第202話 謎の人物

「魔神を滅ぼす手段を知りたくないか?」


 そう言われた瞬間、俺は目を丸くさせてそちらを見る。魔神を滅ぼす。以前は魔神を消滅させるには至らなかった。相討ちした時にちょうどヒルトン様が現れて封印には至った。


 目の前の少女はその封印の事を言っているのか? しかし明らかに今のは封印とは違う言い方をしていた。滅ぼす、と。


「知ってるのか?」


「質問に質問で返すのは良くないね。知りたいのか知りたくないのかを聞いているんだけど?」


 そう言うと目の前の少女はベンチから立ち上がって、こちらに手を伸ばす。


「私に協力してくれればその方法を教えてあげる。こっちとしても黒の執行者の力は必要だから特別に無料タダでね」


「……お前は一体何者なんだ? そもそも話はそこからだ」


 安易に握り返そうとした手を止めて、そう尋ねる。そうだ。妙に納得力の高い言葉に惑わされていたが、そもそも黒の執行者の格好をしていた胡散臭い奴に何ができると言うのか。もしかしたら俺の力を利用しようとしているだけの厄介者かもしれない。


「う~ん、今特に話せる内容は無いな~。強いて言えば……」


 そう言うと目の前に居たはずの少女の姿が消える。


「ど、どこに!?」


「ここだよ」


 トンッと背中を押される感触がして後ろを振り返ると、そこに少女が立っていた。


「これくらいの力は出せるよ。どう? 黒の執行者様の不意をつけるくらいの戦力だって思えば優良物件じゃない?」


 一体どういう能力なのだろう? 最初の時も思ったが、いつの間にか消えていつの間にか現れている。レイジーとかいう魔神教団の幹部と戦った時と同じ感覚がするな。


「私の名前はフィー。取り敢えずカード番号とやらを交換しておこ」


「あ、ああ」


 言われるがままにコミュニティカードの番号を交換する。


「連絡、待ってるからね」


 そう言うとフィーと名乗った女性はその場から消える。まるで最初からそこに誰も居なかったみたいに。


 少しして、向こうの方からガヤガヤと音が聞こえてくる。あれ? そういえばさっきはそんな音聞こえなかったよな?


「まあいい。リア様の所へ向かうか」


 心の奥深くで少し引っかかりながら俺はリア様の場所へと足を向ける。コミュニティカードの表示されているところを見るに学園祭の開会式を行ったホールとはまた別の小さなホールの方だな。



 ♢



「ここから先は男子禁制です」


「えっ、ですが俺にはリア様の付き人という大切な使命が……」


「だとしても困ります。色々と服を合わせるのに男性がいらっしゃると不便ですので」


「そ、そんな」


 門番の女子生徒にそう言って止められる。これ以上言っても迷惑をかけるだけだし、公爵家の顔に泥を塗るわけにはいかない。その場は了承し、できるだけ会場の近くのベンチで座り込んで開場を待つ。まだまだ美少女コンテストまでは時間があるようで、これだけでは暇だな。


「あっ、クロノ!」


 その声に頭を上げるとそこには屋台エリアで分かれたカリン達の姿があった。


「あれ? リアはどうしたの?」


「ああ、リア様は美少女コンテストのスタッフたちに連れていかれてこの中さ。付き人としての使命を果たすためにここで待っているところだよ」


「美少女コンテスト……そういえば私達のとこにも来た。断ったけど」


「ですね~。美少女コンテストをやるよりも他の所をもっと周りたいですしね~」 


「我が番人であるガウシアが出れば優勝であっただろうがな」


「まあ、リア様がいらっしゃらなければ確実にそうだったろうな」


 世界樹の言葉にすかさずそう返す。そこだけは譲れないからな。


「ていうかクロノは過保護すぎると思うよ。リアは一人でも大丈夫だしさ」


「それは分かってる。だが、俺はリア様の付き人だ。どんなことがあってもリア様の近くを離れない。それが俺なりの恩返しだから」


 今までリア様は二回も攫われてしまった。どれも俺のせいでだ。俺が持ち込んできた厄介事を打ち消すためには常に俺がリア様の周りを護衛していなければならない。そう思っているのだ。


「でもそれじゃあリアも窮屈だと思うの。もう少し肩の力を抜いてリアに接してあげた方が良いと思うな。リアもクロノに義務としてじゃなくて大切な人として一緒に居て欲しいと思うから」


「窮屈……」


「もちろんクロノが義務だけでリアの隣に居るわけじゃないってことは知ってるよ。でも何もかも付き人だからって言って一緒に居るとそう思えてきちゃうかもしれないってだけだから。ね? 美少女コンテストが始まるまで時間があるわけだし、一緒に回ろ」


 そうか。今までの俺は少し肩に力が入っていたのかもしれない。自分からは見えないものもカリンに言われるとそんな気がしてくる。昔からそうだ。こいつはいつも俺の変化に気が付く。


「分かった」


 そうして俺はベンチに降ろしていた重い腰を上げて、カリン達と共に学園祭を回ることに決めるのであった。

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