第84話 冒険者ギルド

 そんなこんなで俺達は王都にある冒険者ギルドへとたどり着く。中に入ると屈強そうな男女が依頼帰りなのか昼間だというのに酒を飲んでいる。


「ちょっと待ってて。Sランクの掲示板見てくる」


 そう言うとライカは冒険者ギルドの奥の部屋へと行ってしまう。Sランクの掲示板は他の依頼書と混ざらないようにギルドの奥の方に置いてあるらしい。


 取り残された俺達は受付へギルドカードを発行しに向かう。


「すみません。冒険者になりたいのですが」


「はい、わかりました。皆さん学生さんですよね? 学生証を貸していただけますか?」


 俺達の制服を見て受付嬢にそう言われ、学生証を渡す。冒険者になる際に学生だとギルドカードの発行がしやすいと言われたため全員制服を着てきたのだ。


「では、10分ほどそちらでお待ちください」


「はい」


 またもや待っていろと言われたので取り敢えず近くに空いているテーブル席へと腰を下ろす。


「こうしてみるといろんな人がいるわね」


 リア様が周りを見渡してそう呟く。


「冒険者には色々な経歴の人がいますすからね」


 ならず者やヤンチャな奴もいるが、その一方で亡国のお姫様や没落した貴族の子息なんかも居たりする。それゆえに冒険者登録の際に伝える経歴というものに関しての守秘義務は非常に重いものとなってくる。


「なんだかじろじろと見られているような気がするのは気のせいかな?」


 まあ予想していたことだ。リア様は綺麗な人が多い社交界においても一際目立つほどに端正な容姿である。それに加えてかなりの人に顔を認知されているであろうカリンが居る。当然目立たないはずもない。


 そんな視線はここに入る前からずっとあった。


「気のせいじゃないさ」


 カリンの呟きに対して一人の緑髪の男が返事をする。


「誰? カリンの知り合い?」


「いや、私は知らないけど」


「おっとすまない。名乗り遅れてしまったね。僕の名前はラムル。一応ここでAランク冒険者をさせてもらっているんだ。カリン殿をお見掛けしてつい話しかけてしまったのさ」


 そう言って座ったままの俺達に対して丁寧にお辞儀をする。


 話しかけられている当の本人も困惑しながらもお辞儀を返している。


「それで何か用でしょうか?」


「いや、そんなに大した話じゃないんだ。これから僕と一緒に喫茶店か居酒屋なんかに行かないかと思ってね。勿論、そちらの美人さんも一緒に」


 やっぱりというかなんというか。大体の予想通りの回答である。そしていつも俺は省かれている。


「ごめんなさい。今から私達、依頼に向かいますので」


「ああ、じゃあ終わってからでも良いよ。終わったら連絡頂戴」


 そう言ってラムルはコミュニティカードを差し出してくる。カリンが困惑していると男は首をかしげる。


「あれ? 分からないかな? カード番号の交換だよ」


「いえ、それは分かっているのですが初対面の方とは交換できないと言いますか」


 分からないかなとはこちらの台詞である。分からないのかな、嫌がってるんだよ。


「あっ、カードを持ってないんだね。なら仕方ないな。僕が一緒に付いていってあげるよ」


 そう言ってラムルがカリンの腕を取ろうとすると、カリンは持ち前の素早さでサッと躱す。


「できればそういうのは止めていただきたいんですが」


「ええ、良いじゃん別に」


「ちょっとカリンが嫌がってるでしょ。止めなさいよ」


 執拗にカリンに接触しようとするラムルに遂にリア様が立ちあがり怒る。


「あなたAランク冒険者のラムルだったわね?」


「うん、そうだよ。もしかして惚れちゃったかな?」


「そんなわけないでしょ。気持ち悪いからとっとと消えてくれない?って言いたいのよ」


「気持ち悪いだって? 傷つくな~」


 そう言って今度はリア様にターゲットを絞ったのか歩み寄ってくる。それを俺がサッと身を挺して行く手を阻む。


「なに? 君誰?」


「やめておけ」


 先程までリア様やカリンに向けていたものとは質が違う侮蔑の籠った視線でこちらを見てくる。


「僕がAランク冒険者だってわかってのことなのかな?」


「それをそっくりそのまま返すとこっちに居るのは五つの光と公女殿下なんだが、それを分かっているのか?」


「へえ、そこの子って公爵令嬢なんだ。道理で可愛いと思った」


「あなたに言われても嬉しくないわ」


 おおよそ貴族に向けていい言葉づかいではないだろう。しかし、冒険者たちは基本的には貴族に対してもこんな感じだ。それにしても不遜だとは思うが。


「うん、わかったよ。だからそこを退いてくれるかな? 彼女とも仲良くなりたいからさ」


 彼女ともって言っている感じだと既にカリンとは仲良くなっていると思っているらしい。


「嫌よ」


「リア様も嫌と仰っている。さっさとどこかに行ってくれ」


「何で君に言われないといけないんだ。何だか腹が立ってきたな」


 いやなんでだよ。


「ただいま。依頼取ってきた」


 一触即発、まさにその状況下にマイペースに入ってきたのはライカさん。その小さな肩に大きな槌を背負っている。


「それ誰?」


 やっと気づいたのかラムルを指差し、尋ねてくる。


「ああ、何か絡んできた厄介な奴だ」


「絡んできた? なら排除すればいい」


 バチバチとライカの体を雷が迸っていく。


「ら、ライカさん?」


「冒険者は嘗められたら終わり。さっさと片付ける」


 そう言ってライカの指先から放たれたのは一筋の稲妻。それがラムルへと向かっていく。


「ちょ、ちょっと待って……ぐわあああああ!!!!!」


 容赦ない一撃。それだけでラムルは気を失ってしまう。


「一件落着」


「どこがだよ。めちゃくちゃ周りから見られてんじゃねえか」


 元々注目されていただけに余計注目が集まってるじゃねえか。


「すみません、お待たせしました……ん? 何かありましたか?」


「大丈夫です。気にしないでください」


「? そうですか。ではこちらが皆さんのギルドカードになります」


 そう言って受付嬢がリア様、カリン、俺の順番で渡してくれる。どうやらカウンターの奥で作業をしていたため、先程のやり取りは聞こえていなかったらしい。


「ありがとうございます」


「本当に何もないんですよね? そちらに誰か倒れている気がするのですが?」


「大丈夫です」


 満面の笑みを浮かべるリア様にそれ以上追及するのが面倒になったのだろう。受付嬢は首を傾げながらカウンターへと戻っていく。


「それじゃあもう出発しましょう」


 そうして俺達は倒れているラムルをそのままにして冒険者ギルドを後にするのであった。

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