第105話 エルフの女王
「は、母上!?」
ガウシアに母上と呼ばれたエルフの女王は娘の様子を見てフフッと笑う。
「あらあら、親が娘の様子を見に来るのがそんなに意外?」
ガチャリという音を立てて女王様の護衛が扉を閉める。
「意外と言いますか、後でこちらからお伺いしようと思っておりましたのでわざわざいらっしゃらなくても……」
「んー、ダメね。その話し方。他人行儀すぎるわ。前みたいに『抱っこして、お母様』みたいな感じで良いわよ。別に公の場でも無いんだから」
「いつの話をしているんですか!? それはまだ私が幼かった頃の話でしょう!」
珍しくガウシアが取り乱している。いつもは見せない様子、流石は親子と言ったところだろうか。
そんな取り乱しているガウシアを無視して女王様がこちらに顔を向ける。
「皆さん、碌に挨拶もせずにごめんなさいね。今聞いたと思うけれど、私はこの子の母親のゼクシール・ド・ゼルンと言います。よろしくね」
想像以上にフランクな感じの女王様に少し動揺しながらも一人ずつ挨拶していく。
「お久しぶりでございます。ゼクシール女王陛下」
「あら? クリス殿下じゃない。美男に育ったわね~」
「ありがとうございます」
クリスは女王様と会ったことがあるのか親しげに会話を交わす。流石は王族。
「それでガウシア、あれから調子はどう?」
一通り挨拶が終わると、女王様はガウシアにそう問いかける。
「時折声が聞こえることはありますが、それ以外に変わったことはありません」
「そう。よかったわ」
声が聞こえる? 一体何の声なのだろうか? まあ、王女ともなれば一般人が知らない何か特別な力でもあるのだろう。
「じゃあ邪魔しちゃ悪いから、体調も確認できたしもう帰るわね。学長さんもわざわざ案内してくれてありがとね」
「とんでもありません」
そう言うと、女王様は護衛を引き連れて学長と共に控室を後にする。
「思っていたより親しみやすい人だったわね」
「申し訳ありません。母上は誰に対してもあのような感じですので」
王族としては異常なくらい距離感が近いお方だった。リア様が挨拶をした際には「美人ね~、嫉妬しちゃうわ」と冗談交じりに仰るくらいには。
ヒルトン様に近いものを感じるな、と現1位のお方の事を思い出す。
「そういえばガウシア。女王様がしきりにあなたの体調の事を気にしていたのはなぜ?」
ここで誰しもが疑問に思っていたことをライカが問う。
「確かに私も気になっていたね。何か持病でも持っているのかい?」
「持病……のようなものですね。そんなに大したものではありませんのでお気になさらず」
「……ならいい」
明らかに何かを隠しているガウシアをじーっと見つめた後にそう呟く。ライカはガウシアと付き合いが多い分、心配なのだろう。基本的には無愛想ではあるが別に他者への思いやりがないわけではないのだ。
「皆、そろそろ次の試合の順番を決めたいんだけど良いかな?」
そう言ってセシル会長が用紙を見せる。一回戦と同様、事前に順番を決めて大会運営に提出するのだ。
「さっきクロノ君とリアさんが出られなかったけど、次出たい?」
「俺はどちらでも大丈夫です」
「私は出たいです。体がなまっちゃうといけないので」
「よし、分かったわ。じゃあ先鋒はリアさんで、二番目にクロノ君にしておくわね。それで……」
そうこうして次の試合の順番を決め終わると、タイミングを見計らったかのようにどこからともなくバイブ音が聞こえる。
音の出どころの方を見ると、クリスが震えるコミュニティカードを手にしていた。
「おっとすまない。連絡が来たから少し失礼するよ」
そう言ってクリスが控室から出ていった。
そして言葉通りに少ししてから戻ってくると、俺の肩をトントンと叩く。
「クロノ、ちょっと良いかな。話があるんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます