選者(エレクト)

ソードメニー

プロローグ 

【夢計画】

  “夢計画”。プログラムと実験者の記憶を利用した、願いをなんでも叶えてしまう、夢の計画。それは、夢を叶える企業、ドリーム社の社運をかけた夢そのものだった。ここは日夜実験を続ける、今のブラック企業と呼べた。担当者の社員の男はアイマスクを使用した実験を提案した。実験が失敗すると、失明の危機があるとは知らず、彼の仕事のパートナーで、“夢計画”の考案者の女が失明してしまった。しかし、ドリーム社の社長は夢計画の続行を命じた。実験は続く。実験の試行錯誤が重ねられ、ついに願いをかなえる夢の装置が完成する。はじめの体験者にはやはり、彼の家族が選ばれた。映し出される彼らが見る夢の光景は順調に進んでいたように思われた。しかし、物語の主人公に選ばれた彼の娘が、夢の中で何らかの出来事があり、“覚醒”し、暴走した。現実世界に帰って来たのは、彼ただ一人だった。彼の妻と娘は夢に取り残されてしまった。当然のように、ドリーム社の社長は夢計画の続行を命じた。彼のパートナーの女は、2度の失敗を受けて、改良に改良を重ねていた。彼も妻と娘を取り戻したい思いで、熱心になっていた。ついに改良を終えたことを聞きつけ、社長と側近たちが彼の支店を訪れた。「3番目の適格者は、見つかったか?」「いえ、まだです。現在探しております」「そうか。それは良かった。映し出される夢の光景を見るのは楽しみで仕方ないからね」「そういえば、最初の適格者は喜劇の主人公、2番目の適格者は悲劇の主人公、はたして3番目の適格者はどちらになるのか気になりますね」「そうだな。ますます、期待が増すというもの」「ますますだけに…」「「はっはっは」」「君、もう行くのかね?」「はい、私は適格者を探さなくてはなりませんので」「そうか。そうだな。早く面白い夢が見たいからな。一年前の狂気の科学者なんて素晴らしかった。皆もそう思うだろう?」「「ええ」」「君もそう思うだろう?」「はい…」(この人らを楽しませるために、私の妻と娘は…)


 ある町のある公園。そこに雨の降りしきる日にだけ現れる者がいる。それは黒いフードをかぶった怪しい男。その男の前に現れる者に声をかける。飲めば“自分の願いが叶う夢”を見られるという錠剤を勧める。「これは、くすりですけどね、あやしいものではないですよ?なぜなら、すいみんやくですからね。ただひとあじちがう。これをのむと、すてきなゆめがみえる!おおくのめばのむほどね」これを承諾する者は決まって周りの人たちより自分は劣っていると感じていて、なるべく良い夢を見よう、と多めの錠剤を要求する。


 ある少年は自分が無力で、周りとの差が広まる一方な気がして、学校を休みがちになった。そして、ある出来事が、少年の運命を決定的づけた。その日、少年は、雨の中、家の近くの公園まで傘もささず全速力で走り、佇んでいた。冷たい雨が自分の悲しみを流してくれる気がした。そんな少年の前に黒いフードの怪しい男が現れる。その男は、例によって、少年に、錠剤を進める。怪しいと思いつつも少年は錠剤を受け取る。少年は、まさか夢の中でも辛く、厳しい運命が、待ち受けているとは、ゆめゆめ知らない。果たして、少年は自分の道を選択し、運命を切り開くことが出来るのか。1人の少年シンメンサトリと、彼が住む町を中心にした物語。但し、この物語は、たった一夜の出来事である。

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