第9話春の国の話

ここはカイの家に近い海周辺…

カイの家はほぼ掘っ立て小屋のような家をしている。電気は一応通ってはいるが、ほとんど明かりで照らす程度だ

カイ、そもそも妖魔は周囲の環境に合わせて活動してる種族。周囲にある海を支配すればずっと生きていけるからだ

カイはそこで日々暮らしている。魚を採ったり貝殻を集めてアクセサリーっぽいのを作ったり…

魚が採れない場合は近場の崖に行き小さな貝を採って食事をしている

少量の食料でも十分に暮らしていけるほど、周囲の支配というのは妖魔としては大きいものだ

それゆえ、妖魔は自然のある環境で住むことが多い。もちろん違う場合もある

そんなカイの家に近づく人がいた。恋人の由美子ではない。相変わらずだなあと思いつつその人は近寄った

カイの家…今日はのんびり家で貝殻を集めアクセサリーを作っていた

カイ「ふーんふーん。楽しいなあ」

カイは前にヌクギに怒られたことはとっくに忘れているようだ。鼻歌しながら作業してる

コンコン…カイの家の玄関のドアにノックの音が聞こえる

カイ「? 誰かしら。はーい」

カイはドアを開ける。そこにはカイの友達がいた

カイ「あ!ラツナちゃん!」

ラツナ「カイちゃん元気~?」

ラツナ…前にサクラ漁港に行ったときに市場の店員さんをしてた妖魔である

ラツナとカイは友達であり、カイ自身も何度も見に行ってるほど仲がいい。同じ妖魔なので通じる部分もある

黒い髪。そして褐色。身長はラツナのほうが少し上。気の所為か妖魔の大体が褐色の場合が多い。ヌクギもそうだ

褐色じゃない妖魔というのは実は珍しかったりする。また、轢沙子のような妖怪で褐色は珍しいものではある

カイ「上がってよ!」

ラツナ「うん!」

ラツナは玄関で靴を脱ぎ、部屋へと入っていった

カイ「ラツナちゃん来てくれるなんて嬉しいわ~」

ラツナ「今日はたまたま休みだったからたまには来ようかなって!カイちゃんまだこんな家に住んでたの?いい加減他に場所にしたらどう?」

そう言うとカイは何も思わず笑顔で答えた

カイ「カイ、この場所が大好きだから変えることはないわ。外に出れば環境に馴染めないもの」

ラツナ「環境かあ…でも私だって市場の環境が嫌いじゃないしちょっとだけだけど支配っぽいことしてるんだよ」

妖魔は場の支配ができればどの環境にも対応するが、自然が関わらないと無理があるらしい

森や川と言ったものならいいがコンクリート建築だとさすがに支配不可能と言った感じ

カイ「やっぱりラツナちゃんも妖魔っぽいことしてるわね~。そうでなきゃ妖魔じゃないからね!」

ラツナ「そうそう。他の妖魔さんもいるけど、基本都会に出ちゃって妖魔という本質を忘れている人が多いんだよね」

カイ「ここシダレカだもの。都会だしそういう妖魔が多くなっちゃったのは少しさびしい気がするわ」

そう言うとカイは残念そうな表情をする

ラツナ「これもヌクギさんの言ってることが関係してるのかねえ」

カイは一瞬だけ嫌な顔をして答える

カイ「あの人ガチで嫌い。前もカイのとこ来て説教されたし、恋人の由美子と友達の轢沙子がいなかったら自殺ものよ」

ラツナ「そ、そこまでかなあ…?あの人大声で怒鳴る人だし嫌と言えば嫌だよね」

カイ「ヌクギさんは妖魔の恥よ。できればもう二度と会いたくもないし」

そう言うとラツナはひとつ提案を持ちかける

ラツナ「じゃあさ…引っ越ししたらどう?ヌクギさんはここバレてるんだし恋人の由美子さんと一緒に暮せば?」

それを聞くとカイは微妙そうな顔をする

カイ「それをしたいんだけど、ここの環境が良すぎて上手く行けないのよ。恋人とこの環境どっちを取るかっていうと…えーと…」

ラツナ「…普通、恋人のほうとらない?」

そう言われるとカイは気づく

カイ「…そうね。そろそろここから卒業しないと由美子と暮らせないしね…。とりあえず少しずつ進めるわ」

ラツナ「そうしたほうがいいよ。また定期的にヌクギさんが来たらたまったもんじゃないよ」

カイ「うん。そうする」

カイはそろそろここを出る準備をすることを決心したようだ

カイ「ところで、ラツナちゃんが持ってる袋は何?」

言われるとラツナは袋の中身を取り出す

ラツナ「これね、魚だよ!あとホタテとかそこらへんの貝!一緒に食べよ!」

カイは大いに喜んだ

カイ「わーいやったー!早速魚さばいて貝を焼くね!」

ラツナは魚介類を手渡しカイは小さい台所で魚を切っていた。そしてラツナは思う

ラツナ(…カイちゃん魚を綺麗にさばける技術あるからそういう店の料理人になったらいいと思うけどなあ…)

