LINK07 生態AIの目的とは

「月人さん、あなたが来たことは何となく感じていた」


俺は、やはり彼女がなぜここに姿を現したのかが気になり、ホテルのロビーで彼女を待った。


「もう一度聞くよ。真心、君はなぜここに来たんだ?」


誰にも気づかれないよう生きてきたであろう彼女がなぜ、監視が厳しい俺の前に現れたのかがどうしてもわからなかった。


「私があなたの前に現れたのは....あなたが私に景色を与えてくれるから」


前聞いた時と同じ答えだ。


「いったいそれはどういうことなんだ?」

「月人さんは、もう感じているのでしょ? 私には生態AIが寄生している。でも、私は時期に私ではなくなる。私の意識はAIに支配されてしまうの」


「そんな馬鹿な! そんなの聞いたことない。だいたい、こんなのちっぽけなチップだろ!」

「でも、そのチップが様々なこと起こしているのも事実だよね?」


俺は返す言葉がなかった。


「だけど、俺はそんな気配ないぞ?」

「きっと、あなたは奇跡的に適合した。そしてあなたは生態AIの目的を達成させて満足させた。でも私は適合しなかった。きっと生態AIは自分の目的を達成させるために、宿主である私を支配下にしようとしている」


「なんでそんなことわかるんだ。そんなの憶測だろ?」


「月人さん、生態AIは何のために作られたか覚えているでしょ? それなのに、今も私は白杖を手放すことが出来ない」

「だからといって、その生態AIが支配しようとするなんてあまりにも馬鹿げている。」


そういうと真心は大きく首を振る。

「今、目を開けるね。私の中にいる『彼女』が話したがっている。」


瞼が開くと茶色の瞳が揺らぎながら青白く変化していく。

『邪魔をするな』


これは....生態AIの言葉なのか? 耳で聞こえているようでもあり、頭の中に直接言葉が流れてくるようでもある。


「お前、AIなのか?」


真心..いやAIは首を縦に振る。


「お前の目的はなんだ?」

『人間が知る必要はない。私は私の目的のために動いている。』


「勝手なこと言うな! たかがチップの癖に!」

『「勝手」都合の良い人間の言葉。 人間が「生態AI」を寄生させるのは勝手ではないのか?』



そういうと俺の目をのぞき込みながらこう言ったのだ。

『お前は優れていない。私には勝てない』



「な、なんだと! この野郎!」


そう叫ぶと同時に体から力が抜ける。

遠ざかるAIの声が言う。


『あきらめろ。全ては無駄だ。人間、この娘を信じ——』



俺は気を失った。

まるで全身に微細な電気が走る。

そしてある映像が見えた。


大きな手.... そして何かを形どっている。

青い ....海、そして鐘か?

赤い人形? いや、違う。これはだるま?

寺だ....


・・・・・・

・・・

・・


「月人さん、ごめんなさい。月人さん!」


(真心の声か....なんでそんなに泣く。 泣くな.... きっと俺が助けてやるから....)


ホテルのロビーに座ったまま気を失っていた。

真心が俺の胸に顔をうずめていた。

頬が少し濡れている。


「真心」

「月人さん、ごめんなさい」


「大丈夫だ。それより俺は映像を見た。 寺だ。だるまがたくさんあった」

「お寺? ....父はお寺とつながりがあったの。私は寺に預けられた。父と親交があったお寺に」


「真心。君はどこの寺にいたんだ?」

「牛久の五暁寺ごぎょうでら


そうか.... あのコンビニのレシート。

あれは家の前にあるコンビニだったのか。


「行こう。真心の住んでいた寺に。まずはそこからだ」


あの映像は見たのか、それとも見せられたのかわからない。

映像を見るなんて初めてだ。


きっと、生態AIが真心にしようとしていること、つまり奴の『目的』に関係している気がしてならなかった。

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