第215話 編入生
「という訳で今日からSクラスに入るフィーさんだ。みんな、よろしくな」
「よろしくね!」
ギーヴァ先生に紹介されたその少女の姿に俺は突っ込みを入れたくなる。おい、まさか俺に接近するためだけに入ってきたんじゃねえだろうな?
「Sクラスに編入なんて珍しいわね。カリンは勇者だったから入れるのはわかるんだけど」
「確かにそうですね。Sクラスへの編入は特別な場合に限る、と明言していますものね」
一応、この学園には各クラスの成績上位者にのみ昇級試験が課され、それに合格すると下から上がってくるという制度がある。下から上がる制度があることから、本当にSクラス相当なら上がれるでしょと言わんばかりにどれだけ編入試験の成績が良くとも高くてBクラスからなのだ。
よっぽどでない限り、Sクラスからの編入というのはあり得ない。まあ、あいつのことだし何かしたんだろうな。
「それじゃ好きなところに座ってくれ」
「はーい!」
元気よく返事すると、フィーはまっすぐにこちらへと歩いてくる。
「よっ。久々」
「久々って程でもないだろ。あれから一週間くらいしか経ってないしな」
「あれ? そうだっけ?」
とぼけたようにそう言うフィー。未だに謎多き彼女の素性はよく分かっていないが、魔神の封印の仕方を教えるとか言ってるし俺の中では一応味方であるだろうという判断を下している。まだ全面的に信用しているわけではないが。
「おっ、クロノの知り合いか?」
「いえ、以前に絡まれたことがあるだけです」
「そう言うなって~。私と君の仲じゃないか」
「まあ、なんにせよ案内とかはクロノに任せた。いろいろと教えてやってくれ」
♢
「改めましてフィーです。よろしくお願いします」
「リーンフィリア・アークライトです。よろしくね」
「カリン・アークライトだよ。よろしく」
「ガウシア・ド・ゼルンと申します。よろしくお願いします」
「ライカ」
その日の昼休み、フィーとともに校内を回ることになった俺達は互いに自己紹介をしあう。
「それにしてもクロノとはいったいどういう繋がりがあったの?」
「別に何も~。ただ気になったから学園祭の時に絡んだだけだよ」
俺に接近してきた本当の理由をそう言って濁す。一応、俺の正体について明かすのは控えてくれているらしい。
「ていうかガウシアのその頭の上に載ってる鳥、見覚えある気がするんだけれど?」
「其方なら我の事を知っていてもおかしくはない」
不思議なところで共感しあう一人と一匹。それにしても世界樹がそんなことを言うなんて、こいつは本当に何者なんだ?
フィーはじっくりと世界樹を見るとやがて合点がいったのか、スッと目を細める。
「なるほど~。確かにね」
「何が?」
「んーん、何でもないよ」
ライカの問いかけにフィーはそう言葉を濁す。
「あっ、ここが学食ね。みんなここで食べる人が多いかな」
「へえ~」
「ていうかまだ食べていないし、お昼食べましょう。学校の案内はそれからでも良いわ」
そうしたリア様の言葉で俺達は食堂へと入るのであった。
♢
フィーが編入してきたその日の夜、俺は中庭にあるベンチで前と同じように腰かけていた。隣には件の女性、フィーがいる。
「それでどういうつもりでこの学園に編入したんだ? 別に魔神教団を壊滅させるだけならわざわざ学園に入る必要もなかっただろ?」
「別に~。強いて言うなら人生楽しみたいからかな。学校に通ったことが無かったから」
「何だそれ。ていうかどうやってこの学園に入れたんだ。実は親が権力者だったりするのか?」
「う~ん、なんていうかそうだけどそうじゃないと言うか。それだけじゃないみたいな?」
相変わらず訳の分からない事を言う。自分でも何を言っているのかがわからないようで首を捻っている。
「まあなんにせよ魔神教団を壊滅させようにも奴らの居場所が分かっていない今はまだこっちから動くことはできないしな」
「さっきから魔神教団を壊滅させる、とか言ってるけど私の目的は魔神を滅ぼすことだからね」
「大体同じことだろ」
「全然違うよ。全然違うんだ」
そう言ってフィーは星が無数に煌めく夜空を見上げる。その横顔はどこか寂しげに見える。
「ま、すぐに動くことにはなると思うよ」
「へ?」
そう俺が聞き返すといつの間にか横に座っていたはずのフィーの姿が消えていた。また能力で逃げやがったか。
「あいつはいったい何者なんだ?」
そう一人ぼやくと、俺は自室へと戻るのであった。
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