第86話 魔物に襲われる村

 ほどなくしてコムギ村に到着する。連れてきてくれたあの無口な御者は村の少し手前で降ろしてそのまま帰っていった。帰りはコミュニティカードでまた呼ぶか。バードさんは公爵家の御者だし気軽に呼べないからな。


 そうして村の入り口に行くと二人の男が槍を構えて立っている。今回の依頼は魔物退治であるため、村側も警戒しているのだろう。


「なんだお前ら?」


 俺達の姿を見つけ、真っ先に向かって左の男が声をかけてくる。


「私達、冒険者でして。こちらの村長さんからの依頼を受けに参りました」


 リア様が丁寧に言うと、男は怪訝そうな顔をする。


「村長の依頼だと? 院長の依頼じゃなくてか?」


「はい、そうですけど。ライカ、依頼書を見せてあげて」


「ん」


 リア様に促され、ライカは持っている依頼書を男たちに見せる。


「おい、マジなのかよ」


「見た感じただの子供じゃねえかよ。しかも全員制服を着てるし、学生じゃねえか」


「何だ? 王都の学生の暇つぶしにでも来たのか? 到底あの魔物たちを相手に出来るとは思えねえんだが」


 二人の男たちはコソコソと何やら話している。そして、こちらに向き直るとこう告げる。


「一応村長に確認してくる。お前達はここで待っていろ」


 そう言うと片方の男が村へと走っていく。


「すみません。先程聞こえた院長の依頼って何なのでしょうか?」


「ああ、この村の外れに孤児院があるんだが、そこで子供の失踪事件が相次いで起こっていてな。子供の失踪理由を見つけて欲しいって依頼をそこの院長さんが出したんだ」


 子供が失踪? 普通に考えれば人攫いの犯行だろうが。


「孤児院……」


 ライカが悲しそうにそう呟く。そう言えばライカも孤児院出身だって言っていた気がするな。子供たちが失踪していると聞いて何か思う所があるのだろう。


 それから少しして村に向かった男がこちらに戻ってくる。


「すまない、待たせた。村長の所まで案内する」


 そう言うと、俺達はようやく村の中へ入ることを許される。中に入ると田舎の村にしては珍しく武器屋や料理屋なんかも見える。思っていたよりも生活水準は高いようだ。


 ほどなくして他の家より一回り大きな屋敷へと着く。


「ここが村長の家だ」


 中に入ると小柄な老人が居た。恐らくこの老人がこの村の村長なのだろう。


「ようこそお越しくださいました。立ち話もなんですからどうぞこちらへ」


 そう言って客室へと案内される。


 客室の中には人数分用意された木の椅子があり、そこに腰掛ける様に促される。


「では私はこれで。何かありましたらお呼びください、村長」


「ああ、ありがとうな」


 そう言うと村長の家まで案内してくれた男は部屋の外に出ていく。一通り挨拶を終え、村長が本題の依頼内容について話し出す。


「それで君たちは学生さんらしいね。はっきり言うと今回の魔物は難易度の差が激しいキメラの討伐だ。正直、君達で勝てるのかが心配なんだ」


 さっきから思っていたが、カリンやライカのことを知らないのだろうか? やけに実力を心配される。


「Aランクなら大丈夫。キメラの数は?」


「今まで確認されたのは4体だ」


「ちょうど一人1体ずつ倒すのが効率いいかしらね」


「私はリア様に付いていきますけどね」


「いや、4手に分かれた方が効率良いからクロノ、諦めて」


「しかし、私はリア様の付き人ですので」


「付き人なんだから私の言う事を聞きなさい」


 くそっ、これ以上言ってもリア様の御心は変わらないだろう。ならばささっと倒してリア様に合流するしかないか。


 別にリア様がキメラに負けるかもしれないとは思わない。学園に入ってからのリア様の成長速度はすさまじく既に能力強度は百万を越しているだろうからキメラであっても倒せるだろう。


 しかし、最近では王国内での魔神教団の動きが活発になっている。レイジーの様な奴がここら辺に居ないとも限らないし、それゆえに心配なのである。


「皆さんで1体ずつ倒していった方が良いんじゃないか? 本当に大丈夫かい? 特にそちらの黒髪の少年が、その失礼だがあまり強そうには見えなくて」


「大丈夫ですよ。クロノは普段はこんなだけど強いから」


「こんなとはなんだ、こんなとは」


 褒めてるのか貶してるのかどっちなんだ、それは。というか村長も自己紹介をしたんだからクロノって呼んでほしい。あっ、覚えてないのか。


「取り敢えずキメラがよく出没するところを教えて欲しい」


「分かった。おーい、冒険者さんを案内してやってくれ」


 村長の言葉に反応して先程の男を含む複数の人間が部屋に入ってくる。


 そうして俺達はキメラが出没する場所へと連れていかれるのであった。

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