クロユリの花

橘 静樹

 今日、実家からツバメの子が消えた。たぶん、近くをうろついていた野良猫の仕業だと思う。

 数日前から狩りをしたいのは見え見えだったけれど、私の親は、どうせ猫には届かないだろうと高を括っていた。

 軒先に巣が作られたとき、何もこんなに人の手が届きそうな場所で子育てをしなくても、と思っていたが、実際に襲われてしまうと何とも言えない気持ちになる。

 ツバメの巣は半分ほどごっそりと削られ、中にいたはずのヒナはどこにもいない。散らばった短い羽根が、ぽろぽろと力なく地面に落ちているだけだ。


 見上げても、そこにあった幸せのかたちが、ない。

 胸の内から込み上がる想いが目から溢れ、視界がにじむ。これが出来の悪い映画だったとしても、もう少し救いが欲しいところだ。

 ただ、現実の方がやさしくないのは珍しくもないだろう。それは、経験として知っている。

 私のまぶたが幕を下ろすように閉じると、押し出された雫がひと粒、地面に落ちて弾けた。

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