LINK15 満天の星々

水面に出来た黄金の道が徐々に消えていき、空の紫色が深まり始めた頃、俺たちは恋人岬を後にした。


『達磨寺』の和尚から紹介された五平荘に着くと、3人部屋『海猫の間』に案内される。


2人を部屋に残し、バルコニーで五暁寺の澄徳さんに連絡をする。


澄徳さんに自分が見た映像「古都の街並み」「顔のない子供を抱く仏像」を伝えると、「それは木曾路 奈良井宿の歴史ある寺『大鳳寺だいほうじ』ということがわかった。

やはり『永承会』のメンバーだという。


気を失いながら見る映像はいつも斎木博士の足跡に関係している。

俺は導くものの気配を感じながらも、それを口にすることはなかった。


しかし・・・

『私も見えたよ。素晴らしく綺麗な夕日』

あの時、真心が見たその夕日は、俺の目を通してみた景色だったのか、それとも真心が自分の目を通して見た景色だったのだろうか?

どちらにせよ彼女の瞼は、今はまた閉じてしまった。



そして俺は五平荘の主人に斎木博士の情報を収集した。

斎木博士は過去に3度ほど五平荘を利用していた。


20年前に研究員仲間3人で利用したのが最初らしい。

20年前・・・今は2042年つまり2022年が始まりだ。


翌年2023年には2人で利用。


そしてダミーとして用意した生態AIを俺の視神経に寄生させる偽装臨床実験を行う数日前に1人で泊まった。


その他の情報としては斎木博士の大好物は『鯛の漬け丼』ということが判明しただけだった。


残念ながら『五平荘』と斎木博士との関係性は希薄そのものだった。


それよりも偽装臨床実験の数日前にわざわざこの西伊豆に来た理由。

もしかしたらそれ自体が重要な事だったのかもしれない。

斎木博士はいったい何の為にここに訪れたというのだろう。


もう一度整理をしてみる。

西伊豆を訪れ→俺への偽装臨床実験→真心を連れて失踪。

その後、生態AIを寄生させた真心を五暁寺に預けると博士は完全に姿を消した。


斎木博士、あんたは今どこにいるんだ・・・


ふと空を見上げると、数えきれないほどのが空一面に広がっていた。

まるでこの星の中から当たりを見つけてみろと言わんばかりに・・・



部屋に戻ると真心と太郎君が「明日は海へ行こう」と盛り上がっている。


「月人さん、私、海に触れるのは初めてなの。すごく楽しみだよ。」


先が見えない旅、早く斎木博士を見つけなければならない。


だけれど、だからこそ、今は真心の一瞬、一瞬を大切にしてあげたい。

燐炎りんか』に意識を支配されてしまう日がいつ来るかわからないのだから。


奈良井宿へ行くのは後として、明日は海水浴というものを楽しませてあげよう。


「じゃ、明日の午前中に水着を買いに行かなきゃいけないな。」

「うん!」

そう言うと真心は満面の笑みを浮かべていた。


・・・・

・・


その夜、布団の中から真心が俺に言った。


「月人さん、ありがとう。

それと・・さっき・・・すごく綺麗なだったね。」



「そうだな。」

そうか・・真心にも見えたのか・・・



かすかに聞こえる波音。

遠くで誰かが花火を楽しむ音がする。


それが夜の静寂を彩っていた。

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