「蜘蛛」「目玉」「カード」

佐々木 煤

「繁栄の象徴」

 我が家には一つのルールがある。15歳になったら、毎晩100枚あるカードを1枚引き枕元に置いて寝る。カードとルールはご先祖様から代々引き継がれていて、お家の繁栄に繋がっているらしい。現に私の家は江戸時代から商家として名を馳せており、金銭面では困ったことはない。カードを一枚引いて寝れば大金持ちになることが約束されるのだ。儀式的なものなのだろうけど、私は夢枕みたいなアイデアをもたらすルーティンだと思っている。

 高校生になった年、父に呼ばれてカードを引いた。父はカードが壊れるといけないからファイルに入れてから枕の下にいれることや旅行中でも必ず行うことなどカードの扱いについて丁寧に教えてくれた。そんなことよりも私はカードに描かれた絵が気になって仕方なかった。山よりも大きな蜘蛛が人々に覆い被さってたばこを吸う、悪趣味な絵だ。もっと朗らかなことが描いてあると思ったのだが、私のご先祖はセンスが異なっていたようだ。それから、私も毎日悪趣味なカードを枕の下に入れて寝ている。

 ある日、父方の叔父さんが亡くなった。突然のことだから家中が慌てふためいていた。葬式に仕事の引き継ぎに親族のケア。大学生になって家のことから少し離れていた私も、微力ながら家に尽くして働いていた。遺体は叔父の家族の希望により、その日のうちに火葬された。カードも一緒に燃やされたらしい。そういう仕来りだそうだ。

 大学を卒業するとき、叔父の長男が私の大学に入学するというので案内がてら一緒にお茶をした。長男は叔父が亡くなった日について、おもむろに話し出した。

 「父はいつものように僕の前でカードを引いて見せてくれました。僕の家では絵を家族で見る様にしてたんです。その日は爛れた顔から目玉が落ちていく様子が描かれたカードでした。不気味な絵でした。父が寝ようとした時、会社から急な電話がありその日中に家を出なければいけなくなりました。準備が終わり車に乗った瞬間、アクセルがかかりそのまま猛スピードで塀に激突しました。運転手さんは寸でのところで飛び降りましたが、父はそのまま…。遺体は顔が爛れて目玉が飛び出ていました。僕は思うんです、あのカードは幸運をもたらすものじゃない。不運を呼び寄せて寝ることで回避させてる儀式なんじゃないかと」

叔父の子の異常な話には驚きを隠せなかった。私の引いた今までのカードの人は私の死に様なのかもしれない。けれども私は因果を確かめる勇気はない。恐るべき絵が私の最期になると思いたくないからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「蜘蛛」「目玉」「カード」 佐々木 煤 @sususasa15

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る