第214話 突然の訪問
とある秘境にて、少女が一人で何かを探しているかのような素振りで歩いている。
「確か国王から盗み見た情報だとここら辺にあるはずなんだけれどね」
そう呟きながら歩いている少女の名はフィー。暴食の魔王戦では黒の執行者を演じ、学園祭の時にはクロノと接触した謎の少女である。
「あっ、やっぱりあったね」
そう言って少女が駆け寄る先は高めの壁に周囲を囲まれた何の飾り気のない屋敷である。人里から遠く離れたこんな不便なところに住まうなど余程の変わり者か人目を浴びたくない特別な事情がある者のみである。普通ならば警戒すべきであるのだが、フィーは臆することなく近づき、その門をたたく。
「失礼。ちょっとお尋ねしたいことがあるのですが!」
フィーの問いかけからしばらくしてスーッと門が開き二人の男女が顔を出す。二人とも質素な見た目をしており、一見、一般人にも見えるがこの家に住んでいる者の中に一般人など存在しない。その身には内包しきれない程の力の大きさがうかがえる。
「何の御用ですか?」
女性の方から発されたその問いかけには隠し切れない程の疑念が残っている。それもそうだろう。迷い人であったとしてもこの屋敷に到達するにはいくつもの試練を乗り越えなければならない。つまり、ここにたどり着いた時点で何らかの目的をもってこの場へと足を踏み入れた者に限られるのだ。
そして何らかの目的をもってこの場を訪れる者は限られている。たいていがどこかの国の王族なりその親族なのだ。しかし、目の前の少女の格好はそのどれとも違って、いかにも庶民的な格好なのである。
「少しここの当主に頼みたいことがあって来たのです。お会いさせてはくれませんか?」
「お名前をお伺いしても?」
「フィーと申します」
「少々お待ちを」
そう言うと女性の方が屋敷の方へと戻っていき、男性の方がフィーを見張る。その二人きりの状況が気まずくなったのか、フィーはカバンの中から黒い物体を取り出す。
「それは何だ?」
「私が改良した新・パワードスーツです」
「それで何をするつもりだ?」
「安心してください。別にあなたに危害を加えようとは思いませんよ。ていうか危害を加えるつもりならとっくの昔にあなたは死んでいますしね」
一瞬だけフィーから放たれた殺気に護衛の男性は即座に反応して後ろに飛びのく。その顔には警戒心の中に恐怖が入り混じっていた。
「冗談ですよ。そんなに警戒しないでください」
冗談では済まない、護衛はそんな言葉を口に出したかったが、フィーから垣間見えた大いなる力の圧力への恐怖で口を噤む。
代わりに構えた剣を下ろして、身なりを整える。
「次やればあなたを敵とみなしますよ」
「ごめんなさーい」
まったくもって謝意の籠もっていないその謝罪にいちいち目くじらを立てることはなく、淡々と見張りを続けることにする。内心で、もう一人が早く帰ってきてほしいと願いながら。
「お待たせいたしました。フィー様、ですね。当主様がお待ちです。どうぞこちらへ」
しばらくして戻ってきた女性の護衛がそう言ってフィーを屋敷の中へと案内する。
「こちらの部屋でございます」
フィーがきれいに整えられた中庭を鑑賞しながら歩いていると、前の護衛の女性がそう言って扉を引き、部屋の中へと案内される。そこには一人の初老の男性が座って待っていた。
「あなたがフィーさんですね。どうぞそちらへお座りください」
畳の上に置いてある座布団へ座るよう誘導されたフィーは素直にその座布団の上に正座する。
「それで私にどのような頼みたいことというのは?」
「まず最初にこの部屋から人払いをお願いできますか? 他人には秘匿したい情報ですので」
「なっ!? そんなことが許されるわけが……」
フィーの言葉に先程の護衛の女性が反応する。それもそうだろう。どうして当主が通したのか分からぬ怪しい者と当主を二人きりにさせるなど、護衛からすれば許されることではないのだから。しかし、その護衛の反応とは裏腹に当主はこう告げる。
「ユナ。タイガ。席を外しなさい」
「お館様。正気ですか!?」
ユナと呼ばれた護衛の女性の問いかけに当主はコクリと頷く。
「ユナ。お館様の命令だ。部屋を出るぞ」
「しかし!」
「大丈夫だ。お館様は簡単にやられるようなお方ではない。俺達はその時になれば駆けつければいい」
「くっ」
納得しきれない表情のまま、護衛たちが部屋を出ていく。そうして完全に部屋が二人となったところでようやくフィーが口を開く。
「現グレイス家当主、ライオネル・ゼル・グレイスに問いたい。今代の
先程までの口調とは打って変わった話し方でそう問いかける。見る者が見れば不遜ともとれるようなフィーの発言にライオネルはまるで分かっていたといわんばかりの表情でこう答える。
「……まさか本当のことだったとは。失礼。こちらの話です。それでは私が知る限りの今代の聖女についてお話ししましょう。少し長くなりますがご容赦を」
そうしてライオネルは語り始めるのであった。
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