第182話 リーンフィリア部隊

「てことで私がこの隊の隊長を務めるリーンフィリア・アークライトよ。よろしく」


 兵舎の中に設けられたとある一室でリア様がそう宣言するのを俺は黙って横で聞く。集められたのはジン、アスナ、ゼールの見知った三名と双剣使いのレイである。


「この隊? え? 俺達って公女様の隊へ配属されたんですかい?」


「そうよ。もしかして、聞いてない?」


 リア様の問いかけに一同がうんうんと頷いている。それもそうだろう。リア様が部隊の隊長を務めることもその隊のメンバーも全て公爵様としかやり取りしていないのだから。


「私からご説明させていただきますね」


「頼むわ」


 そうして俺が4人に対して、公爵様とリア様が話し合ったことについて説明を始める。まず、リア様は公爵様との戦いで実際には勝っていないもののそれくらいの実力はあるとして部隊長に任命されたという事。そしてリア様が隊長として4人を選んだことを伝える。


「ということです」


「はえ~、そんな特殊な部隊に一回戦落ちの俺なんか選んでも良いのかよ」


「そもそもあの試験に合格している時点である程度の実力は保証されているし問題ないわ。それに強い人達ばかりを引き抜いたら肝心のお父様の隊が弱くなってしまうもの」


 満遍なく人員を取ったところ、連携力も鑑みてジンたちを取ったという訳だ。レイが加入したのは少し特殊な理由だが。


「それでいつから訓練は始めるのでしょうか? 私なら今からでも」


 レイはそう言うとメラメラと燃え滾るような目でこちらを見てくる。レイは俺と手合わせがしたいからという理由で直談判してきたのである。厳密に言えば、会場で公爵様とリア様の一撃を止めた者が配属される部隊に入りたいと公爵様に要望したのだそう。


 公爵様もリア様に次いで強いレイの要求を無碍にすることは出来ず、このような結果になった。まあ、だからといって困るという訳でもないから別に良いんだけど。


「今日から始めるわ。この人が私の付き人兼指南役のクロノよ」


「よろしくお願いします」


 初対面のレイも居ることだからと丁寧に頭を下げて挨拶をする。


「指南役とはいえ私の役目は主に手合わせをして皆さんの技術的に劣っているところを指摘していくだけですので能力の鍛錬等は自力で行ってください」


 能力の扱い方は人によって違う。俺の能力は少し特殊であるため教えられることは少ない。俺に教えられることは数々の強敵との戦いで培ってきた戦闘技術を叩き込むだけである。


 レイには必要ないかもしれないが、ジン、アスナ、ゼールはまだまだ教えがいがありそうだとも思う。俺の方が年下ではあるが、一応、エルザード家での鍛錬もやってきたわけだし。


「魔神族との戦いまでの時間も残りわずかですし、早速始めましょうか」


 魔神教団との戦いへ公爵様が出兵なさるのは大体今から2週間後である。それまでの短い期間しか鍛錬が出来ないからこそ、即戦力となるような人材を集めたのだ。


 それから部屋を出て、リア様隊専用の訓練場へと向かう。


「ここよ」


 到着した訓練所は部隊が使用するには持て余すほどの広い訓練場である。学園にあるものと同じくらいではないだろうか。これはリア様が特別視されているからという訳ではなく、単純に公爵家の部隊ごとに支給されている訓練場の一つ一つがこれなのだ。


 まあウチが他の部隊よりも少人数な分、一人当たりの使用面積はダントツに広いが。


「これくらいの広さがあるなら大丈夫ですね」


 そう言うと俺は全身に破壊のオーラを纏い始める。勿論、手は抜いている。


「それでは全員でかかってきてください。そちらの方が手っ取り早いので」


 こうして俺による実戦形式の訓練が始まるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る