異界交易の波紋 ~資源国、日本
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【登場人物】
ルースラン・レイアール
アメリカにある世界で二番目に発見された“
ゲラン・トーチ
ホール2の住人で、
クレア・ロバートソン
DIMOエージェント。イギリス系オーストラリア人。ホール2では、迫田とバディを組んでいた。
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かつて日本は、資源のない国だった。それも今は昔、“
“
ともあれ、石油をほぼ輸入に頼っていた日本にとって、格安で輸入できるようになったことは、国策上とても重要なことだ。なお、開発した油田の埋蔵量は未確定となっているが、日本政府が数値を隠蔽しているという噂も絶えない。また、現在の産出量は年間三十万キロリットル、十九万バレル程度だが、徐々に産出量は増えていることからも、今後の成長に期待する声は大きい。
ただし、異界石油には、いくつかの制限もある。
第一に輸入方法だ。日本と
第二に、精製の問題がある。経済産業省と財務省は、
「なぜ、わざわざ海外に工場を建てる? 国内で精製した方がいいだろうに」
“
「外交的、政治的判断でしょうね。ホール1からの利益を日本が独占していないという、一種のエクスキューズでしょう」
「こちらの世界に来て長いが、どうもその外交的判断とやらが理解できない。
「まぁそこは。歴史的な背景もありますし。詳しくはサコタにレクチャーしてもらってください」
「丸投げか。そのサコタには、いつ会えるともわらかないのに」
ルースランの言葉に、クレアがため息をつく。
「そうなんですよ。まったく、わざわざ
ルースランたちの目的は、ホール1の向こう側にいるサコタに会うことだった。もともと、ルースランたちホール2の
「ところで、
「あぁ、ゲランなら、例のVIPと一緒に福島県庁に行っていますよ。知事に挨拶するとかで」
「あいつが? 嘘だろ」
ルースランと同じく、ホール2出身のDIMOエージェントであるゲラン・トーチは、挨拶回りなどという面倒な仕事を買って出るような性格はしていない。
「何かネタを掴んで脅したか、薬でも使ったか。それとも、魔法やらで――」
「失敬な。脅したりするわけないでしょう。石油の臭いがきつくて、ここには来たくないそうですよ」
「それに、人を従わせる魔法なんてありませんよ。あったら欲しいくらいです。そもそも、私たちの世界じゃ魔法は使えませんし」
「なんだ、報告書読んでいないのか?
「読んでいますけど、私は異界人じゃないので――」
そんな会話をしている二人に、ダークグレイのスーツを着た男が近づいて来た。
「ルースランさん、クレアさん。お待たせしました。準備ができたので、ピットの方へどうぞ」
「“アリガト、ミヤザキサン”」
異界局の局員、宮崎に案内され、DIMOから来た二人は建物の中に入っていった。
□□□
クレアたちが日本に到着する三週間ほど前まで、時計の針を戻そう。場所は――中東、某国、海を望む高級ホテルの一室。
広い部屋の開け放たれた窓から、揺れるレースのカーテンとベランダ越しに青い空、蒼い海が見える。部屋の内装や家具は白で統一されており、景色とのコントラストが目に眩しい。豪華なリゾートホテルの最上階にある、プレミアムスイートルームは、極々限られた人間しか利用できない。今、ここにいる彼らのように。
男性はアラブの民族衣装であるトーブを纏い、女性は全身を布で覆っている。彼ら彼女らは、それぞれの政府を代表している人間だが、その姿を外に見せることはめったにない。いわゆる暗部――アメリカで言えばCIA、ロシアで言えばKGBのような、影となって国益を護る組織のトップたちだ。そんな人物たちが一堂に会している、それだけでも欧米の諜報機関は大騒ぎになるだろう。
「さて、こんな機会はめったにないことだから、いろいろなことについて話合いたいとは思うが、今はまず、集まった理由でもある懸案事項――日本への対応について話したい」
この部屋に集まっている人々は、意図的に服装などを似せて個々人を区別することは難しくしている。もしも、この会合を中東に長く滞在している日本人が覗いていたとしても、見分けることは非常に困難だっただろう。分かるのは、男女の区別だけ……いや、性別すら偽っている可能性もある。
ここでは、最初に口を開いた男を、仮にAとしておこう。Aは言葉を続けた。
「OPECの報告は読んでいるな? ま、それぞれ独自に調査もしているだろう。それを踏まえて、今後日本をどのように扱うか、それぞれの意見を聞きたい」
対立か、協調か。“
「日本政府は、原油の産出量を市場が混乱しないように管理するといっている」
窓際に座っているBが言った。それに対し、その向かい側に座っているCが反論する。
「それを信じるの? 結局、シェール(ガス)の二の舞になるのでは?」
シェールガスは、
「私は、日本人を信じるよ」
「はっ! ずいぶんと甘いのね」
「それは侮辱かね?」
「よさないか」
BとCが始めた口論を、Aが止めた。
「問題は、信じる・信じないではないよ、諸君」
それまで無言だったDが口を開いた。
「現実に、原油価格は下落を続けている。他方、ドル円の為替相場は安定している。つまり、現状を放置すれば、我々の
「そんなことは分かっている。どうするか、を話合うのだろう?」
話に加わってきたEに向かって、Dがにやりと笑う。
「話合う? そんなことは
その場を静寂が支配する。彼らはみな裏舞台の人間であり、国のためとはいえ人には言えないようなこともしてきた。ここにいる者同士でも、(紛争・戦争以外で)組織同士が殺し合いをしたこともあるのだ。言葉にしなくても通じる、共通言語が彼らにはある。
「私――我が国は、参加しない。その代わり、妨害もしない」
Bが口を開くと、数人が追従した。そして、計画に参加しない者たちは、その場を去った。
「では、詳細を詰めようか」
Dが自分の計画を話し出した。
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