第142話 公爵家の恐ろしさ
「おい、大丈夫だって。弱音は吐いたが俺達に任せとけば少なくともあなた達が逃げ出すくらいの時間は……」
「そうだよ。ゼールが負ける相手がしかも5人もいるの。素人じゃ無理よ!」
後ろからアスナとジンの焦った声が聞こえてくる。それに乗じた形で伯爵たちの顔もニヤッと醜く歪む。
「ほーう、公爵家の恐ろしさねぇ。使用人如きが何をほざいてるんだか。アークライト公爵家も人手が少ないのですかな? 娘の護衛が使用人のガキ一人しかいないなんてねえ!? ワハハハハハッ!!」
「本当ですね。ではその公爵家の恐ろしさとやらをまずは私に教えていただきましょうか!」
ゼールさんを倒した女が笑みを含んだまま、こちらに突っ込んでくる。その特攻はなんの技術もない、ただ能力強度の高さでごり押しするものであった。
そんなものであれば、当然俺が苦戦するはずもない。
「ああ、嫌でも知ることになるさ」
相手が反応できない速度で静かに懐へ潜り込むと、顎を狙って下から上へ打ち上げる様に掌底を放つ。こんな相手に能力を使う必要は無い。
掌底で打ち上げられた女の体はそのまま受け身もとれずに地面に落下してピクリとも動かなくなる。
「うそ、私が手も足も出なかった奴をワンパン……」
「ね? これで分かったでしょ? 私が護衛を一人しか連れていない理由が」
俺が付き人に就任する前、公爵様はリア様が領外へ出るのを禁止していた。それは一重にリア様の安全を守るためである。公爵様がそれを許したのは俺が公爵家で最も強い公爵様に手合わせで勝ってからであった。
「そ、そんなものはまぐれだ! ほら行け、お前達!」
「わかっておりますよ、伯爵様~。彼女は油断していて素人でも対応できるほど緩慢な動きをしていましたからね~。私達4人が本気で連携を取ればあんなやつ一瞬で殺せますよ~」
やけに間延びした声で護衛の中で最も強そうなオーラを放つ男が言うと、残る3人の姿がその場から消える。
「
3人の内、茶髪の女がそう声を発すると、俺の体を人間の腕程はありそうな蔓が随所を縛り始める。
「
「
空気の塊に異空間から召喚された巨大な人間の足の様な物が立て続けに飛んでくる。
ドガアアアンッ!!!!!!
「おっと、やり過ぎちゃったかな~。地下室が壊れないといいけど~」
「ワハハッ、気にするな。ここは大砲が飛んでこようと壊れない優れモノだ。ちょっとやそっとじゃあ壊れんよ」
「それを聞いて安心した」
自身に纏わりついた蔓をブチッと勢いよく引きちぎり、ふうっと息を吐く。ここで生き埋めになるのは不味いから能力を使って地上へつなぐ風穴を開けようと思っていたが、どうやらその心配はないそうだな。
「う、嘘、私達の攻撃がまったく効いてない」
「そりゃそうだろ。俺はリア様の付き人だぞ? こんな雑魚の攻撃で怪我をするわけがない」
俺は蔓を纏わりつかせてきた女の方へ瞬時に移動すると、腹に向かって正拳突きを叩きこむ。続けて攻撃を仕掛けてきた二人の顔面に向かって回し蹴りをくらわす。
三者三様にその衝撃で壁まで吹き飛ばされ、体を大きく打つ。
「よし、後はお前達だけだな」
三人が動かなくなったのを確認すると、伯爵と護衛の
「何も見えなかったんだけど……ジン、見えた?」
「いんや、気が付いたら敵が4人倒れてやがったぜ」
「それだけじゃないわ。あの子、能力を一切使ってない」
「嘘でしょ!?」
リア様にしか見えないとは思っていたがゼールさんには見えていたらしいな。俺が全て能力も使わずに倒していることに気が付いているのが何よりの証拠だ。
「お、おい! どうするんだ! 負けているではないか!」
ここにきてようやく伯爵はその大きな顔を紅潮させて残った一人の護衛に怒鳴る。
「……伯爵さん~、ちょ~っと黙ってもらえます~?」
「なっ、私に向かってなんて口を!」
「良いから、ささっと逃げて欲しいんですよね~、このままだとあんたごと巻き込んじまうからな~。俺の能力は知ってるでしょ~?」
「うっ、わかった。だが貴様にはこの後ちゃんと責任を取ってもらうからな!」
「はいはい~」
そう怒鳴ると伯爵は地下室の階段を登っていく。逃げたか。まあいい。どうせ
「君、強いね~。でも残念。ここまでだよ~。正直言って地下室の時点で勝負は着いちゃってたんだよね~」
そう言うと男の体から薄い紫色の霧のようなものが漏れ出してくる。
「俺の能力は『
「ここにきてそんなのありかよ!?」
「公女様だけでも!」
全員が慌てふためく中で俺とリア様だけは何も動じることはない。
「大丈夫よ。クロノ、行けるわね?」
「もちろんですともリア様。あのくらいの毒でリア様を害そうなど百年早いです」
リア様の信頼してくださっているその言葉を聞いて初めて破壊の力を少しだけ開放すると、勢いよく前方に向かって力を放つ。
「ブレイク」
その瞬間、部屋中に広がろうとしていた毒ガスが嘘のように消し飛ぶ。それだけではない。男の体までもが破壊の力で体を八つ裂きにされてその場に膝をつく。
「ま、まさかそんな……」
膝立ちのまま呆然としている男の傍に近付くと、グイッと男の顎を持ち上げる。
「これが公爵家の恐ろしさだ。分かったか?」
そうして容赦なくその顔面に拳を叩き込むとくるりと踵を返してリア様の下へと戻り、跪く。
「終わりました」
「ご苦労」
これでこの場に居るものすべてがはっきりと理解したことだろう。強敵を駆逐した俺の主が誰なのかを。
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