クロユリの花
橘 静樹
今日、実家からツバメの子が消えた。たぶん、近くをうろついていた野良猫の仕業だと思う。
数日前から狩りをしたいのは見え見えだったけれど、私の親は、どうせ猫には届かないだろうと高を括っていた。
軒先に巣が作られたとき、何もこんなに人の手が届きそうな場所で子育てをしなくても、と思っていたが、実際に襲われてしまうと何とも言えない気持ちになる。
ツバメの巣は半分ほどごっそりと削られ、中にいたはずのヒナはどこにもいない。散らばった短い羽根が、ぽろぽろと力なく地面に落ちているだけだ。
見上げても、そこにあった幸せのかたちが、ない。
胸の内から込み上がる想いが目から溢れ、視界がにじむ。これが出来の悪い映画だったとしても、もう少し救いが欲しいところだ。
ただ、現実の方がやさしくないのは珍しくもないだろう。それは、経験として知っている。
私のまぶたが幕を下ろすように閉じると、押し出された雫がひと粒、地面に落ちて弾けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます