十三歳、二人の教師に恋をした
チェシャ猫亭
第1話 個人教授
中学二年、十三歳の春。
担当の英語教師は教頭に昇進したばかりで、授業をカバーしきれなくなり、臨時の教師がやってきた。大学を出たばかりの佐川先生、体育が専門だった。彼は長身で、そこそこイケメン、女子中学生があこがれるにはぴったりの存在だったが、みんなはアイドルに夢中だったらしく、特に周囲が色めきたった記憶はない。
佐川先生が教室に来ると、私は困ったなあ、と思ったものだった。
専門が体育だったためか、佐川先生はジャージ姿で授業をする。目が悪く、前の席で授業を受ける私は、彼の股間が気になって仕方なかった。もっこり、である。スーツのズボンなら有り得ないのだろうが、ジャ-ジだと妙にそこが気になってしまう。
教え方はうまくなかった。英語好きで成績も悪くなかった私は、好感を持たれていたのかもしれない。なぜか彼は私を「加賀ちゃん」と呼んだ。
私のフルネームは加賀冴子、ぜんぜん冴えない太り気味の中学生、メガネの優等生だった。
いい子に見えただろうが、内面はそうでもなかった。「腐女子」などという言葉がなかった頃、私は小学六年にして同性愛の存在を知り、はじめから素敵だと感じていた。母の行きつけ美容院においてある女性週刊誌を読みまくり、あれこれ想像をしては楽しんでいた。
フランスの高校生はエッチな小説を書きまくる、と何かで読んで、なんだ私と同じじゃん、と妙に安心したりした、私は既に似たようなことをしていたのである。
中二なってすぐ、友人がフランス映画を見に連れて行ってくれ、洋画にはまった、私は月に一度くらい、電車にゆられて映画館のある街に出かけた。
その日曜日、私は「個人教授」というフランス映画を見に行った。
舞台はパリ、十七歳の男子高校生が、二十五歳の女性に恋をする。それなりに進展するが、彼女には三十台の恋人がいた。高校生はその年かさ男性と話し、彼女を彼に返すことを決意する。
特に胸キュンとかはなかった。フランスの高校生は大人だなあ、くらいは感じただろうか。年上女性に翻弄されたというより対等に接し、より良い選択をし、去っていく。早熟ではあるが成熟した判断、と満足して映画館を出た。
帰り道、同じクラスの優子ちゃんとなったり。一緒にぶらぶらしていると、
「加賀ちゃん」
と呼び止められた。佐川先生だった。
日曜日だから私服、ジャージではない。
先生は私たちを喫茶店に連れて行ってくれた。
ファストフードやチェ-ンのカフェもない時代、喫茶店は中学生だけで入れる場所ではなかった。尾や以外の誰かと入ったのも、その時が初めて。
薄暗い店内、足を踏み入れるだけで灰突貫みたいなものがあった。あの頃の喫茶店は、どうしてあんなに暗かったのだろう。そんな暗がりで友人と一てょそhいえ大人の男性とお茶しているのが不思議だった。
中間テスト、英語。
テスト用紙を手にして、目を疑った。
以前は英語の教師が英文タイプで作成した読みやすいものだったが、佐川先生のものは手書き、しかも上手とは言えず読みにくくて、問題も分かりにくく、確か七十五点しか取れなかった。
当然、平均点も低く、佐川先生は叱責されたらしい。だったら学年で統一問題にすればいいのに、当時は担当教師がそのクラス独自の問題を作っていたのだ。
体育が専門なのに「英語を単相させられる、その版では想像するだけで気の毒で、佐川先生、可哀そう、と同情してしまった。
その後、進展があるはずもなく、二学期には新しい英語教師がやってきて、佐川先生との縁は切れた。
今でも思う、あの時、街で二人ではなく私一人霧だったら、それでも佐川先生は私を喫茶店に誘ってくれただろうか。
先生に恋するなんて想像もしなかった私にとって、佐川先生は最初にときめいた大人の男性、それだけは確かだ。
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