4.コイツらも同罪だったのか


「冒険者ギルドに依頼をだした! 頼む、依頼を受けてくれ!」

「なんでぇ? 僕は散々嫌がらせされて、今までだってギルドから鉄貨1枚の報酬も報奨金も支払われたことがないのにぃ? また功績を横取りしてタダ働きさせられたくないからヤ〜だよっ!」


僕が突き放す言葉に冒険者ギルドが関係していると判断したのか、埒が明かないと思ったのか。

怒濤の如く統括ギルドに向かった集団で、統括ギルド内にある冒険者ギルドは大騒ぎになった。

だって報酬や報奨金は僕に支払ったことになっている。

功績は僕の持つギルドカードに間違いなく記載されていると言ったのだ。

そうして証拠として差し出されたのは『依頼完了』『事務処理済』という朱色の証明印。

これは間違いなくギルドカードへの処理が済んだことを意味している。


「間違いなく、この通り証明されています!」


それは彼らの小細工によるものだ。

その理由は簡単だ。

僕のギルドカードが2枚あり、僕の持っているカードには支払われていない。

だってこれは使えなくされていたから。

そしてもう1枚、冒険者ギルドが隠し持っている僕の再発行されたカード。

ここに僕に支払われたはずの報酬や報奨金が振り込まれている。

この偽造カードがあるから、冒険者ギルドは僕がカードを使わないようにしている。

そのため僕のカードには功績が記載されず、何も振り込まれず。

こうして使う予定がないただの身分証になっている。


「間違いなく報酬も報奨金も振り込まれています!」

「じゃあ、結界師のガキが嘘をついているというのか!」

「あの結界師を信じないでください。小賢しい子供なんです。結界が張れるというだけで偉そうに踏ん反り返っているクズなんです。今までどれだけの善意のある方々が騙されてきたことか!」


統括ギルドにはその国にある各ギルドのトップが集められていて、ここひとつでこの国に存在するギルドに関する手続きが一括で片付く。

誰かが起こした問題は各ギルドで同時に把握することができ、のちのトラブルを想定して事前に対策をとることで自分の所属するギルドを守ることができる。

そのため、各ギルドの受付嬢の耳は大きくなり、職員が私服に着替えて騒ぎになっている冒険者ギルドの周辺で聞き耳を立てている。

そんな騒ぎになっている冒険者ギルドに僕は堂々と向かった。

そこで僕を悪者にして言い逃れようとしている場面に出会した。


「この騒動を起こした結界師には責任をとらせます。王都に結界を張らせる奴隷として国に引き渡し、冒険者ギルドからは追放処分に……」

「そんなことする前にさぁ。僕の主張が嘘だと言い張りたいなら、僕が持っているこのギルドカードを調べてよ」


そう言った僕に視線が集まる。

まさか、ここへ出てきているとは思わなかったんだろうね。

ギルド側は青ざめ、僕が悪者だと言われて信じ始めていた男たちは興奮して顔を赤らめていた。


「ねえ、そこまで僕のこと責めているんだからさ。ほらここで、みんなの前で確認してよ。その方が手っ取り早いでしょ。もちろん、ここに揃っているみんなが証人になってくれるよね?」

「よし、そこまで言うなら鑑定石を持ってこい!」


僕の言葉で真っ先に動いたのは乗り込んで騒いでいた男たち。

カウンターの上に置かれた鑑定石を引っ掴んで僕の前へズンズンと近付く。

ほかの人たちが運んできた酒場のテーブルが僕の前に置かれ、その上に鑑定石が載せられる。

僕の足元に木箱が置かれたのは、テーブルの天板が高いから。

そんな優しい配慮もしてくれる。

木箱の上に乗った僕がギルドカードを掲げるとそのカードに視線が集中する。

妨害しようと慌てて駆け寄ろうとした職員たちは、周りから押さえつけられて近付けない。


「やめてぇ!」

「誰か! いますぐにあのカードを取り上げて!」

「暴れるなっ! 大人しくしろ!」

「お前らが言ったことの証明をするだけだろ」


自分たちにとってこれは首を絞める行為。

だから男も女も髪を振り乱して暴れ続けるその姿は、城門の外で日々凶化していく魔物と何ら変わらない。

嘘ばっかり言ってるからだよ。

だから、真実が目の前に現れると妨害する以外になすすべはない。

……それが文字どおり身を滅ぼすと分かっている。

刻一刻と罪が暴かれ罰を受ける瞬間が近づく。

それは死刑を言い渡された罪人が一歩ずつ処刑台に近づくようなものか。

両者の違いは、処刑される罪人は処刑台ですべてが終わるのに対して、ギルドの職員たちはこれから天寿をまっとうするその瞬間まで何十年も続く『生き地獄』が始まる点だ。


「じゃあ、置くよ。ちゃんと見ててね〜」

「「「やめてぇぇぇ!!!」」」

「「「誰かとめろ!!!」」」


職員たちの叫び空しく、鑑定石の上に載せた僕のギルドカードはすぐに詳細を表示する。

真っ赤な文字で『再発行済み』と。


「再発行? 身分証ギルドカードはひとり1枚しか発行されないだろ?」


ザワザワと広がる騒めき。

再発行した後に最初のカードが見つかった場合、最初のカードに情報が統一される。

最初のカードには間違いなく僕の血液が1滴登録されている。

再発行のカードには僕以外の血液が登録されているのだろう。

そうじゃなければ、カードに振り込まれたお金は出金できないのだから。


『情報を統一しますか?』


続けて青色で表示された内容に「はい」と口頭で答える。

同時にカードに登録された血液と僕の指先が金色に光ると『同一人物と確認できました』と表示された。

カード全体が光ると、それまでの情報が上書きされていく。

これで僕のギルドカードには今までの成功記録が追加されて功績に見合った報酬や報奨金が正しい額で振り込まれた。

出金された記録は残されていないのは、引き出したのが僕のカードからではないからだ。

そして再発行されたギルドカードはそのまま消滅するが……


「ぎゃあああああ!!!」


どこのギルドでもカードが偽造された場合、偽造カードに登録された血液の所有者は血液が沸騰する。

血液が沸騰すれば全身が焼け爛れて死を迎え……られない。

全身から焼けるような異臭を放ちながら苦しみ悶えのたうち回るが、回復薬も効かず治癒魔法も効果がない。

そして使い込んだお金は横領として所持金から充填され、足りなければ借金になる。

今回みたいに組織ぐるみの犯行なら、組織全体から多額な慰謝料が支払われる。


「叫んでいるのはギルド長のようだな」

「コイツらも同罪だったのか」


のたうち回っているのはギルド職員もだった。

偽造カードの発行や悪用を分かっていて黙っていた者、引き出されたお金を一緒に使った者。

そんな職員も同罪なのだ。

退職した職員も今頃は苦しみながら床を転がり続けているだろう。


阿鼻叫喚の中でも罪を犯していない職員は間違いなく存在していて、黙々と自分たちの仕事をしている。

国や国内の冒険者ギルド、国外の統括ギルドへ騒動の報告と一時的な閉鎖を通達するためだろう。

そんな職員のひとりから新しい鑑定石を受け取った。

偽造カードをつくられたことによるお詫びで、今度から定期的に自分でカードをチェックし、また偽造された場合も今みたいに情報を統一させることができるようになる。

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