引っ越しをするとは言ってたが恐らく近々だろう

後日の朝…轢沙子は会社へ行こうとしてた。そして轢沙子は思った

轢沙子「…今日、夢を一切見なかったわ…あの巫女たち、そろそろ諦めたんじゃ…」

そう。夢を一切見なかった。普通に寝て、普通に起きた。ただそれだけだった

しかし何度も思うが夢で左右される人生はごめんだ。と思ってる轢沙子なのでこれ以上は考えないことにする

最寄り駅まで歩くとまたもや顔見知りな人物がいた

轢沙子「あら、由美子じゃない」

その顔見知りは由美子だった

由美子「よお、轢沙子。今日も会社へ向かうのか」

轢沙子「ええそうよ。あなた珍しいわね。こんな朝から?」

そう言うと由美子は自分の携帯電話を見る

由美子「いや、実はさ…カイからメールが来てそろそろ引っ越したいから準備を手伝って~とか言うのが来てな」

轢沙子「あら?そうなの?でもあの子近場の海周辺を支配してたんじゃ…」

轢沙子も一応妖魔の特徴を知ってるため発言した。しかし由美子はなんとも疑問の顔をしてた

由美子「それが急に。なんだよ。どこかへ行くということも一切話してなくて…」

轢沙子は少しだけ考えたが、ふと思う

轢沙子「もしかしてあなたと一緒に住みたいから。じゃないの?」

由美子「あ…!」

由美子はハッとする。轢沙子は更に言う

轢沙子「そろそろ卒業したいんじゃないの?そしたらあなたという恋人と住みたいって決めたんじゃないかしらね」

由美子「そ、そうかそういう意味だったのか!ははは…アタシとしたことが全然考えてなかったぞ」

そう言うと由美子は照れくさそうに頭をポリポリする。轢沙子はその姿を見てため息をする

轢沙子「はいはい。じゃ、お幸せに。何かあったら私を呼んでいいわよ。イチャイチャしなきゃ」

由美子「あ、ああ!ありがとな轢沙子!」

由美子と離れた。由美子の後ろ姿は喜んでるように思えた

轢沙子「全く…面白いけど面白くないわね…」

ちょっと呆れたがまあいいだろう。そう思いつつ轢沙子は会社へと向かった

あの二人、いつか結婚式をあげそうなほどイチャイチャしてるからその時は出席しないとだめなのか…


轢沙子は会社に着いた

とりあえず、上司に挨拶しようと上司のデスクまで来た

轢沙子「おはようございます」

そう言うと上司は笑顔で反応する

上司「やあ轢沙子くん。…今日の調子はどうだい?」

早速だが気遣ってくれた

轢沙子「はい。今日は元気です。大丈夫です仕事もバッチリやります」

上司「そうか!今日もよろしく頼むぞ。轢沙子くんの仕事ぶりはなんたっていいからな!」

轢沙子「ありがとうございます。では」

そう言うと轢沙子はデスクに戻った。やっぱり、というかエルフの人が来た

エルフ「轢沙子さーん!今日は元気そうだね!」

轢沙子「ええ。今日はとても元気よ」

エルフ「…夢、見る?」

そう言うと轢沙子は笑顔で答える

轢沙子「大丈夫よ。もう見てないから。心配してくれてありがとう」

エルフ「良かった~。じゃ、今日も轢沙子さんの仕事を拝見しよ!」

轢沙子「拝見ってあなたにも仕事あるじゃない…」

エルフ「あはは~そうだった~!じゃあね!」

エルフの人は轢沙子のデスクから離れた

轢沙子「昇進がかかってるし、真面目に仕事しよう…」

轢沙子はそう思うが、ふと思うこともあった

『本当に、夢は終わったのか?』


昼…轢沙子は食事を終えてちょっとお手洗いへ行ってた

轢沙子「ふー…仕事は相変わらず簡単な内容多いし夕方以前に終わりそう。そう思えるのは私だけかしら」

トイレから出て、会社の廊下を歩いていた。そうするととある部屋に近づいてた

轢沙子「ここはカウンセリング室に近いわね…」

