーと一時別れ、ミステルと共に大通り沿いにある洋服屋にやってきた。

 その店では女性物の衣服を専門に扱っており、店内に入ると様々なデザインの服が所狭しと並んでいた。


「ミステルが昨日着ていたワンピースはここで買ったの?」

「はい、そうです。その――恥ずかしながらわたし自身はお洒落というものに疎くて……トゥーリアとソフィーに選んでもらいました」


 ミステルは少し照れ臭そうにそう言った。


「でも――これからはもう少し気を配ろうと思います。ちゃんとお洒落のことやお化粧のことを勉強して……」

「そうかな、俺はいままで通りのミステルでいいと思うけど――」


 俺は本心からミステルにそう言葉をかけた。

 だってミステルは今のままで十分可愛いし、綺麗だ。

 無理して変える必要はないと思う。

 

「だって……あなたの隣に立つんですから……少しでも綺麗になりたいです……」

 

 ミステルは俺の方を見ながら健気けなげな気持ちを吐露とろして、さらに顔を赤くして俯いてしまった。


「あ……えっと……」

 

 俺もつられて顔が熱くなっていくのを感じる。

 ミステルに返す言葉がうまく見つからなかった。


 なんで可愛いんだ。反則だ。


 しばしお互いに沈黙してしまい、なんとも言えない空気が流れる。

 えっと、話題を――


「そ、それじゃあさ。昨日着ていた洋服と同じものを買うとして。それとは別の服も買ってみる?」

「別の服ですか?」

「うん、俺がプレゼントするよ」

「え、悪いですよ。昨日髪飾りをプレゼントしてもらったばかりなのに」


 そういってミステルは自分の頭に手を伸ばして、銀髪につけられたミュオスティスの髪飾りを撫でた。

 今日の彼女は昨日のようなヘアアレンジはしていないけれど、髪飾りだけはしっかりと身につけてくれている。


「その髪飾りは俺からきみへの初めてのプレゼント。それで今日は、俺たちが付き合った記念のプレゼントだから、別モノさ」

「でも――」

「俺がミステルにプレゼントしたいって思ってるんだ。大丈夫! 幸いお財布はかつてないほど潤っているからね」


 俺の言葉を受けて、ミステルは未だ少し迷うような素振りを見せたが……やがて小さく微笑み、コクリとうなずいて了承してくれた。

 

「わかりました。ニコがそこまで言ってくれるなら……」

「よし、決まりだね」


 というわけで俺は店員さんにお願いをして、ミステルが着られるサイズの服を何点か見繕みつくろってもらことにした。

 シンプルなシャツ、ガーリーなワンピース、クラシカルなドレス、シックな雰囲気のブラウス――などなど。

 

 ミステルは試着室で色々なコーディネートを試して、俺に見せてくれた。

 

「ど、どうでしょうか……」

「……」

「ニコ?」

「あ、えっと――」

 

 ……ごめん、あんまりにも可愛かったからついボーッと見惚れちゃったよ。


 ――などと臭い台詞は流石に声に出せなかったので。


「似合ってる、うん。すごく似合ってる」


 月並みな言葉で彼女を誉める。

 しかし、そんなありきたりの言葉でもミステルにとっては嬉しいようで、「ありがとうございます……」と頬を赤らめて嬉しそうにはにかんでくれた。


 よし、決めた。

 全部買おう。


 俺は彼女の笑顔を見て、心の中でそう決意した。

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