・【解説】
読者の皆さんには犯人が誰かわかったでしょうか?
一人の少女の命を奪ったのは、少女の通う学校の教師か、死体発見現場で目撃された男なのか、それとも血のつながっていない父親なのか。
謎を解くカギはタイトルにあります。そう、矢印です。実は一番最後にある矢印の先を読むことで、この物語の真相が浮かび上がるのです。ただし、少しだけ工夫を加える必要があります。
結論を先に言いますと、実はこの短編集には4つの「縦読み」が仕込まれていました。
この文章は、改行する文字数を変えることで3つの真相が現れるのです。
それでは実際に見てみましょう。
と、その前に画面右上(あるいは右下)にある「ビューワー設定」より文字のサイズを小さくしておいてください。それが済みましたら、矢印の先を読んでみてください。
(※スマホなどの小さな画面で読んでいる方は、正しく表示されない場合があります。その際はPCより閲覧するか、スマホの画面を横向きにするか、あるいはメモ帳などどこか別の場所にコピペするなどして、指定の文字数分で文章が折り返すように工夫してみてください。)
(20文字で改行した場合。)
↓
犯行は早朝に行われた。少路つばめという
一人の少女の命が無慈悲に奪われた。犯罪人
とはすべからく捕まるべきだ。殺害現場であ
る野原には弦が落ちていた。被害者との関係
は分かっていない。捜査線上には三人の人間
の名前が浮上した。一人目の名は名倉洋。彼
は音楽教師として彼女が通う学校に勤めてい
た。二人目は、野分名音。午前七時ごろ、彼
の車が現場を走り去るのを見た人がいた。野
分には前科や前歴の類いはない。三人目の名
は少路昴。彼は殺された少女の継父。殺され
た女子は通学途中に、道で胸飾りを拾い、そ
れを鞄にしまったらしい。これは後に持主が
名乗り出たので少女のではない。現場に居合
わせた地域住民によると、現場近くの倉庫D
にて誰かが路上を監視するように佇んでいた
と、答えた。また、血が付いた洋服とナイフ
が拉麺昴来軒の裏手で発見される。その刃物
が致命傷を与えたと推定。加えて、詳細な情
報。路上を眺め佇んでいた不審人物は、目測
で身長百八十。強そうな長身の大男。歳は二
十代前半から三十代。警察は、情報提供者に
賞金授与との発表。そうでなくともいつ目に
は目を歯には歯をと、被害者の遺族たちが報
復的正義を振るいかねない。読者の皆さんに
はだれが犯人か突き止めてほしい。さて遺体
そっくりな人形を用意して犯人の襲撃時を模
した検証が行われた。殺された子には性的暴
行の形跡があった。その格好は乱れ、無惨な
姿だった。検証の結果、ごく少量の被害者の
血が、死体発見現場を北へ百メートル行った
先、林で見つかる。少女の継父の昴は警察と
のやり取りで血も涙もない発言をする。だが
取り乱すほど溺愛していた一面も見せる。洋
は損傷したつばめの胸飾りに眉を顰める。な
ぜなら作者が彼であるからだ。名音は許しを
請うた。だがそれは、名音の早とちりであっ
た。彼は不法投棄の処罰と思ったらしい。
↑
(37文字で改行した場合。)
↓
犯行は早朝に行われた。少路つばめという一人の少女の命が無慈悲に奪われた。
犯罪人とはすべからく捕まるべきだ。殺害現場である野原には弦が落ちていた。被
害者との関係は分かっていない。捜査線上には三人の人間の名前が浮上した。一人
目の名は名倉洋。彼は音楽教師として彼女が通う学校に勤めていた。二人目は、野
分名音。午前七時ごろ、彼の車が現場を走り去るのを見た人がいた。野分には前科
や前歴の類いはない。三人目の名は少路昴。彼は殺された少女の継父。殺された女
子は通学途中に、道で胸飾りを拾い、それを鞄にしまったらしい。これは後に持主
が名乗り出たので少女のではない。現場に居合わせた地域住民によると、現場近く
の倉庫Dにて誰かが路上を監視するように佇んでいたと、答えた。また、血が付い
た洋服とナイフが拉麺昴来軒の裏手で発見される。その刃物が致命傷を与えたと推
定。加えて、詳細な情報。路上を眺め佇んでいた不審人物は、目測で身長百八十。
強そうな長身の大男。歳は二十代前半から三十代。警察は、情報提供者に賞金授与
との発表。そうでなくともいつ目には目を歯には歯をと、被害者の遺族たちが報復
的正義を振るいかねない。読者の皆さんにはだれが犯人か突き止めてほしい。さて
遺体そっくりな人形を用意して犯人の襲撃時を模した検証が行われた。殺された子
には性的暴行の形跡があった。その格好は乱れ、無惨な姿だった。検証の結果、ご
く少量の被害者の血が、死体発見現場を北へ百メートル行った先、林で見つかる。
少女の継父の昴は警察とのやり取りで血も涙もない発言をする。だが取り乱すほど
溺愛していた一面も見せる。洋は損傷したつばめの胸飾りに眉を顰める。なぜなら
作者が彼であるからだ。名音は許しを請うた。だがそれは、名音の早とちりであっ
た。彼は不法投棄の処罰と思ったらしい。
↑
(38文字で改行した場合。)
↓
犯行は早朝に行われた。少路つばめという一人の少女の命が無慈悲に奪われた。犯
罪人とはすべからく捕まるべきだ。殺害現場である野原には弦が落ちていた。被害者
との関係は分かっていない。捜査線上には三人の人間の名前が浮上した。一人目の名
は名倉洋。彼は音楽教師として彼女が通う学校に勤めていた。二人目は、野分名音。
午前七時ごろ、彼の車が現場を走り去るのを見た人がいた。野分には前科や前歴の類
いはない。三人目の名は少路昴。彼は殺された少女の継父。殺された女子は通学途中
に、道で胸飾りを拾い、それを鞄にしまったらしい。これは後に持主が名乗り出たの
で少女のではない。現場に居合わせた地域住民によると、現場近くの倉庫Dにて誰か
が路上を監視するように佇んでいたと、答えた。また、血が付いた洋服とナイフが拉
麺昴来軒の裏手で発見される。その刃物が致命傷を与えたと推定。加えて、詳細な情
報。路上を眺め佇んでいた不審人物は、目測で身長百八十。強そうな長身の大男。歳
は二十代前半から三十代。警察は、情報提供者に賞金授与との発表。そうでなくとも
いつ目には目を歯には歯をと、被害者の遺族たちが報復的正義を振るいかねない。読
者の皆さんにはだれが犯人か突き止めてほしい。さて遺体そっくりな人形を用意して
犯人の襲撃時を模した検証が行われた。殺された子には性的暴行の形跡があった。そ
の格好は乱れ、無惨な姿だった。検証の結果、ごく少量の被害者の血が、死体発見現
場を北へ百メートル行った先、林で見つかる。少女の継父の昴は警察とのやり取りで
血も涙もない発言をする。だが取り乱すほど溺愛していた一面も見せる。洋は損傷し
たつばめの胸飾りに眉を顰める。なぜなら作者が彼であるからだ。名音は許しを請う
た。だがそれは、名音の早とちりであった。彼は不法投棄の処罰と思ったらしい。
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◆
ということでいかがでしたか?(もう文字のサイズは大きくしても大丈夫です。)
いつか縦読みネタで話を作りたいと考えて連載当初から下準備は進めていたもののなかなか筆が乗らず、しかしいざ作り出してみると意外に楽しくて、なんだかんだ書き上げるのに数日で済みました。作っている最中に苦心したのは、言葉選びと文字の位置調整ですね。一つの文に三つも縦読みが仕込めて感無量です。
