第14話 入学式②

 ずらっと3人の特待生が一列に並ぶ。男子が一人。女子が二人だ。


「まずは殿下からお願いできますか?」


「大丈夫です」


 学長から殿下と呼ばれたその男子は一歩前に出て名乗り始める。


「私はメルディン王国第一王子のクリス・ディ・メルディンです。特待生という光栄な立場でこの学園に入れること、謹んで喜び申し上げます。皆様には王子として接するのではなく、一学友として接していただければいいなと思っております。これからよろしくお願いします」


 パチンッとクリス殿下が右目をウィンクする。その入学式には似つかわしくない行動は会場内を黄色い声で満たす。


 あれがこの国メルディン王国の第一王子にして天才と呼ばれる男。「竜印の世代」が居なければ間違いなく王国で最強になるだろうと言われている、クリス・ディ・メルディンである。


「では、次は私が」


 クリスが後ろに戻ると、今度は緑の髪の美しい少女が一歩前に出る。


 彼女の長い耳に気が付いたのだろう。生徒たちの間にどよめきが走る。


「ガウシア・ド・ゼルンです。皆様、既にお気づきかもしれませんが私はエルフの国、ゼルン王国の第一王女をやっております。私もクリス殿下と同じく、同級生として接していただければ嬉しいです。よろしくお願いします」


 クリスの時とはまた違った反応だ。まさかエルフの国からわざわざメルディン王国の学園にくるとは誰が思っただろうか。


「す、凄い顔ぶれね。私の新入生代表スピーチが霞んじゃうわね」


「そんなことはないですよ。リア様のお言葉は皆の心に沁みております」


「うふふっ、お世辞でも嬉しいわね。ありがとう」


 リア様のフォローだけは忘れない。


 そして、ガウシアが下がると、最後に白髪の少し背の低い気怠そうな顔をした少女が一歩前に出る。


「……ライカ。よろしく」


 実に簡素な挨拶である。歴戦の猛者感を見せる学園長ですら彼女のそっけない挨拶に若干戸惑っている。


 たくっ、相変わらずだな。


 俺が驚いた人物。それはあの少女のことである。一度、魔神との戦いの際に一緒に行動を共にした冒険者の少女だ。


 冒険者の彼女がいったいどんな目的でこの学園に来たのだろうか?


 嫌な予感がしてならない。


 特待生の3人が空いていた最前列の席に座ると、学園長が閉会の言葉を紡ぎ始める。


「それでは、これで第100回メルディン王立学園の入学式を終わります」


 入学式が終わった。


 これから自分のクラスに移動するらしい。


「おい、貴様!」


 リア様と一緒にSクラスへ向かおうとしている俺の背に誰かの声がかかる。


 振り返ると、そこには以前俺が決闘で叩きのめしたガザールが居た。そう言えばこいつも学園に入学したと言っていたな。


「あっ、リーンフィリア公女殿下。本日もお美しくいらっしゃいますね」


 ガザールは明らかに不機嫌そうなリア様におべっかをのたまうと、こちらに顔を向けてくる。


「おい、平民。貴様何クラスだ? もしかして、Dクラスじゃああるまいな?」


 ニタニタとにやつきながら俺のクラスが何処かを聞いてくる。


 前、決闘で負けたはずなのにどうしてこうも上から目線で来れるんだろう。


「私はリア様と同じクラスですよ」


「お、同じクラスだと!? と、ということは……」


「ええ、クロノもSクラスよ。というか合格発表の時にあれだけ高順位なんだからSクラスに決まっているでしょうに」


 リア様が勝ち誇ったように言うと、ガザールはくそっと言ってどこかへと行ってしまう。あの男はいったい何がしたいのだろうか。


「前も思いましたがリア様を前にあの逃げ方はどうなのでしょうか」


「そもそも平民だの貴族だの言っているような方だもの。礼儀なんて無いようなものじゃない?」


 今日もリア様の毒舌が牙をむく。


 俺はいい気味だと思いながら自分のクラスへと向かうのであった。

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