第2話

 かつて。


 大群を率いて人間の住む地を脅かした魔物たち。

 それに対抗するために立ち上がった優れた魔法使いたち。


 特に先導した大魔導師は、人々にもっとも敬われた。

 ……と同時に、恐れられてもいた。


 かくして魔法使いたちの活躍により訪れた平和は、そう長くは続かなかった。


 次は、人間同士の争い。

 領土、民、食料、金、なにかを奪い合う争いが起こり始める。


 まるで神が彼らを見捨てるように、魔力を持つ人々の数は減少していった。

 そうして起こったのは、魔力を持つ人々への迫害。


 もはや武器があれば人類でも倒せるほどに弱体化していった魔物は、数も減少。


 つまり今の世の人とは、『魔物』を恐れているのではない。


 こそ、恐れているのだ。




「また、ですか?」

「仕方ないでしょう、ハルバーティは出れないもの」

「ですが……」

「わたくしは、誰?」

「……破炎の魔女、メイラフラン様です」

「そういうこと」


 つい先日、この地方の領主から魔物の討伐依頼を受け、拠点とするためにこの地に身を寄せている魔法使いたちの集落へとやってきた。


 それが終わり、また別の場所へ移動する予定だったが、領主の使者がさきほど来た。

 曰く、「報酬は用意している、魔女なら容易いだろう」だそうだ。


「……領主の首を獲りますか?」

「なに馬鹿なことを言ってるの、仕事よ。し・ご・と」


 力なき人々が、力ある者を淘汰する時代。

 しかし、彼らとて完全に戦力を捨てる訳にはいかない。


 魔力なしでも倒せるとはいえ、魔物もいれば勢力同士の争いもある。


 そして抱える戦力に不安がある首長たちは、必然的に魔法使いの力を頼らざるを得ない。

 臣民には魔法使いを追いやる素振りを見せ、裏では金を払い都合のいいように利用する訳だ。


 ……反吐がでる。


「撃ち払う力がもっとも強いわたくしを頼るのは、まぁ及第点ね」

「はぁ……。貴女はどうしてそう、ご自分を労わらないのか」


 ふざけたようにおっしゃるが、他の大魔女の負担を少しでも減らそうとお考えでいる。

 彼女は、勇気と希望の魔女。


 人々が、恐怖すると同時に、光となる存在でもなければいけないと……。

 常々、心に誓っているのだろう。


「詳細は会って話すと言われたし、しっかりと気合い入れていきましょう」

「気合いなど入れずとも、貴女はいつもお美しいですよ」

「はいはい」


 ここでいう気合いを入れるとは、美しく着飾り、そして威圧感を与え、魔女とは高潔な存在であると示すということだ。

 妬み、恐れ、好奇の目を向けられる。

 ……簡単にいうと、わざわざ嫌われ役を買って出られる。

 それも、他の魔女より討伐依頼を多く引き受ける理由なのでしょう。


 この方は、本当に……。


 ゆるく巻かれた見事な赤い髪を一束すくって、口づける。

 

「私は貴女に、嘘などつきませんよ」

「……口が上手いんだから」


 いつも貴女が立場上、心を見せれないのなら。

 貴女が望み、貴女が喜ぶ言葉を授けます。


 どのみち、その言葉に嘘などないのですから。

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