第225話 全勢力
荒廃した大地へと降り立つ。周囲には熾烈な争いが繰り広げられたのであろう衝撃の跡が残されていた。
「ドラゴン、その姿じゃ目立つ。人型になっておいてくれ」
『ドラゴンではない我の名は赤王だ』
文句を言いながらも俺の言う事には納得をしたのかみるみるうちに姿が小さくなっていき、少女の姿へと戻る。相も変わらず裸のままだが。
「ほら、これ着ておきなさい赤王。いくらドラゴンとはいえその恰好はクロノに毒よ」
そう言ってフィーが赤王に向かってペラペラの服を一枚渡す。ナイスだフィー。でも全身タイツってある意味、目に毒かもしれないけど。
「かたじけない」
赤王はそれを手に取ると、さっそく足の方からその服を着ていく。
「着終わったら横に付いてるボタンを押して。そうすれば鎧みたいになるから」
「うむ。ほう、これは凄いな」
赤王が着ていた全身タイツが姿を変えていき、やがてフィーが着ているような鎧姿のような見た目になる。こんな服、いったいどこで見つけてきたんだ? 武具士として世界中に名をはせていたファーブルさんですらそんなものを扱っているのを見たことがない。
それこそ現代よりも遥かに技術力があった古代文明の遺物じゃない限りはあり得ない気がする。しかし遺物にしては劣化しなさ過ぎているし。
「さ、行きましょ。赤王、案内してもらえる?」
「分かった……とはいえどうやら近くに我が同胞達は居ないようだな。向かった先として考えられるのは龍の都、ドラグーンのみだが……」
そんな折、遠くの方で爆発音のような物が微かに聞こえてくる。目では捉えられないほどに遠い距離、だというのにこの耳でも聞き取れるほどの爆発音だ。相当な威力を持つ攻撃が打ち出されたと考えられる。
「あちらはドラグーンのある方向だ。二人とも急ぐぞ! 同胞達が心配だ!」
そう言うと赤王が走り出していく。その緊迫さは尋常ではないものであった。
♢
「ふん、龍王ともあろうものがもはや抵抗する力もないか」
翼を広げ、宙に浮きながら憤怒の魔王サタンは地面で倒れ伏している金の龍と銀の龍を見下ろす。その後ろにはドリューゲンの都ドラグーンが見えている。
『この先へは……行かせぬ』
『赤王が特異点を連れてくるまではここは通さぬ』
体中が焼けただれ、元の美しい姿が跡形もなくなっている二柱の龍王はそれでも必死で立ち上がる。
『お二方!』
そんなところへ金王と銀王よりは一回り小さな青い龍が現れる。若き龍王、
『来るな!』
金王に一喝されて青王は憤怒の魔王へと飛び掛かろうとしていた動きを止める。その瞬間、青王の目の前を極大な力が掠める。
「あーあ、惜しかった。あとちょっとでやれたのに」
「主は少しせっかちだ。もう少し辛抱を覚えればより高みへと昇れるだろう」
そう言って青王の目の前へと現れたのは少女と女性。順に強欲の魔王の子グリーディと嫉妬の魔王レヴィであった。先程放たれた攻撃はグリーディが金王の戦いから学んだものであった。
「レヴィ、そちらの青い龍は任せた」
「妾に指図するな。だがまあ良いだろう。その代わりそいつらを逃すなよ?」
『おのれ!』
青王へと向かうレヴィの方へと金王が金色のブレスを放つ。しかし、間に浮いていた憤怒の魔王がそれを許すはずもない。
「
ドリューゲンに来た時から更に強大となった黒い渦が真正面から金王のブレスを吸収する。そして吸収した力が余計に憤怒の魔王の力となっていく。それは龍へ絶望を与えるのに十分すぎる力であった。
「貴様らはもう邪魔だな。これで沈むが良い。
地上全てを飲み尽くすほどの漆黒の太陽が憤怒の魔王の片手に集約されていく。それが金王を飛び越え、銀王すらも飛び越えて龍の都ドラグーンへと沈んでいく。
『き、貴様!』
それを見た金王と銀王はいち早く反応して飛び立とうとする。しかし、それは目の前に現れた謎の狼によって阻止される。
「魔王どもよ。我らに隠れてコソコソと何をやっている」
現れたのはシノ・エルザードが率いるエルザード家。まさに魔神教団幹部が一か所に集中した瞬間であった。
一方、ドラグーンを守るべくして飛び立とうとしたのを邪魔された金王と銀王は届かないながら沈みゆく黒い太陽へと手を伸ばす。
『虹王様……』
金王が薄れゆく意識の中でそう呟いた時、黒い太陽の前に今までで一番大きな体を持つ七色に光る龍が現れる。
『あの暴れん坊の遺産か……しぶといのぅ』
その瞬間、黒い太陽がはじけ飛ぶ。七色の龍王。最古の時代から存在するその龍王は衰えており、普段ならば金王や銀王よりも力は弱い。しかし、龍の都最後の危機だとして力をすべて開放した龍王はこの一瞬だけ全盛期の力を取り戻していた。
正真正銘、魔神教団総力VS龍族総力の戦いが今始まるのであった。
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