そう言い廊下を歩くとカウンセリング室のドアに男性が立っていた

その男性は前に轢沙子がカウンセリングをしてくれたカウンセラーだった

何かをしてるのだろうか。ドアノブに鍵っぽいのを差し込んでいたから施錠してるのだろうか

轢沙子「あ、あの…!」

思わず声をかけた。男性は轢沙子のほうに向いた

男性「あ、どうも。前にカウンセリングされた人ですよね?」

轢沙子「はい。今日は別にこれと言ってカウンセリングの内容は無いのですが…」

そう言うと男性は答える

男性「今日はですね、私は用事で心療内科に行かないといけないんですよ。今日はお休みさせていただきます」

轢沙子「そうですか…あのー、ひとつ聞きたいことが」

男性「はい、なんでしょう」

轢沙子「お名前言ってませんでしたよね?私、人見轢沙子と言います」

男性は笑顔で言う

男性「匿名でも良かったんですよ?でも、私も言うほうがいいですね…。私の名前はルーク・レイクと言います」

轢沙子「ルークさんって言うんですね」

ルークは小さい身長ながら目線に合わせて言う

ルーク「私、実は出張でこの会社に来てカウンセラーとして雇われているんですよ」

出張…どこから来てるのだろうか

轢沙子「すると結構遠いとこから?」

ルーク「はい。ユキノウエからです」

轢沙子「ユキノウエ?相当遠いですね?」

ルーク「そうですねえ…しかしこれも家内を安心させるためです。妻と子から離れるのはかなり寂しい思いはしました…

ただ、やはりシダレカの会社だからかかなり良い条件が多かったため、家族に無理言ってここまで来たんですよ

妻は泣きませんでしたが、娘に泣かれてしまってですね…。今でも無理してるなあ。って思うんです」

ルークは少しうつむいたまま答えていた

轢沙子「そうなんですか…でも、家族を離れても仕事をするのはとても熱心なんですね」

ルーク「いえいえ。大丈夫です。娘がいつの間にか私の職業を就きたいと言ってクリスタルウィンター大学に通ってるんですよ

それだけでも嬉しいニュースです。家督を継ぎたい。娘はここまで成長したんだなって思います」

轢沙子「すごいですね。クリスタルウィンター大学に通うなんて!」

ルーク「私もびっくりです…。おっと、そろそろ行きますね」

轢沙子「はい、すいませんね止めてしまって」

ルーク「大丈夫です。それでは!」

ルークはその場を後にした

轢沙子「子供があの一流大学に進学してるとはすごいわね。そう言えばネトゲの仲間のウィンもあの大学に…」

しばらくネトゲしてないなあとは思いつつ、轢沙子は自分のデスクに戻ることにした


会社の帰り…轢沙子は今日の夕飯を買いにふらっとリョクジシティを回っていた

このあたりには安くて美味しいスーパーがある。そこへ向かおうとしてた

スーパーに着き、早速弁当を買う。ボリュームのある弁当だから朝までお腹は空かないだろう

駅に向かうために大通りに出る。真っ直ぐ行けばすぐに着く。轢沙子は歩いていた

轢沙子「ちょっと肉が多めでごはんもしっかりある。こういう弁当のほうが1番なのよね」

前を見て歩くと身長がでかい悪魔っぽいのが前にいた。もちろん、轢沙子はその悪魔がわかっていた

轢沙子「…あら。バフォメットね」

バフォメットと横にいる何かコスプレっぽいのを来てる2人組がいた

バフォメット「あ!轢沙子ちゃーん☆元気~?」

轢沙子「ええ。とても元気よ。今日は何?見回りなの?」

轢沙子が言うとバフォメットはとびっきりの笑顔で答える

バフォメット「そうよ~☆今日はね。警察と悪魔協会が同時にこのあたりを見回ってんだよ~☆」

相変わらずの口調だが、それでも鉤爪な手を見るとちょっとだけ怖いところがある

轢沙子「なるほどねえ…バフォメットの横にいるのは部下なのね?」

