外伝6話

太陽の国、アマリリス。今日の天気は曇りだ。気温もそこまで高くない

道路に車が通った。車と言ってもただの車ではなく高級車だ。これから悪魔協会総本山へと向かう

その車の中に一人の女性が後部座席にいた。その姿は悪魔でもない姿だった

いや、ただの人間でもなく、一人の女性としていた。その女性がつぶやく

「…ふふふ…悪魔協会だなんて久しぶりだな…」

女性が少しニヤッとして窓を見る。色々な種族がいるこの世界。この人間はどんな種族だろうと

「人間どもが楽しく生活してるのを見ると我も色々と動かないとな…」

後部座席でそう言いながら足を組む。総本山は久しぶりだ。代表は元気にしてるか

備え付けの炭酸飲料を持ち、ぐいっと飲む。この女性、酒ではなく普通に売ってる清涼飲料水が好きらしい

車を運転してる悪魔が言う

「そろそろ悪魔協会総本山に着きます」

「わかった。ふふふ…アークデーモン殿は元気にしてるだろうか…?」

悪魔協会総本山。今日はただならぬ雰囲気となっていた

スタッフの悪魔と亡霊と不死が玄関への通路にズラッと並び、その客人を迎えようとしてる

そのぐらいVIP待遇の人物だ。アークデーモンも玄関ドアで待っていた

ヴァンパイアロードはちょっとよくわからずアークデーモンに言う

ロード「ね、ねえアークちゃん…一体なんなのこれ?一応直近の部下にもこうしておいたけど」

そう言うとアークデーモンがヴァンパイアロードに向く

アーク「ロード、今日はとても大切な人が来るんだ。待っててくれ」

ロード「う、うん…」

アーク「あまり失礼なことを言うなよ。ロード」

ロード「わかったわ」

アークデーモンの表情が珍しく緊張した顔だった。それほどVIPな客人が来るのだろうか

悪魔協会総本山の門に車が着いた。いよいよその客人が現れる

ガチャ…運転をしてた悪魔が車のドアを開ける。その瞬間、スタッフ全員が頭を下げる

その姿が現れた。その女性は少しほほえみながら車を降りる

ロード「あの人が…?」

身長はかなり高めだ。銀色のロングヘアーでサラサラしてる。まずただの女性ではない

服も少し露出のある服だ。胸がやたらとでかい。谷間が普通に見えてる。肌の色は普通の人間かもしれない

そして何よりも筋肉。普通の女性のようにスレンダーではなく筋肉ムキムキな体格をしてる

靴はブーツだろうか。やや厚底が高いブーツであった。ただでさえ身長が高いのに更に高い気がする

そして何よりヴァンパイアロードが驚いたのはオーラが見えてるということ

普通なら高位悪魔でもそこまでオーラは見えないのだが、この女性、黒のオーラをまとっておりあからさまに違う

その女性がゆっくりとアークデーモンがいる場所へと向かう。スタッフたちは常時頭を下げていた

ロード「だ、誰なの…!?」

その女性がアークデーモンの前にたどり着く。そして発言する

?「…アークデーモン殿。久しぶりだ。元気そうで何よりだ」

アーク「アザトース殿。あなたも元気だな」

ロード「…アザトース、さん?」

そう言うとアークデーモンが一旦ヴァンパイアロードに振り向く

アーク「紹介がまだだったな。こちらはアザトース殿。旧魔王で邪神だ」

ロード「邪神ねー。なるほどねー…」

ヴァンパイアロードが軽く言ったがハッと気づいた

ロード「…え!?邪神!?か、神なんですか!?」

ヴァンパイアロード珍しく敬語を使っている

アザトース「そう。我は邪神だ。だが、今の世界ではあまり通用すらしないがな。ははは!」

アザトースが高々と笑う。その笑い方には嘘は言ってないように思えた

アザトース「ちなみにお主は誰だ?」

ヴァンパイアロードが反応する

ロード「アタシ、ヴァンパイアロードって言います。不死のトップで副代表よ」

アザトース「なるほど、副代表でトップ…なかなか良い感じだ。アークデーモン殿、良き副代表ではないか」

アーク「そうだな。彼女がいるから私も安心してこの総本山を動かすことができる。大切な人だ」

いや、アタシのアークちゃん恋人以上の形なんだけどなーと思ったが口には出さなかった

しかし話してる内に緊張は無くなってた

アーク「皆の者。頭を上げろ。全員持ち場に戻っていいぞ」

悪魔一同、全員が頭を上げてゆっくりとバラバラになった。だがアザトースのオーラがあまりにもすごいのか

アザトースの横に行こうとする悪魔は誰一人としていなかった

アーク「では、私の部屋に行くか。アザトース殿。ロードに色々と説明をしないとな」

アザトース「うむ」

ロード「そうだ、もしよかったらお茶も…」

そう言うとアザトースが手を出す

アザトース「いや、いらん。我はその前にコーラを飲んでたからな。これ以上飲むとトイレが…」

ロード「あ、はい…」

邪神とは言われても結局は人間そのものなんだなとは思った

3人はアークデーモンの部屋へと向かった


部屋に着き、アザトースはゆっくりと来客用の椅子に腰を下ろす

表情は普通だった。しかし、常時黒のオーラをまとっていて邪神とは恐ろしい物だと思ってるヴァンパイアロード

正直近寄るのも怖い。オーラを触ると何があるかわからない。触らぬ神に祟りなしとはこの事だろうか

対面でアークデーモンは座り、その横にヴァンパイアロードが座る

アーク「アザトース殿。この悪魔協会総本山はいかがだろうか」

アークデーモンが言うとアザトースはちょっと考えた

ロード(厳しそうな人だから色々言ってきそうね…)

