第165話 古代の書物

「タイトルを聞いた感じだとどれも歴史書みたいね。それもグレイス王国の」


 グレイス王国というのは古の時代に世界を統一していた強大国家の事だ。最近、俺の祖父なる人物に聞いたから知っている。


「グレイス王国って大分昔の国だよね? 確か世界を統一してたっていう」


 王家であるクリスはやはりちゃんと知っているようだ。グレイス王家の血を引いている一族の事もきっと把握していることだろう。


「えっ、昔って国、一つだけだったの?」


「そう聞いてるよ。本当かどうかは知らないけれどね。というか世界樹に聞いてみた方が早いんじゃないかな?」


 クリスはカリンの問いに答えるもあまり自信なさげなようで世界樹へと話を振る。


「確かにそうだね。国家は一つしかなかったと記憶している。名もグレイス王国であっておるな」


「だとさ」


「へえ~、凄いね。こんなに広い土地を一つの国家だけで統治できてたんだ」


「これくらいの技術力があるわけだしな」


 先程の属性が付与された人型の機械等を見るに軍事力も相当高かったのだろう。それこそ能力者を相手取っても勝てるほどに。


 それから世界樹の翻訳を交えながら俺達は積んでいる本を次々と読んでいった。だが、書かれている内容はどの時代も似たり寄ったりで、やれ英雄だの時の支配者の功績だの、歴史書としては価値が高くとも興味が惹かれる内容ではないものが多い。


 その中で俺が唯一気になったのは「悪魔」と記載されている一人の男についてであった。それが記載されていたのは一冊の歴史書というよりかは古ぼけた研究日誌の様な物であった。


「悪魔……ああ、あの子の事か」


 そう呟くと世界樹は顔をしかめる。余程の嫌われものなのかあるいは何か別の意味でもあるのか。


「何か知っておられるのですか?」


「うむ。悪魔というのは今で言う魔神の事だな」


 魔神。その言葉を聞いて俺を含む全員が驚く。魔神がそんな古くから存在していたのか。だが確かに魔神について詳しく記載されている書物というのは少ないと聞くし、そんな話があったとしてもおかしくはない。


「詳しく教えてくれないか」


 俺がそう迫るも、世界樹は思案顔となり口を噤む。そして少し間があった後、世界樹の口が重々しく開く。


「我も教えてやりたいところなのだが、あの子についての知識はあまりない。一つ言えることがあるとすれば元々はであったことくらいか?」


「「「「「人間ッ!?」」」」」


 嘘だろ。あんなに凶悪な見た目をしていた魔神が元々は人間だったなんて。いや、最初は確かに人型だったがおおよそ人間が持てる力をはるかに凌駕している。


「なんだ知らなかったのか?」


「知るわけないでしょ!」


「お、おう」


 リア様の言うとおりだ。せいぜい15年程度しか生きていない俺達がそんなことを知るわけがない。というか世界樹以外、魔神が人だったなんてこと誰も知らないんじゃないか?


「でも不思議ですね。元々は人間でしたのにどうして魔神は人間を襲うのでしょうか?」


「それについては分からんが、この書物を読む限りでは悪魔と呼ばれていたこの子は迫害を受ける一方で様々な研究に利用されておったらしいな。その恨みとかなんじゃないか?」


「研究材料、それに悪魔と呼ばれている。もしかしたら魔神は元々それこそ黒の執行者みたいなとんでもない才能の持ち主だったのかもね。誰からも恐れられるくらいに」


「君の言うとおりだね、クリス。『権力者たちは悪魔の力を恐怖していたのだ。いつかその力が自分たちに向くのではないかと。まったくもって愚かな連中よ』だと」


 いつの時代も権力者というのは嫌われているものなんだな。所々に愚痴の様な物が書かれている気がする。


「あっ、ここが最後のページですね」


 ガウシアがページを捲り、その最後のページに書かれている文字を世界樹へと見せる。


「ふむふむ、長々と書かれておるが要はその悪魔が研究室から逃げ出したということらしいな。いかに技術力が発達していようと悪魔を押さえつけておくことはできなかったらしい。ほうほう、よくやったな」


 世界樹は最後のページを読んでなぜか嬉しそうに語る。あの子、と呼んでいたことから何か接点でもあったのだろうか。


「結局、この鉱石については何もわからなかったね」


 全ての本を読み終わり、全員が疲れてぐったりとしている中でカリンが懐にしまっていた鉱石を出す。通話で言っていた奴か。


「少し貸してくれ」


「いいよ」


 カリンから鉱石を受け取り、ぼんやりと眺める。何のことはない、透明な石だ。ただ、妙に興味が湧く。なんだろうこの気持ちは。


「よかったらあげるよ。私は鉱石なんて持ってても仕方ないから」


「本当か? ありがとう」


 透明な石、そして透明な剣。何かできる気がする。そんな理由もない自信がいつになく湧いてくる。


 そうしてある程度海底の遺跡を探索した後、俺達は宿へと戻るのであった。

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