そう言うとバフォメットは隣にいる2人を確認する

バフォメット「そう!こっちは悪魔で、こっちは鬼!」

悪魔「どうも。轢沙子さんの話は伺ってますよ」

鬼「こんばんは~」

しかし悪魔の衣装を見たとき、轢沙子は何か不自然な感情になる。なんせ巫女に近い服装をしてたからだ。鬼のほうではなく

轢沙子「あら…その衣装…どこかで…」

何かフラッシュバックが起きそう。轢沙子の頭がほんの少しだけ現世を離れたような感覚になる

轢沙子「ん…んん…」

頭痛が少しだけする。頭を抱えていた。その姿を見てバフォメットは心配をした

バフォメット「…轢沙子ちゃん?どうしたの?急に、頭を抱え込んで?」

そう言われると轢沙子はすぐに前を向きバフォメットの顔を見た

轢沙子「…いえ、大丈夫よ。急に頭痛くなっちゃったわ」

バフォメット「そうなの?まあアタイもたまに頭痛起きちゃうからね~☆」

轢沙子「そうね。デュラハンはどこにいるの?」

バフォメットは辺りを見渡す

バフォメット「デュラハンくんはね~。今警察本部のほうにいるからそこで警察の人と会議してると思うわ~☆」

轢沙子「さすが代表だけあってそこはきちんとしてそうね」

そう言われるとバフォメットは安心しきったような顔をする

バフォメット「だってアタイたちのデュラハンくんだもの!何かあればいつでも対処できるわ!」

轢沙子「なら安心ね」

そう言うと横にいる悪魔がバフォメットに言う

悪魔「バフォメット様。そろそろ行きましょう」

バフォメット「あ、そうね~☆じゃあ轢沙子ちゃんバイバーイ!」

轢沙子「ええ。また会いましょう」

バフォメットと部下が去っていった。しかし、轢沙子の頭痛が収まらない

轢沙子「…なぜ?あの衣装を見て頭痛がしたのは…なんだか…何かを思い出せそう…??」

頭痛をしつつ、自宅へと帰っていった


自宅へ着き、轢沙子はごはんを食べた。何かを思い出せそうな感じだったが、それでもイマイチ思い出せない

最適な考えも浮かばない。頭痛は少し収まったが、なぜあの衣装を着たので頭痛が起きたのか

そもそも何かを思い出せそうと思っても全然関係ないことを思い出してもそれは意味をなさないのではないか

轢沙子「巫女の衣装…」

そこまで疲れてないが、轢沙子は椅子に座ったまま目を閉じてしまった


懐かしい記憶がある…そこに巫女と轢沙子がいた

『ねえ、アユ、私からお願いがあるの』

『…どうしたの轢沙子?』

『私、あなたが好きなの。だから、この戦いが終わったら…結婚しましょう』

『…え?う、嬉しいわ…!あなたからそんなこと言われるなんて!』

『このことは他の巫女にはまだ内緒にしましょう。ダークロードを倒した後、一緒に暮らしましょうね』

『…うん…ありがとう轢沙子…!絶対に勝ちましょう…!』

『当然よ。私たちは敵無しの集団だから勝てるわ!』

『…もちろんよ!』


轢沙子は首がかくっとなった瞬間に少し目覚める。そして一瞬に近い夢を見ていた

轢沙子「…私が、結婚…?ああ…何かを思い出せそうだわ…」

もしかして、私は巫女と共にいたのが当たり前だった?そして記憶喪失のままこの世界で生活してた?

下界へ降りてしまったから巫女と婚約ができなかった?夢の内容もじょじょにだがわかってきたような気がする

轢沙子「…とりあえず、ベッドで寝よう。こんな形で寝たら体が痛くなっちゃう」

布団に入り、横になる

轢沙子「私…は、誰なの?」

寝る前につぶやいたが、答えは出てこなかった



シダレカの夜。風が冷たくてひんやりしていた

轢沙子が思い出すまで、後一歩…


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