ヴァンパイアロードが思ってたらアザトースが口を開く

アザトース「…うむ!満点!素晴らしい悪魔協会だ!我は満足してるぞ!」

すっぽ抜けな点数を付けられてヴァンパイアロードはぽかんとする

アザトース「いやー、雰囲気が最高だ。これもアークデーモン殿がしっかりとやっている証拠!何一つ不満はない」

アーク「ありがとうアザトース殿。前の代から続いたこの場所。これからもやっていくぞ」

アザトースが笑う。相変わらずアークデーモンは無表情だったが、ここは笑っていいんじゃないかとヴァンパイアロードは思った

ロード「あの、アザトースさん…」

アザトース「ヴァンパイアロード殿。敬語は使わなくていいぞ。我は邪神だがもう偉い身分ではないからな」

ロード「あ、うん…そもそも旧魔王で邪神とは言うけど、一体どんな感じなの?」

そう言うとアザトースが説明する

アザトース「そうだな…旧魔王とは言ってるがこの世界における最初の魔王が我だ。その次がアークデーモン殿の父…わかるとおり、

デーモンロード殿だな。だがデーモンロード殿のときから我は既に現役を退いてる形ではある。残ってるのは邪神という肩書きのみだ

そして今…アークデーモン殿が魔王となり悪魔の支配者としている。まあダークロードというバカはいたがどうでもよかったな」

ロード「んじゃあ…天魔戦争も知ってるのね?」

ヴァンパイアロードが言うと更に答える

アザトース「そうだ。我とデーモンロード殿が参加してたんだ。我は後方支援。デーモンロード殿が前線に立ち向かってたな。

負けてはしまったが、その後グチグチ言いながらデーモンロード殿と酒を飲んだことは忘れないな!」

アーク「後方支援だから天魔戦争の歴史を語るときはアザトース殿は一切説明もされてないんだ」

ロード「そんな…形でよかったの?」

ヴァンパイアロードが言うとアザトースは彼女のほうに向く

アザトース「別に良い。邪神だからと言って表立っていると高位悪魔ですら近寄ってくれないからな。一人ぼっちは嫌な性格だ。

今は遠い町で一軒家でのんびり、過ごしているぞ。たまにこうやって来るのは視察のためだ」

ロード「そうなのね…邪神…ねえ…。でもそのオーラは一体なんなの?触ったら危ないでしょ?」

そう言うとアザトースがオーラの周りを見る

アザトース「これは確かに危ない。一般人が触ると即絶命のオーラだ。たまに危険があるときこのオーラをまとい、

身の安全を保ってきた。だがヴァンパイアロード殿のようなトップなら全然大丈夫だろう。触ってみるか?」

ロード「うーん!パス!なにかあったら怖いわ!」

そう言うとアザトースが笑う

アザトース「ははは!ま、そうしたほうがいいな」

ヴァンパイアロードは思ったがこの邪神、結構笑うなと。最初は威圧感たっぷりだったがいざ話すと笑うことが多い

もしかして天魔戦争からいるから歳…?をとって丸くなったのだろうか。とてもデーモンロードと同期とは信じられない

アーク「そういえばアザトース殿、最近悩みがあるんだよな?」

ロード「え?悩み?」

ヴァンパイアロードが言うとアザトースはしょんぼりした表情になる

アザトース「うむ…もう…我は生きすぎたのか…顔がすっかり40代半ばの顔になってしまってな…

頑張って美容と健康を保ってるのだが老いには勝てなくて…辛いなあ…」

ロード「邪神でもそんな悩みが…」

邪神だからか生きすぎてるのかわからないが、人間の形をしているのだから悩みは普通にあるものだなと

ヴァンパイアロードは思ったが40代半ばの顔と言っても思うに見た目年齢普通に20代後半な気がしなくもないが…

アザトース「だから…若返りするために毎日化粧水つけたり運動もしたり若そうな服を買ってきたりして…

それでも…老いていく…!2人共!どこか良いスポーツジムはないか!?できればヨガ教室があるやつ!」

アーク「すまん。スポーツジム関連は全くのノーマークだ」

ロード「ごめん。アタシもアークちゃんと同じ答えだわ」

そもそもヨガで若返るかと思うとちょっと疑問である

アザトース「はぁ…我の近くにはそういうの無いからなあ…自分で探して遠くても行くか…」

