第8章

第83話 冒険者

 グレイスとの1件があった後、それから特に接触はなく普通に登下校をしている。クリスからの連絡も特にない。


 個人的には魔神教団の事は気になるが、リア様をないがしろにするわけにもいかず、またエルザード家が関わっているかもしれないと聞いたこともあり俺から積極的にクリスへその話題を振ることはないし、クリスも察しているのか振ってこない。


 ジオンは一応学校にはちゃんと来るようになっているが、別にこれといって前と変化があるわけではなくクリスと話していることが多い。


「眠い」


「お前はいつも眠そうだな。夜に依頼でも受けてるのか?」


「一応。昼は受けられないから」


 机の上でグテーッと倒れ伏している姿はどこからどう見てもSランク冒険者とは思えないだろう。


「ダメですよ、ライカさん。睡眠はしっかりとらないと」


「とってる。座学の時間に」


「それがだめなんですよ」


 すっかりライカの保護者のようになったガウシアが注意を促すが、本人はこれといって聞いていない様子だ。


「そういえば一度でいいからライカの仕事風景を見てみたいわね」


 唐突にリア様が言う。


「大したものじゃない。魔物を狩って売る。それだけ」


 興味津々のリア様に対してライカはそう返したのちに別に来たければ来ればいいと告げる。


「リア様が行くなら私も行きます」


「クロノも行くの? じゃあ私も行こうかな」


 俺に続いてカリンまでもが付いていくつもりらしい。カリンからしても冒険者らしいことはしていても本職の冒険者を体験はしたことが無いだろうから興味はあるのだろう。


「私はやめておきますね。母上と学長からあまり外に出歩くなと言われておりますので」


「まあ、ガウシアは王女様だから仕方がないわね」


 本来ならば護衛もなしに他国の学校に通う事すら異例とも言える措置なのだ。それくらいの制限があっても何ら不思議ではない。


「せっかくだしギルドカードも作ってみようかな。ライカ、カード発行ってどれくらい時間かかる?」


「個人情報を書いたらすぐ」


「よし、決まりね。じゃあ今週のお休みのお昼に女子寮の前で集合ね」


 ウキウキしながらリア様はそう告げる。


 それにしても意外だな。まさかリア様が冒険者に興味があるとは。


 ちょっと意外な主人の一面を見れたことに少し嬉しくなるのであった。




 ♢




「じゃあ行くわよ!」


 約束の日、リア様が元気よく歩き出す。リア様、カリン、ライカが横並びになる中で俺はそっと後ろに控えながら歩いていく。


「今から行って依頼書なんて残ってるのかな?」


 カリンのつぶやきに確かにと思う。


「人気のある依頼はない。人気のない依頼はある。いつもそう」


「ライカはそういうのあんまり気にしないの?」


「別に。変わらないから」


 ライカからすればAランクの魔物もCランクの魔物も同じ雑魚である。それすなわち、他の冒険者からすれば割に合わない依頼だとしてもライカからすれば労力は変わらないから関係ないのだ。


「でも私は強い魔物を倒した分だけ貰える報酬が多いならそっちの方が良いけどね」


「そのためには早起きしないとダメ。凄く面倒」


「まあ、Sランク冒険者は専用の依頼もありますしね。困ることはないでしょう」


「なんでクロノがそんなことを知ってるのよ」


「昔、冒険者ギルドに入ろうとした時期がありましたからね」


 当時、魔神族との戦いが激化しており、ギルド内も慌ただしかったため子供の戯言だと受け取られて冒険者になることは叶わなかったが。


「そうだったんだ。それもそうだよね」


 カリンは少し悲しそうな声を出す。俺が追放された時のことを一番把握しているからなのだろうがそこまで気負わなくてもいいのに。


 そう口に出して言いたいところなのだが、ライカへの説明が面倒なため敢えて何も言わないでおく。


「というかクロノ。どうしてまだ後ろ?」


「うん? 普通に後ろからの襲撃に備えるためだが」


 何をもっともなことを聞いてくるのだと不思議に思っていると、カリンとリア様もこちらを振り向いて不満そうな顔をする。


「前から思ってたんだけどリアに過保護すぎるよ。もうちょっと友達のように接してあげなきゃいけないと思うんだけど」


「いやだって友達っていうか俺からすれば恩人でありご主人様だからな」


「友達みたいに接してほしいんだけど」


「そう言われましても」


 どん底からすくいあげてくれたリア様に向かって敬語を使わずに馴れ馴れしくする自分を見たら殴りたくなることだろう。


 それほどに忌避感がある。


「それにしてもせめて横に並んで歩いてあげたら? ちゃんと顔を見て会話しないとリアだって楽しくないと思うよ」


「そうよ」


 ムーッと膨れ面をするリア様を見て仕方ないなと思う。元々、俺が後ろに控えるのにこだわっていたのは付き人であるということもあるがそれ以上に過去の事件が影響しているのもある。いわゆるトラウマってやつだな。


 それは直しておいた方が良いのかもしれない。わざわざ公的な場以外で後ろについて歩く必要は無いのだから。


「わかりました。では失礼します」


 リア様の後ろから変わってリア様の左隣に並ぶ。なんだか新鮮な感じだな。


 そっとリア様が俺の右腕に腕を回す。


「お、お気に召しましたか? リア様」


「ええ、とっても」


 少し動揺しながら聞いた俺の言葉に平然と返す。


 そうするとなぜかカリンがリア様の右隣から俺の左隣に来て空いている方の腕に腕を回す。


「お、お前もいきなり何なんだよ」


「べ、別に」


 恥ずかしそうにカリンが言う。


 恥ずかしいならやるなよ。


「私の場所がない」


 ジーッと気だるげな眼でライカがこちらを見てくる。


 なに、この状況。


 後に俺の頭がパニック状態に陥ったため、二人には腕を外させてもらった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る