今回の話はPCを使って書いていたのですが、スマホやタブレット、ましてや原稿用紙でやるのはかなりハードルが高いと感じました。もし今回のように折り返す文字数によって変わる縦読み文章を作りたい人がいましたら、パソコンのメモ帳がお勧めです。メモ帳のサイズを変えることで簡単に折り返す文字数が変えられます。私の場合、初めに縦読みする文章の方を決めておいて、本文中のどこに来るのかを先に当てはめて、あとから本文を作るようにしました。
もしも作った人がいましたらぜひとも教えていただきたいです。読みにいきますので。
それと、せっかくなので、縦読みについて考えたことなどをエッセイとして、ここに書いておくことにします。興味のある方はぜひ読んでいってください。
◆
縦読みというと、私は新聞のテレビ欄を思い浮かべます。スポーツ中継のところに載っていてたびたびネット上で話題になります。あれくらいの短い文章でしたら作るのにそれほど難しくはない気がします。ただ、伝えたいメッセージとテレビ欄として載せなければならない番組情報、その二つはしっかりとしたものにしないといけないので、なんでもいいというわけにもいかないところを考えると、少し難易度は上がると思います。
縦読みは、短いものや内容を考慮しなければそれほど作るのは難しくないと思います。すると、どういったものが縦読みとして完成度が高いでしょうか? 以下に思いつく限りのものを箇条書きでまとめてみました。
・文法が正しい。
・本文内容に統一感があり、不自然ではない。
・不自然な改行が行われていない。
・本文と縦読み文章の内容に関連性がある。
・漢字の方がふさわしい単語が、平仮名などに置き換わっていない。
・漢字を当て字にして縦読みさせない。
・不自然に漢字、平仮名、片仮名が混ざっていない。
・閲覧環境に影響されにくい。
・複数の縦読みが仕込まれている。
・話の内容が面白い。
・メッセージ性がある。
ということで一つ一つ見ていきましょう。
まず、そもそもですが縦読み以前に文章ですから、文法や話の内容がおかしいとまずいです。とくに縦読みで多いのが不自然な改行で、これを許すなら制作難易度はかなり下がります。ただ、そうすると読みにくくなるだけではなく、縦読み文章であることがすぐにわかってしまいます。
縦読みを仕込む理由は、間接的にメッセージを伝えたいからだと思います。暗号文、告白文、悪口、告発文、警告文など、いずれにしろエンターテイメントとして用いる場合を除き、直接伝えたくない内容を隠す目的で縦読みが使われている場合がほとんどです。ゆえに、本来ならば不自然な改行は、通常の文章以上に気をつけなければならないはずです。
欲を言えば本文と縦読み内容に関連があるといいと思います。が、秘匿性を考えるとむしろ本文とは真逆の内容になっているとよい場合があります。検閲を通るために、あえて逆の内容にするのです。あとは、本音と建て前のように、賞賛と悪口の二面性をもたせるなど。
このようにわざわざ縦読みにする必要性が感じられればよい文章だと思います。
そのほかには、単純に本文の内容に読みごたえがあるものであればなおよく、複数個所に縦読みができればさらに面白いと思います。
ただ、閲覧環境によっては縦読みが崩れる場合があり、ネット環境だと特にそれが起きてしまうため注意が必要です。
私の今回の短編は漫画「BLOODY MONDAY」の作中に登場する、とあるシーンを参考にしています。裏切り者の存在に気付いた主人公がメールでそれを伝えるシーンなのですが、そのメールは相手の閲覧環境を考慮して縦読みになるように作られていました。
さて、縦読みさせる合理的な理由を色々と考えてみましたが、それはそれとしてただ単に作者のちょっとした遊び心として縦読みさせるものがあり、それも面白いと思います。心の叫びや愚痴を縦読みにして伝える。気づかれても気づかれなくても自己満足なのでどちらでもいい、といった感じです。
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