第87話 奇妙なキメラ

 案内人に連れていかれて、俺達は森の中へと足を踏み入れていく。


「奴等は群れで暮らしているんだが、行動時にはいつも単独なんだ。目的は食料集めだと思う。奴等のせいで何人の同志が……関係なかったな、すまない」


 暫く歩いていくと、案内人はピタリと立ち止まる。


「あそこの洞窟内がやつらの拠点と目されている。俺達はここまでしか案内できない。死にたくないからな」


「案内ありがとうございます」


「健闘を祈ってる」


 それだけ言うと案内人たちは来た道を引き返していく。


「さて、どうしましょうか」


 現状、洞窟内にキメラはいないようだ。これから各自で分れて捜索ということになるのだが、キメラというのは生態が謎に包まれており、どういう行動をしているのかの予想がつきにくい。


 元々、普通の魔物ではありえないような種々の体が歪に合わさった魔物の事をキメラと呼んでいるだけなので、もしかすれば個体によって行動原理が違うのかもしれないし。


「皆で同じ方向を探しても仕方がない。私はこっちから探す」


「分かったわ」


 そうして4人はそれぞれの方角を決めて、捜索を開始する。洞窟から向かって右がライカ、左がカリン。そして、洞窟がある崖を登って右をリア様が、左を俺が捜索することとなる。


「それにしてもキメラがこんなところに出没するとは驚いたな」


 走りながらふと考える。キメラというのは他の魔物と違って人の手が加えられることによって発生することが多く、主な出現場所としては怪しい研究所や犯罪組織の拠点付近なんかだ。こうやってなにもなさそうなところに出没するというのは聞いたことが無い。


 もしかしたら近くに魔神教団のアジトでもあったりして。


 地味に有り得そうだな。


 そうして走っていると遠くの方からおぞましい雄たけびが聞こえてくる。


「いた」


 俺は即座に破壊の鎧を身に纏う。ここでは誰も見ていないため、力をセーブする必要が無いからである。


「さっさと片付けるか」


 今回のキメラは依頼書を読む限りではここ数日でかなりの犠牲者を出しているため、殺すことに一切のためらいはない。


 茂みを抜けると獅子の体に奇妙な翼が生えた獣が目に入る。まだ俺には気付いていないようで絶好のチャンスだと思い拳を振り上げる。


 しかし、その顔を見て一瞬拳を振るうのを躊躇する。


「人面だと……」


 遭遇したキメラの顔は明らかに人の顔をしていたのだ。そんなキメラは見たことが無い。


 ズザッと攻撃しようとしていた体を踏みとどまらせてキメラを凝視する。


 ギャオオオオオオッ!!!!!!


 俺の気配にいち早く気が付いたキメラがこちらに襲い掛かってくる。


「人面だってことに気を取られ過ぎたか。魔物の中にはこうやって人間を油断させる奴もいるって聞いたしな」


 俺の中にあった一縷の迷いを振り払って破壊の力を高めていく。


 しかし俺はふとあることに気が付いてまたもや攻撃を止める。


 どういうわけか、キメラがように見えるのだ。


 訳が分からず後ろに飛び退がり、いったんキメラの攻撃を避ける。


「なんかやりにくいなぁ」


 キメラというのは自然発生型の奴もいるのだが、人工的な要素で発生することが多い。人面と言い、泣き顔と言い、もしかすればこいつの中には人間が取り込まれている可能性がある。


「討伐せずに意識だけ刈り取るか」


 そう考え付いたときには既にキメラは近くまで来て、腕を振りかざしていた。俺は鋭く尖った爪を持つ手を空中に飛び上がって避けると、そのままキメラの後頭部付近にかかと落としを食らわせる。


 かかと落としを食らったキメラはその衝撃で意識を失い、その場に倒れ伏した。


「さて、問題はこいつをどうやって移動させるかだが」


 意識のない巨体をどう運ぶか。3メートルはありそうなんだが。


「まあ、ここに放置していったん戻るか」


 別に運べないことはないが、少し時間がかかるからな。


 そうして俺はキメラの体をそのままにしてきた道を引き返していく。


 やがて件の洞窟の前まで来て、誰かの帰りを待っていると、リア様が向かっていた方向から人影が見える。


 その人影は何かを抱いているような……。


「く、クロノ?」


 現れたのは子供を抱きかかえて困惑しているリア様の姿であった。


「その子供はあのキメラですか?」


「えっ、何で分かったの?」


「なんとなくですけど」


 だとしたらまずいな。残りのキメラも子供の可能性がある。


「ちなみにどうやってその状態になったのですか?」


「普通に光の力を使っただけなんだけど……」


 ふむ、能力を使っただけか……。光は魔を払う力にもなりうる。もしかすれば、リア様の力が邪気を払い、子供の姿を取り戻せたのかもしれない。


「取り敢えず、残りの二人の下へ急ぎましょう」


 そうして俺とリア様は二人が行ったであろう方角に手分けして向かうのであった。

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