さっきまであんなにペラペラ喋ってたのに今は落ち込んだ表情を見せている。感情表現がはっきりした邪神だなあ…と

ちょっとこの話は置いといて別の話題を言うべきだと思った。ヴァンパイアロードが言う

ロード「アザトースさん、今は何してる人なの?」

そう言うと仕切り直しなのかまた普通の表情に戻ったアザトース

アザトース「うむ。現在は悪魔協会の相談役として生計を立ててる。近くに悪魔協会があってな。そこで働いてる

そこの悪魔協会は我のことは認識してるが、誰も怖がったりはしてない。慣れとは怖いものだな」

だがヴァンパイアロードはふと思う

ロード「え?でも邪神だって言われたらその悪魔たちおちおち話せないんじゃ…」

アザトース「我は別に邪神と旧魔王だなんて一言も言ってないぞ。周りからは話がわかる人。で、通じてる」

ロード「へえ…まあ言わないほうがいいかもね…」

アーク「ところでアザトース殿、時間は大丈夫か」

アークデーモンが言うとアザトースは時間を見た

アザトース「ふむ。そろそろ帰るとしよう。今日はアークデーモン殿の顔を見れただけで満足だ。それとヴァンパイアロード、

とても良き副代表だな。これからもアークデーモン殿を支えてくれ。旧魔王からのお願いだ」

ロード「うん!アークちゃんとずーっと一緒にいるわ!」

アザトース「ところでそのアークちゃんって呼び名がとてもいいな。我もそう呼んでいいか?」

そう言うとロードは困った表情になる

ロード「え!いや、それは…!」

アーク「アザトース殿、それは困るな。特別な呼び名だからあまり他の人には言われたくはない。アザトース殿でもな」

アークデーモンが無表情に言うとアザトースはまた笑う

アザトース「はっはっはっ!いや冗談。そういう呼び名は2人だけのものにしてくれ。我は言わないぞ」

ロード「あーよかった…」

ほっと胸をなでおろすロード。冗談でよかった


アザトースが帰るとき、また悪魔一同が門までの道の脇に整列していた。アザトースは言う

アザトース「今日はありがとう。アークデーモン殿よ、今後も現魔王として頼むぞ」

彼女がそう言うと握手を求めた。アークデーモンはそれを答えるかのように握手を交わす

アーク「アザトース殿も健康には気をつけてな。邪神だからと言って人間には変わりない」

アザトース「ははは!頑張って、わかがえるぞー…」

ロード「アザトースさん最後の言葉力無かったわよ」

アザトース「ではな!全て一同!また会おう!」

アザトースは言うと車へと乗り込み、そして出発した

なんだかんだ言っても邪神は邪神。とても器の大きい人物だった。初めて会うヴァンパイアロードにも好意的に接してくれた

そしてその邪神としての心も大きい。本当に人間としては出来すぎたアザトースだった

ロード「行っちゃったねえ」

アーク「うむ。あれこそが旧魔王。ずっと生きているから決して危険な人物ではない。今を生きる1人なんだ」

そう言うと整列してた悪魔一同に振り向く

アーク「皆の者。解散していいぞ。今日はご苦労だった」

悪魔たちが散り散りになる。いつもどおりの持ち場に戻る

アーク「さあ、ロード。元に戻ろう」

ロード「うん!アークちゃん!」

2人も悪魔協会の元へと戻った


アザトースが乗った後部座席…彼女がまた清涼飲料水をグラスに注ぎ飲んでいた

今日はアークデーモンの顔を見れただけで無くヴァンパイアロードという良き副代表に出会えたこと。嬉しく思っていた

ふと、アザトースが通ってる道路の横の人が通る道を見た

仲良く談笑しながら歩く女性。高校生だろう。それを見てアザトースは微笑む

アザトース「…我が、もし、転生するのなら…普通の女の子として生まれて…ああやって学校に行きたいな…」

今では既にそんなことはできないが、それでも若いというのは素晴らしいことだ。アザトースは思う

アザトース「世の中の女性よ。いつまでも若々しくあれ。我も負けずに若々しくするからな」

アザトースが乗った車は自宅へと帰っていった


アザトース…旧魔王…そして邪神…

今いるのは今を生き抜くただ1人の女性だった




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る