第217話 フィーの話
「よっ」
「フィーッ!?」
突然現れたフィーは俺の隣へと座り、菓子を貪りはじめる。ほんの一瞬であった。気配が現れたのは。決してこの部屋に隠れていたわけではない。
「クロノに用があるから来てみれば隠れて私の話をしてるなんてね。それにその子はだ~れ?」
「セレンと申します」
「へ~、セレンさんね~」
そんな会話を交わしながらセレンがフィーの分のお茶も淹れて机の上に置く。
「どうぞ」
「ありがとう~。飲んでみたかったんだよね~」
どいつもこいつも他人の部屋に勝手に入ってきては寛ぎ始めるのはどういう事なのか。まあ別にそんなに気にしてるわけでもないから別に良いけど、心臓に悪い。
「それで私の何が知りたいの?」
「素性だな。まず突然現れて、魔神を滅ぼす方法知りたい? なんて聞いてくる奴、怪しすぎるだろ。それに加えて学園にSクラスから編入できたのも謎だしな」
「素性ね~。まあ、メルヘン王国のお姫様ってことで」
「要するに答える気はないってことだな。了解した」
「え~、ホントなのに~」
言い方からして明らかに嘘だとわかる。本当なわけがない。
「でも学園にSクラスから入れた理由は教えてあげるね。ライオネル・ゼル・グレイスっていうそれはそれは偉~い人にお願いしたんだ」
「ああ、あの爺さんか」
思いがけない名前がフィーの口から飛び出してきて少し驚く。まさかそことかかわりがあるとは思わなかったな。よく見たら俺の母さんに顔が似てなくもないからグレイス家の親戚か何かだろうか?
「あれ? 知ってるの?」
「クロノ様は元々高位貴族のご嫡男だったお方です。公然には秘匿されているグレイス家の存在も貴族の中では大きな影響力を持っているので、知っていて当然なのですよ」
「いや、まあ知ったのはつい最近だけどな」
胸を張って言っているセレンには悪いけど。
「そうなのですか!? グレイス家の事は分家である私達ですら教えられていましたのに」
「シノはそんなことを一切気にしない男だったから教わらなかったな。母さんは俺がまだ幼いころに亡くなったし。下手すれば俺は貴族の事に関しての知識が普通よりもない気がする」
エルザードで教わったことと言えば戦いの仕方に戦いの知識。何もかもが能力者としての育成に傾いていた特殊な場であった。幼いころから無理な訓練を強いられてきた俺には他の事を知ろうとする機会もなかったのだ。
「なるほど。確かにカリンもそんな感じでしたしね」
まあ、あいつはそんな気がするな。
「というかクラウン家とイズール家が特殊だった気がする。両家とも索敵部隊だったし」
「そういえばそうかもしれないですね」
影を操るクラウン家とセレンが属していた眼の能力を操るイズール家。どちらもエルザード領内では索敵のツートップを走っていた家だ。公然には隠されている情報に加え、世界的にも禁忌となっている情報すらも知っている可能性がある。ドリューゲンの事も知っていたしな。
「な~んだ、グレイス家のこと知ってるんだね」
「知ってるというかまあ俺は一応グレイス家の血が入っているしな」
「え!? そうなの!?」
「そういえばクロノ様の母上がグレイス家でしたね」
そんなことも知ってるのかよ。息子である俺ですら祖父がアークライト家を訪れるまで知らなかったってのに。
「へえ、君だったんだね」
「何がだ?」
「いや、ライオネルさんに孫がいるって聞いてたからさ。君だったんだって思ってさ。お茶とお菓子、ご馳走様。それじゃ私はもう帰るね」
お茶を一気に飲み干してそう言うと、持っていたティーカップを机の上に置き、こちらに手を振りながら颯爽と部屋の外へと出ていく。いきなり来るしいきなり帰るんだな。セレンの一言でちょっと雰囲気が変わったと思ったのは気のせいか? それとも
「私もそろそろ情報収集に戻りますね」
「あ、ああ。いろいろありがとな」
そうしてセレンまでも部屋から出ていき、俺一人となる。つい先ほどまで騒がしかったのがいきなり静かになるとそれはそれで寂しいな。
今日のことを思い返しながら俺は就寝の準備をするのであった。
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