LINK04 胸ポケットのレシート
彼女の身なりはお世辞にもキレイとは言えなかった。
いや、どちらかというとホームレス特有の香ばしい匂いがし始めていた。
白杖を持つ白髪の少女というだけで大いに目立つというのにその上このような状態ではこの地域の噂の種になってしまう。
おそらくそれはこの少女にとって得策ではない。
「(仕方がない....)」
幸い俺の住む高級マンションはお忍び用の出入り口が完備され、ある程度来客のプライベートが保たれる構造になっている。
そんな作りのためなのか、訳アリの独身が多く住んでいる。
今さら若い女の子を連れ込んだところで、そんな日常茶飯事、怪しむ輩などいないのだ。
彼女にはとりあえず、身綺麗になってもらおう。
彼女の手を引き部屋に招き入れる。
「ふぅ、できれば恋人でこういうことしたかった」
「あの....何か言いましたか?」
「いや、別に。 あっちにシャワールームがあるから。そこでシャワー浴びて。脱衣ルームにバスタオル置いておく。君の服は洗濯するよ。あと..下着もね。ああ、えっと、俺のTシャツとスウェットを用意しておくからそれに着替えて。そんじゃ、そういうことで」
「あの....ごめんなさい。『あっち』とは..?」
そうだった。
彼女は盲目だった....
彼女の手をとってシャワールームまで連れていき、シャワーの使い方を実際に手に触れさせながら伝えていく。
彼女の手は小さかった。
こんなにずっと他人の手を握り続けるなんて何年ぶりの事だろうか。
「わかった?」
「ありがとう」
そういうと彼女は羽織っていたロングシャツを脱ぎ、パンツのボタンをはずそうとしている。
「ち、ちょっと待った! 俺がいなくなってから脱いでくれ。 後でここの棚にタオルと衣類を置いておくから」
彼女に棚の位置を触らせた。
「うん」
「着替えたら声を出して呼んでくれたらいい」
「うん。ありがとう」
そういうと彼女は笑顔を見せてくれた。
その笑顔はとてもやわらかく素敵だった。
一瞬足を止めた俺に....
「あの?まだ何か?」
「いや、何でもない。ごゆっくり」
ドアを閉めて、聞こえないように溜息をつく。
「ふぅ....こりゃ、きついな」
冷蔵庫にあったレモンスカッシュをひと口飲んだ。
そして胸を小さく叩いてみた。
・・・・・・
・・
彼女がシャワーを浴びている間にバスタオルと取り敢えず俺のTシャツとスウェットパンツを用意し、洗面ルームの棚に置いておく。
そして洗濯するため彼女の衣類ポケットをチェックしていく。
これは洗濯の基本だ。
ロングシャツの胸ポケットに小忠実に折られたコンビニのレシートを見つける。
『PAWSON MART
「
そのパンと飲み物を購入したレシートには『2042-8-03-4:38』と刻印してあった。
「8月03日..今から20日前だ。」
『彼女のポシェットの中も見てみるか....』
そんな思いがよぎったが、彼女は俺のヴィジョンを時々見通してしまう。
今は信用を無くすような行為は、避けたほうがよさそうだ。
洗濯機に衣類と下着を放り込むとスタートスイッチを入れた。
「あのぉ....出たいのですが、大丈夫ですか?」
曇りガラス越しに彼女の裸体のシルエットが見える。
とっさに目をそらし、『ああ、いいよ』と慌てて洗面ルームから出た。
やがてドアから現れるシャワー上がりの彼女は、16歳というキラキラした様相を取り戻していた。
濡れた髪とその香りを武器に俺の胸をドキリとさせる。
少しぶかぶかなTシャツ姿が男心をくすぐるなぁ....
いかん!いかん!俺の趣味の世界にあてはめては!
「あの....すいません、ブラシを貸していただけますか?」
「ドライヤーとブラシなら洗面台の横のカゴに入ってるよ」
そう言った直後に、『あそこにある』『ここにある』と言ってしまったことを反省する。
彼女を場所まで案内し手に触らせてあげる事が大切なんだ。
ドライヤーでブラッシングする姿はさすがに年頃の女の子。
手慣れたものだった。
何なら俺がやってあげ....いや、さすがにそれはないか。
髪を乾かした彼女をソファーに案内する。
いよいよ事の真相に触れることになる。
正直、聞くのが少し怖かった....
それは彼女が俺の前に現れた理由だ。
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