小さな星の瞬き

波伐

第1話

 魔法少女のスピカが死んだ。次は妹の番だった。後援隊が瓦礫に埋まったスピカを発見し、彼女の遺体を運び出して脳から魔法石を摘出した。地球には魔法石はそう多くない。故に少女らが死んだ時、もしくは引退の時期になったら取り出して使い回している。

 スピカの石は古かった。古いものほど経験と力が蓄えられており、価値が高いと言われている。その石は例え後援隊の者が幾人死のうと必ず見つけ出さなければならない代物だった。幸いにも犠牲は二人で済んだ。


 数百年前、地球に隕石が落ちた。不思議な性質を持ったその石は、特定の人体に影響を及ぼすことが分かった。初潮前の幼い少女の体だ。少女らは皆例外なく石に呼ばれ、それに意志を感じるらしい。

 条件を満たしている者を年齢ごとに連れての実験も行われた。目の届く距離に石を置く。すると空腹を思い出したように皆慌てて口に入れるのだ。どんなに大きくても無理矢理体内に取り込もうとする。まるで操られているかのようだった。

 そうして取り込んだ石が体内にある間、少女らは当たり前のように超能力に似た現象を起こした。物を浮かせたり、衝撃波を出して破壊したりする。能力には個人差があったが力の有無については、例外なく全員に存在した。どう使用しているのか本人らもよく理解してはいない。

 その不思議な石は科学で説明できない魔の力を持っているとされ、通称魔法石と呼ばれた。

 その魔法石が落ちて来てから以降、隕石は絶え間なくいくつも降って来るようになった。海も、陸も危うく、人類は地球に住めないものと思われた。

 そこへ魔の力を得た少女らは立ち上がらざるを得なかった。降って来る隕石を受け止め、地球を守った。冗談交じりに誰かが魔法少女だと呼んだのが始まりだった。彼女らの仕事はそもそも、隕石を止めることだけだった。

 隕石から地球を守り何とか数十年持たせた。しかしその頃妙な生物の目撃情報が相次ぐようになり、なんと隕石に未確認地球外生物が付着していることが判明した。お陰でただでさえ酷かった地球環境は更にデタラメになった。弱肉強食のヒエラルキーの頂点が変わるほどの、劇的な変化だった。その奇妙な生物を無力化出来るのも、魔法少女しかいなかった。

 魔法少女らは当初、魔法石を呑み込んで活動をしていた。しかし呑み込んだ石は消化されると効力を失ってしまう。長年の課題だった。数少ない魔法石が失われた時、人類は終わる。

 そこから更なる研究により、石はなんらかの波長を発していて、少女の脳波に影響を及ぼしているということが分かった。少女の脳波と、石の波長が合わさって増幅し、周囲にあらゆる現象を引き起こすという仮説だ。仮説を仮説のまま、より良い方法として、倫理などをかえりみる暇もなく、魔法少女は脳に石を埋め込まれることとなった。彼女らはそうして未熟な自分の身も心も、何もかもを地球と人類の為に捧げ、初潮を迎えたら引退していく。

 脳を相当に酷使するらしく、数年もすると魔法少女らは老人のようになってしまう。精神はすり減り、身体は問題ないもののほとんど廃人のようになる。そこからは子供を作り、産むのが仕事になる。子の世話はしない。ただ魔法少女としての優秀な血を絶やさぬ為に次の世代を生み続ける。魔法少女は魔法少女へと引き継がれていく。

 魔法少女は魔法がより優秀だった家系へ芋づる式に指名される。死んだら姉妹、死んだらその娘、死んだら更にその孫だ。

 魔法少女の家系でない娘もとにかく子を産むようにと強制された。今や人類は一人でも多く欲しかった。手が足りないのだ。

 現代では、女は長生きできなかった。魔法少女は戦いの末死ぬ者が多く、魔法少女でなくとも事故で死に、子を産み続けて死に、役に立たなければ死ぬ。平均寿命は下がり続けるばかり、人類も減り続ける一方だった。負の連鎖は最早断ち切れる段階にはなかった。

 人は滅びようとしていた。水際をぎりぎりで食い止めるのが魔法少女、人類の希望の姿だった。倫理も常識も破綻した世界で生きる希望は、わずかな輝きしか持たなかった。

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