第193話 居場所
明日から学園が一時的に開始される。まあまだ魔神教団の一件は終わっていないから恐らくまた停止にはなると思うけど。
「それでセレン。魔神教団が逃げた場所は分かるか?」
夜、公爵家にある自室でセレンに茶を振舞いながらそう尋ねる。
「現状分かりませんね。ジオン達も見つけられてないそうです」
「まあお前が見つけられないくらいならそうだろうな」
茶を啜りながらセレンの言葉に返事をする。セレンの千里眼は意図的に阻害されているところ以外ならどんなところも見ることができる。今回、本拠地が見つかったことによってセレンの能力に対策を講じたのかもしれない。もしくはあそこが本当の本拠地ではなかったから最初から対策をしていなかったのか。
「もう少し探してみます」
「いや別にもう休んでも良いぞ。既に十分なくらい働いてもらったし」
正直言ってセレンから直接的に何かをされたことは殆どない。強いて言えば追放された時にカリンの言葉と言って嘘の言葉を伝えられたことくらいだ。セレンからしても俺の束縛が無くなればもっと自由に生きていけるだろうし都合が良いだろう。
そう思っていると、セレンのティーカップを口に運ぶ動作が停止しているのに気が付く。
「うん? どうした?」
「……嫌です」
「へ?」
一瞬、何を言っているのかが聞こえなくて聞き返す。
「クロノ様に捨てられるなんて嫌です! 私が奴等の本拠地を見つけられないからなんですよね!? だったら今すぐにでも見つけてきますから!」
「おいおいちょっと待て」
勢いよく立ち上がり、今にでも窓から飛び出そうとしたセレンの腕をつかむ。
「そういう意味で言ったわけじゃない。寧ろ感謝しているくらいだ」
「じゃあどうして! どうして私なんか要らないなんて言うんですか!」
「そんなことは言っていない。俺の斥候として働くのはしんどいだろ?」
昔のことだから敢えて口には出さないが元々は嫌いな相手でもあったわけだ。それなりの苦痛を伴っているに違いない。そう思っている。
「はい?」
俺の言葉にセレンの窓から飛び出そうとする力が弱まる。
「だから、俺の下で働くのはしんどいだろうからこれからはセレンが思うように過ごしてくれたら良いって言ってるんだ」
俺がそう言うと、今度はセレンの顔がこちらへと向く。そして一言。
「なら私はこれからもあなた様の下で働きます」
セレンのその言葉に一瞬耳を疑う。
「え? どうしてだ? 自由にして良いんだぞ? 別に俺の下で働くのをやめたって関係性が切れるわけじゃないし」
「私が自由に選んでも良いのでしたら私はあなた様の下で働きます。この立場を他の誰にも渡したくないのです」
そう言うと今度はセレンの方がズイッとこちらへ顔を寄せてくる。
「私はあなた様のために働いて苦痛だと思ったことはありません。寧ろ光栄だとすら思っています。王国騎士が国王のお傍に仕えているのと同じくらい、いえそれ以上に光栄だと思っているのです」
「そんな大層な」
「いえ、あなた様はどの国の王よりも尊い。ご自身でお気付きになられていないだけです。本来であればあなた様が使用人という立場に居ることすら嫌なのです。ですがあなた様はこの家の使用人のままでいたいのでしょう?」
「それはそうだな」
「私もその気持ちなのです」
そう言われてもまだ腑に落ちないところはある。俺は公爵家の皆様に拾われたことで命を救われ、こうして命を捧げている。しかし、俺はセレンの命を助けた覚えはないし、何なら再会したときには攻撃しようとすらしていた。
ただ、俺の公爵家への思いと同じと言われてしまえば断ることはできない。いやまあ、自分から言ってきてくれるのであればそもそも断る気も無かったのだが。
「セレンの気持ちは分かった。ただたまには休んでくれよ? 心配だから」
「はい! ありがとうございます!」
そう言ってセレンの気持ちが落ち着いたようで再びお茶を飲みながら会話を交わす。取り敢えず、今回、セレンの気持ちが知れて良かった。もしかすれば早く俺の下から離れたいと考えているんじゃないかと思っていたからな。
そうして茶を飲み終わったセレンはそのまま窓から出ていくのであった。
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