第226話 復活
「これは……酷いな」
至る所に巨大な体を持つ伝説の生物であるドラゴン達が倒れているのを見て俺はそう口にする。赤王が言う龍の都とやらに近づくにつれてその数は増えていき、戦いの熾烈さが伝わってくる。
「青王!」
そんな時、他よりも一回り大きな青いドラゴンの体が見えてきたところで赤王が叫び、その体に駆け寄っていく。
「青王! 青王! 目を覚ませ! 青王!」
もう既に息はしていないのだろう。赤王の呼びかけに答える気配はない。赤王が人間の世界へと来た理由は同胞を助けるためである。
今までの倒れているドラゴン達の姿を見ては「すまなかった」と呟きながら通り過ぎていく少女としての赤王の姿を見ては胸が締め付けられてきた。
そして今、赤王の目の前で横たわっているドラゴンはより近い関係に居るのだろう。今までよりもさらに大きな衝撃となって赤王を包み込んでいるのが分かる。
「お前が居て何故こんなことに……お前が居て」
青いドラゴンの体に拳を打ち付けては一切の反応を示さない様子を見て涙をこぼす赤王。
普段は明るく、人をからかうような言動をとるフィーも今回ばかりは神妙な面持ちでその様子を見守っている。
「あっ、あそこにも」
フィーが指さす方向には二体の巨大なドラゴンが横たわっていた。それは遠めに見ても今までに見てきたドラゴンと一線を画するほどの巨躯である。
それこそ赤王よりも大きなそのドラゴンも今までのドラゴンと同じく大地に横たわり、一切の反応を示さない。
「金王様と銀王様までも……ドラグーンは無事なのか?」
金色のドラゴンと銀色のドラゴンをそのままに、赤王が遠くの方を見た次の瞬間、何かに気が付いた様子の赤王が声を上げる。
「虹王様!」
そこでは虹色に輝く巨大なドラゴンが何かと戦っているようで凄まじい息吹を放っていた。だが、次の瞬間。その虹色に輝く息吹が消失し、代わりに何かが虹色のドラゴンの身体を貫いていた。
目の前で失われた命。思わずその場へと向かった俺達だったが、その結果を変えることはできず、大地に倒れ伏している虹色のドラゴンを眺めるばかりだった。
「うん? この地に人間とは珍しい……あぁ、何だ。主らか」
恐らく虹色のドラゴンと戦っていたであろう何かがこちらに話しかけてくる。少し雰囲気は変わっているが、そいつは確かに俺が見たことのある存在だった。
「魔神教団か」
「その名で呼ばれるのは遺憾だな。俺は憤怒と暴食の魔王、サタンだ」
憤怒と暴食の魔王? どういう意味だ? 暴食の魔王は前に俺が倒したはずだし、そもそも二つの名を冠していることの意味が分からない。
俺が虹色のドラゴンを倒した男と話していると近くで赤王とフィーが誰かと言い争う声が聞こえてくる。
「もうこのドラゴンは戦えないわ。これ以上何をするつもり?」
「虹王様に何をするつもりだ!」
「少し力を借りるだけだ。そこの少女は知らぬが、戦いの最中に逃げおおせたトカゲ如きが妾の邪魔をするな」
そう告げると赤髪の女は赤王の腹を蹴り飛ばし、虹王の下へと歩み寄っていく。どうやら赤毛の少女の正体が赤王であることに気が付いているみたいだ。何をするつもりかは知らないが、嫌な予感しかしないな。
そう思って俺が止めに入ろうとしたその瞬間、俺の視界が荒れ果てた荒野の世界から一気に何もない無機質な空間へと変貌を遂げた。
「クロノ。今、君に暴れられると困るからね。移動させてもらったよ」
「アンディか」
どうやらエルザード家もここに来ているようだな。エルザード家と魔神教団の魔王達が集まっているのを見るにかなり気合が入っている。
「お前達には用はないんだよ」
そう言うと俺は瞬時に破壊の力を身に纏っていく。
「おっと、破壊させられる前に移動させちゃうよ」
そんな声が聞こえたと思ったら俺はいつの間にかどこかの荒野へと身を放り出されていた。
アンディの能力から察するにそんなに遠い所へは飛ばされていない筈だ。
そう思った俺は赤王とフィー、そして魔王達の場所を探そうと辺りを見渡そうとした。だが、その必要はなかったみたいだな。
遠くの方で激しい力の奔流を感じる。さっきまでは無かった途方もない程の強大な力だ。
そして同時に懐かしさを感じさせられる力。
「嘘だろ」
その力が何なのかを悟った俺は破壊の力で空間を破壊し、すぐさまその場所へと移動する。
そして俺の予想は腹立たしいことに的中することとなる。上空に漂う黒色の大きな水晶。そこで丸まって座り込んでいる三対の翼を背中からはやした少年の見た目をした何か。
間違いない、魔神だ。
「まだ間に合う!」
魔神がまだ完全には復活していないことに気が付いた俺は躊躇することなく魔神が覆われている水晶の下へと飛び上がる。
そしてこれまで以上に強力な破壊の力を蓄えると、その水晶に向かって放とうとした。
次の瞬間。
水晶内で眠っていた筈の魔神の目がスウッと開き、攻撃を繰り出そうとしている俺と視線が合うと、
「久しぶり」
そんな言葉と共に俺の体はいつの間にか遠くの方へと吹き飛ばされているのであった。
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