第178話 決勝
レイとガロウの試合が終わり、公平性を保つために少し時間を取った後でようやく決勝戦が始まる。今までは執事のゴードンが取り仕切っていたが、決勝だけはゼルダン公爵自身が座っていた椅子から立ち上がり、取り仕切り始める。
「それでは試合開始だ」
リーンフィリアを見るゼルダン公爵の目に親の情などはない。ただ対等に決勝戦を迎える戦士として扱っている。それを理解しているリアもあえて何も言わず目の前に佇む戦士だけを直視している。
「武具はどうした?」
「私の武具はちょっと強すぎちゃってね。この試合だと逆に戦いづらいから持ってきてないわ」
決して相手を嘗めているわけではない。リーンフィリアにとって対戦相手に必要以上に危害を加えてしまうガイアの剣を持ちながら戦うというのは慎重にならざるを得ない分、却ってやりにくいのだ。
しかしそんな事情を知らないレイからすれば武具ありの試合で武具を持ってこないというただの舐めプにしか見えないのも事実。二人の間には戦闘が始まる前から火花が飛び散っていた。
「せいぜい武具が無かったから負けたなんて言わないことね」
「大丈夫よ。私が勝つから」
レイの周りに姿かたちが同じ三体の分身が現れる。対するリーンフィリアは全身に光の鎧を纏い、能力によって作り出した光の剣を握りしめる。
そしてどちらからともなく動き出し、次の瞬間には中央で剣と双剣が交じり合う。剣が交じり合った瞬間、リーンフィリアの両側面からレイの分身が襲い掛かる。
「
それをリーンフィリアは2体の分身に向かって光の攻撃を放つことによって防ぐ。防いだ後はただの剣術勝負である。手数の多い双剣を圧倒的な力で吹き飛ばし、レイの身体は宙を浮く。
「
リーンフィリアに詰められそうになったレイは足を踏み外した体勢のまま、もう2体の分身を召喚し、リーンフィリアへと放つ。対するリーンフィリアは一本の光の剣でその2体の分身による双剣を捌く。
「こっちの方が手数は勝ってるのに」
体勢を崩したレイはそのまま受け身を取って立て直しながらそう独り言ちる。彼女の分身の最大数は五体。それが全て場に出ているというのに、肝心なリーンフィリアには未だ一太刀も浴びせることが出来ていない。
それもこれもリーンフィリアの動きが早すぎてレイが付いていけてないことに原因があった。冒険者の中では特にスピードが速いと自負していたレイはその自尊心に少なからずダメージを受ける。
「一気に行くわよ!」
五体全ての分身を伴ったレイがリーンフィリアへと特攻を仕掛ける。
「これなら!」
合計で10本もの双剣がリーンフィリアを襲う。この双剣はレイ用に作られており、その一本一本が全てオリジナルと同じ威力を誇る。普通ならば絶体絶命のピンチであるこの場面でリーンフィリアはスウッと光の剣を天へと掲げる。
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剣から放たれた眩い程の極光が煌めき、分身を含むレイの攻撃の一切が弾かれていた。レイが身を捩り、回避行動をとろうとするが、それを見越してか、リーンフィリアの攻勢は止まらない。
幾重にも連なる剣戟はやがて地面に衝突することによって終わりを告げる。
「終わりね」
「くっ」
リーンフィリアが地面に突っ伏すレイに向かって剣を向ける。完全なるリーンフィリアの勝利であった。
「やめ!」
ゼルダン公爵から制止の言葉が飛ぶ。それでリーンフィリアは試合が終了したと察知し、自身の能力を解き、倒れているレイに手を差し伸べる。
「完敗だわ。公女様がここまで強いと私達の立つ瀬が無いわね」
「そんなことないわよ。レイも強かったもの」
試合が終わり、各々を称え合う。その光景は味方となることが確定しているからもあるだろうが、単純に二人ともが互いの力を認めていたからでもあった。
「リア、まさかここまで勝ち残るとは」
「お父様」
勝利したリーンフィリアの下へゼルダン公爵がゆっくりと歩いてくる。勝利を称えるためではない。今一度、覚悟を確認するためであった。
「さて、トーナメントでは優勝したことだし晴れて私の隊に入隊という事だが、君にはもう一つ選択肢がある。分かるな?」
「ええ、分かりますとも」
「では問おう。私に勝負を挑むか?」
「当然」
リーンフィリアはそう言って口角を上げ、ゼルダン公爵へ挑戦的なまなざしを向ける。ゼルダン公爵もそれに応じる様に笑みを浮かべる。奇しくもそんなところは似た者同士の二人であった。
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