111話 本当の討伐報告
朝食を済ませた俺たちは宿を引き上げ、俺たちが倒したフリームニルの逆鱗の鑑定結果を聞くために、冒険者ギルドへ移動した。
ギルドに到着した俺たちは、受付カウンターで用件と名前を伝える。
そして待つこと数分。
「お待たせしました。こちらへどうぞ」
リーアさんがやってきて、俺たちを二階のとある部屋へと案内した。
俺たちが部屋の中へ入った後、リーアさんはカンテラの明かりを灯し、中央に並べてある長机に座るよう俺たちを促した。
俺たちはそれぞれ席に着く。
リーアさんは俺たちを見回すと、手に持った書類を手元で整え直してから話し始めた。
「早速ですが、お預かりした逆鱗の鑑定結果からお伝えしますね」
そう言って彼女は手元の書類に目を通す。
「鑑定した結果、ニコさんたちが持参したこの逆鱗は、間違いなく
リーアさんは淡々と、そしてきっぱりと言い放った。
「そうですか――」
その言葉を聞いて、俺はほっとした気持ちになる。
もちろん、フリームニルと戦った自分自身が、自分は嘘をついていないことを一番よくわかっている。
だけど、こうして冒険者ギルドから、はっきりと断じられたことで、ようやくそのことを客観的事実として認められた気がした。
ミステルもトゥーリアも、俺と同じ気持ちなのか、顔には安堵の色が浮かんでいる。
「なぜ、飛竜峠に生息していたフリームニルが、遠く離れたガリア火山で発見されたのか、現時点で分からないことは多々ありますが、とにかく、
そういってリーアさんはにっこりと微笑んだ後、付け足すように説明を加えた。
「それとですね、ニコさんとミステルさんに与えられていた仲介停止の措置は、本日を持って正式に解除になります」
「え、本当ですか?」
「はい。
「あ、ありがとうございます!」
俺もつられて笑顔になり、リーアさんに礼を言う。
これで
まぁ、俺もミステルも、活動拠点をルーンウォルズに移しているので、ギルドを締め出されたとしてもあまり影響はないのだけれど。
とはいえ、不当な
俺はミステルと視線を交わして互いに笑みを浮かべる。
「――それでですね。報酬を支払うにあたり、討伐報告書の作成が必要でして。お手数ですけど報告書の作成にあたって、わたしからいくつか質問をさせてもらってもいいですか?」
「わかりました」
そういってリーアさんは手元の書類に羽根ペンを走らせながら、フリームニルの討伐に関する情報を聞き取っていく。
フリームニル討伐の経緯、日時、場所、討伐メンバー、
俺はあやふやな記憶を辿りながら、時折ミステルやトゥーリアに確認をとりながら、リーアさんの質問に一つ一つ答えていく。
「――なるほど、ありがとうございました。質問はこれで以上です」
彼女は書類をまとめると、手元の封筒にそれをしまう。
「それでは、討伐報酬をお持ちしますので少々お待ちください」
そう言ってリーアさんは席を中座する。
しばらくして、彼女は革袋を持って戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちらがフリームニルの討伐報酬となります」
リーアさんは机の上に革袋を置いた。
ジャラリと、中身にずっしり
「
「そ、そんなに貰っていいんですか……?」
俺は思わず感嘆の声を上げた。
こんな大量のエルクを目の前で拝むなんて、生まれて初めてのことだった。
「もちろんです。
リーアさんはそう言った後、申し訳なさそうに眉根を寄せた。
「本当ならこの懸賞金に加えて、ギルドに寄せられていた討伐依頼の達成報酬もお支払いするべきなんです。だけど、そちらは
「そういえば、
「はい。あれは偽物でした。
「やっぱり――」
ラインハルト達は、依頼の虚偽報告を行なっていた。
それは冒険者として、一番のタブー。
絶対に犯してはならない一線を彼らは超えていたのだ。
「あの、ラインハルト達――
「まずは当然、支払った報酬金の没収ですね。現在ギルドの上層部が処遇を検討中なので、確かなことはいえないのですが――それに加えて、S級の階位剥奪は間違いないと思います。場合によっては冒険者ギルドから除名されることも十分にあり得ます」
冒険者ギルドから除名――
それは冒険者にとって最も重い処罰だ。
もしそうなった場合には、もう二度とラインハルト達は、真っ当な冒険者として、陽の当たる場所での活躍はできなくなる。
あれだけ「勇者」という称号に拘っていたラインハルトにとっては、それはさぞかし屈辱的な結末に違いなかった。
「今回の件――S級パーティが依頼の偽造報告を行なっていたことも前代未聞の不祥事ですが、それを見抜けなかったわたし達ギルド側の落ち度も大きいです。わたし達としては、今後二度と彼らのような不正を生み出さないよう、体制を再検討していきたいと考えています。それがギルド職員としての務めだと思っていますので」
リーアさんの瞳には強い意志の光が宿っていた。
きっと彼女なりに思うところがあるのだろう。
「リーアさん。その――これからも頑張ってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
俺の言葉を聞いて、リーアさんは微笑んだ。
「さぁ、話がちょっと逸れちゃいましたね。
リーアさんはそう言って革袋を俺の方に差し出した。
俺はおずおずとそれを受け取る。
ずっしりとした重みが両手に掛かった。
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