LINK01 白杖を持つ少女

『誰? あなたは誰なの?』


「う.. イッッ....」


またか....

いつもこの夢を見た後は頭痛がする。

『誰?』とか『これは何?』とか、『キレイ』などと感想を言うときもある。


何か聞かれたって答えようがない。

なにせ、俺には声しか聞こえないのだから。


日曜日はそんな朝から始まった。


**


今日は天気もいいから洗濯でもしたら散歩でもするか。

俺の休日の過ごし方は散歩が多い。


家の中でも街の中でもやたらとオートメーション化しているものが多い。

そんな中ではリラックス何てできたものじゃない。


身近な俺のオアシスは、この川を埋め立ててできた緑道だ。

ここにあるのは時計塔と桜並木だけだ。

『安心』して過ごせる場所。


そんなリラックスした場所だと子供がはしゃぐ声すら微笑ましく思える。

ジョギング、犬の散歩などをする一般の人々がいる中、前から白杖を片手に持つ白髪の女の子がおぼつかない足取りで歩いてきた。


明らかにあの子だけが特別だ。

それは彼女が盲人だからというわけではない。

彼女の姿が俺の心にガリガリとヤスリをかける。

目が離せない。


彼女の後ろから電動自転車に乗ってくる馬鹿野郎2人が走ってくるのが見えた。


「あいつら、ここは乗り入れ禁止だぞ! いや、それよりも彼女は大丈夫か?」


咄嗟に彼女の近くに駆け寄ろうとした瞬間、彼女は一段高い縁石に乗り、自転車をやりすごした。

その時、彼女は閉じていた目を開き、俺を見ていた。


「な、何だ? ただのコスプレか? 本当は見えてるのか?」


俺はその視線による動揺を隠すように思いを口に出していた。


縁石を降りた彼女は再び白杖を手に持ちゆっくり歩いてくる。

俺はすれ違うその姿を横目で追ってみる。


「ありがとう。あなたなのね」


ポツリと言ったその言葉に背中から後頭部までの毛がすべて逆立ち、腕、いや全身に鳥肌が立った。


あれは..あの声だった....


俺の直感が告げた。

『関わるな』と....




マンションの部屋に帰ると、例の連中がいた。


「なぁ、来るなら言ってくれないかな? これじゃ、もらったラブレターすらテーブルに置きっぱなしにできないよ」

「前回は『ラブレター』じゃなくて『エロ本』って言ってたな。少しは上品になったじゃないか」


例の連中っていうのは警視庁テロ対の中尾さんと国土衛星省と厚生環境省からなる特別チームだ。

まぁ、これも恒例のイベントみたいなもので、これがあるから俺はこの高級マンションに住まわせてもらっているようなものだ。


イベントというのは俺の心身に関する診断....というより検査っていうほうが当てはまる。


特別チームというのは中尾さんとは別物で完全に国家的な組織だ。

心電図や脳波、そしていくつかの質問をしていく。

至って何も変化がない検査は今や形骸化さえしている。


だが、それは俺が『言っていない』だけだからだ。

そしてそんなちゃちな心電図や脳波計測器など、俺にとってはただのコードと機械だ。


「クリア! 異常なしです」


そういうと言うとテロ対の中尾などとは同調するつもりなく、さっさと帰っていくのがあの連中だ。


「月人、今回も『異常なし』だが、お前機械を操作していないだろうな?」

「そんな事できないのは、中尾さんだって知ってるじゃない。俺がそんな事できていれば、中尾さんに車を止められる事などないですよ」


「まぁ、そうだな。連中の機器も単独機だしな。 ....何か相談はないか?」

「ないです」


「そっか。俺はお前の味方なんだから、何かあったら言えよ」


そういうと中尾は出て行った。


冗談じゃない!

そんな事言えるわけがない!


『寝てる間に時々声が聞こえる』なんて言おうものなら研究所行きだ。

研究対象にされて俺の目玉をほじくりだし、脳の中にまで手を突っ込みかねない。

だが、それをさせないのも、連中が俺を、いや俺の目玉と脳をつなぐ生態チップを恐れているからだ。


たぶん、今日の白杖の娘の事も話さないほうがいいと俺はそう感じた。

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